僕が五年前ぐらいに山で体験した時の話をします。
僕はその時ある山を登っていました。ある山とは神社の裏にある山のことで初詣に来た時にその山の存在を知りました。
神社の入口にある全体マップ図には山の頂上には小さく奥寺と書かれています。
当時休日で暇を持て余していた僕はふとその山を登ることに決めました。
僕は山をなめていました。神社の裏にある山なんて山といっても大したことないだろうと甘く考えていたのですが登っても登ってもなかなか頂上に着きません。
昼過ぎ15時ぐらいの時点でようやく山の中腹付近。登り始めたのが10時ぐらい。頂上に着く頃にはすっかり夜になっていることでしょう。
僕は悩みました。続行か断念か…。悩んだ際に決めたのが続行でした。このまま引き返してしまってはせっかくの休みが一日無駄に潰れてしまうというのと頂上にさえつけば休める(寝れる)とこもあるだろうと安易に考えていたからです。
今思うと夜の山で一人で一日過ごすという時点でかなり恐いのですがその時は部活で体を鍛えていたのもあり無駄に自信に満ち溢れていたような気がします。
夜18時くらいにはすっかり日も暮れて山全体が暗闇に包まれます。冬のせいか虫の声一つ聞こえません。
予め用意していた懐中電灯にスイッチを入れ一歩前の山道を照らし黙々と歩き続けます。
その時僕は激しく後悔していました。恐すぎです。懐中電灯の光以外何も見えない何も聞こえない。自然と足は恐怖のせいか早足になります。
おかしい…。そう気付き始めたのは20時半くらいだったと思います。山の中腹まで大体5時間ぐらい。それからもう5時間半ぐらい経っています。
しかも前半よりも後半の方が早いペースだったのでもっと早く着いてもいい筈なのに…。
もう勘弁してよ~と半泣き状態になりながらも黙々と歩き続けます。
その時それは起こりました。僕は頭が真っ白になりました。一歩前を照らす懐中電灯の光の中に凸凹とした山道以外のものが入っています。それは二本の人間の足でした。
懐中電灯の光の中に入っているものはまぎれもなく人間の足なのですが僕はその足の持ち主が生きている人間ではないと確信しています。
その二本の足は揃って立っています。普通歩いている場合は片方の足が前に出ている訳ですから二本揃って光の中に入るなんてことはありえません。
つまりその足の持ち主はこの真っ暗闇な山の中まるで僕を待ち伏せしていたかのようにずっと立っていたことになります。そしてその足は両方ともこの山道に関わらず裸足でした。
その状態からどれぐらい経ったでしょうか。5分ぐらいのような1時間ぐらいのような。よく覚えていません。
僕は全く動けずにいます。前に進もうにもその二本の足の横を通り過ぎなければいけない。後ろに進もうにも山を降りるのにどれぐらいの時間がかかるだろうか。懐中電灯の光を上に向ければその足の持ち主の姿が見れるだろうけど怖くて出来る訳がない。
金縛りなのか選択肢がないからなのか体は全く動かない。動かせない。絶望でした。
すると懐中電灯の光の中の上の方から他のものがぞぞぞっとゆっくり映りこみます。それは人間の後頭部でした。
髪が長く髪の一部が地面に付いている。足も細く何となく女性だと思いました。
前に向けて揃った両足。光の上の方から後頭部。まるで深々とお辞儀をしているような姿。その時から僕がずっと思っていた言葉は一つだけ。
振り向くな
しかしその願いは届きませんでした。その後頭部はゆっくりとゆっくりと首を回しながらこちらに顔を向けてきます。
顔を半分ぐらい向けたでしょうか。幸い?長い髪が邪魔して顔は殆ど見えません。ただ口元は歯がむき出しになって怒っているように見えました。
まだゆっくりとゆっくりとこちらに顔を向けてきます。
そこで僕の意識は飛びました。起きた時にはすっかり日が明けていて寝ぼけていた自分はまだあまり状況を掴めていません。
口の中に何かが入っています。口に手を入れて出してみるとそれは長い髪と爪がいくつも入っていました。
昨日のことを思い出し僕は吐きました。そして逃げるように山を降りました。
降りる途中で気付いたのですが僕は山の中腹から1時間ぐらい進んだ所ぐらいで倒れていたみたいでした。
僕は昨日途中から残り4時間半ぐらいどこを歩いていたのでしょう?あるいはその足の持ち主にそこまで担ぎ込まれたのでしょうか?
真相は分かりません。
怖い話投稿:ホラーテラー もっこりつよしさん
作者怖話