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引っ越し屋での嫌な思い出

中編7
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引っ越し屋での嫌な思い出

引っ越し屋でバイトをしていた時の話。

引っ越し屋で働いていた時、俺は階段を走るのがめちゃくちゃ早かった。

スピードなら引っ越し屋でナンバー1だった。

だが荷物を破損することが多かった…

自分では丁寧にやってるつもりなのだが…

そんなタフネスとスピードをかねそろえた俺を、先輩達は、

クラッシャーバカと呼んでいた。

まあこれは余談だ。

2トントラックのドライバーだった俺は、毎日、大体三件の家の引っ越しを担当させられた。

だから三件目の引っ越しになると、結構遅い時間になる。

その日は、引っ越しでのアルバイトが初めての新人さんと俺との二人で、三件目の引っ越しに向かっていた。

新人さんは、見た目はヤンキーなんだが、いざ引っ越しをやらせたら一件目でグロッキーになり二件目からは全く使い物にならなかった横着さんだった…

俺は新人さんに気を使って言った。

「三件目の積みは一階だからさ、トラックの荷台でずっと休んでていいからね。」

新人さんは苛立ちながら言った。

「言われなくても、もう俺体が動かないっすよ。」

大人な俺は黙って頷いた…

三件目の積み地は、アパートの一階だった。

俺はアパートのドアをノックして言った。

「すいません、〇〇引っ越しセンターですが、遅くなってすいません。」

するとアパートのドアが開き、見るからに神経質そうな男が出てきた。

男はあからさまに俺を睨みつけ言った。

「ずいぶん遅かったですね…早く終わらせてください。」

俺はイヤミや皮肉はもろともしない。

「すぐに終わらせますんで、まかせてください!」

そう言って、部屋の中の荷物を見に行った。

部屋の中には、神経質そうな男に似合いそうな、神経質そうな女がいた。

どうやらカップルで住んでるらしい。

俺は女に軽く会釈して、部屋の荷物を確認した。

荷物は見積り書より少なかった。

俺は二人に「じゃあすぐに始めますね」

と言いトラックに戻ったのだが、トラックに戻ると愕然とした…

新人さんが寝転がってタバコを吸っていたのだ…

「え?もうやるんすか?」

新人さんの言葉に、危うく俺のクラッシャーパンチが炸裂する所だったが、なんとかふみとどまり、かくして、引っ越し屋で最も嫌な思い出となった引っ越しが始まった。

荷物をトラックに積み終えるのには、一時間もかからなかった。

新人さんは俺がトラックまで運んだ荷物を、トラックの荷台の奥に押し込む作業を、それなりに頑張ってくれた。

荷物が積み終わり、俺はお客さん二人に言った。

「じゃあ降ろし地に向かいますんで、降ろしもソッコー終わらせますんでまかせてください!お客様は電車か何かで行くのですか?」

神経質そうな男は、面倒くさそうに「はい…」と答えた。

「じゃあお客様の方が早く着きますね。

我々も急いで行きますんで。」

トラックに戻ると、新人さんが片付け作業をしていた。

(あいつもそれなりに頑張ったなあ…

コーヒーでもおごってやるか!)

俺は自販機で二人分のコーヒーを買った。

降ろしも一階だ。

あいつは車の中で休んでてもらおう。

俺がそんな事を考えてると、後ろから女の人に呼ばれた。

「あの…ちょっとすいません…」

振り返ると、その女はさっきのお客さんだった。

神経質そうな女が俺に話しかけてきた。

「あの…すいません。私、彼に置いていかれちゃって…引っ越し先の住所がよく分からないのです…

もし良かったら、トラックに乗せてもらえませんか?」

彼女を置いて行くとは、酷い男だ…

だがトラックにお客さんを乗せてはいけないと会社から厳しく言われている…

俺は必死でお願いする女に言ってやった。

「ああ、いいですよ!汚いトラックですけど乗せて行きますよ。」

別に会社の為に働いてる訳じゃない。

困ってる人は助けるもんだ。

俺は片付け作業をしていた新人さんの所へ行き言った。

「お客さんが助手席に乗るから、お前は荷台に乗ってな。

コーヒーやるからさ…タバコも吸っていいからね…

ごめんな…」

新人さんはそれほど嫌な顔はせず、

「いいっすよ!俺、荷台で寝て行きますんで。」

と言い荷台の中に入って行った。

俺はトラックの荷台を閉めて、お客さんの女に言った。

「んじゃ行きますか。助手席に乗ってください。」

女はイソイソと車に乗り込んできた。

30分もあれば着くだろう。俺はトラックを走らせながら、女に言った。

「置いて行くなんて酷いですね…」

すると女はいきなり泣き出し、そして男に対しての愚痴を言い出しのだ。

そして散々に愚痴った後、大きな声で言った。

「いつか殺してやるんだから…」

女の言葉で、車内はどんよりとした空気になった…

男に、おいていかれたのが、相当悔しかったんだろう。

可哀想に…

俺は車内の雰囲気を変えるため、女に恋愛とは何かを、ちょっとした小噺をおりまぜて聞かせてやろうとした。

「お姉さん、恋愛とはさ、まあ例えるなら…」

俺が話を始めると、女は俺の方を見つめて言った。

「うるさい!ちょっと黙ってて!」

…俺は、極力運転だけに集中することにした。

道がすいていたこともあって、降ろし地のアパートには結構早く着いた。

俺はトラックを止める場所を探そうとアパートの周りを見に行くと、お客さんの男はもう部屋の前に立っていた。

そして俺を見つけると苛立った声で言った。

「遅かったですね…

早く終わらせてください。」

それしか言えねえのかよ、と思いつつも、俺はイヤミや皮肉はもろともしない。

「もうチャチャッと終わらせますんでまかせてください!」

俺はそう言ってトラックに戻った。

トラックに戻ると、女はいなくなっていた。

(お礼くらいあってもいいだろ…カップルそろって無礼なやつらだ…)

俺はそう思った。

降ろし作業も、一時間もかからなかった。

アパートの一階だったし、新人さんもそれなりに頑張ってくれた。

引っ越しが全て終わり、俺は引っ越し作業代金を支払ってもらうため、必要書類を持って部屋に行った。

新人さんは、完全に疲れきって、助手席で寝ていた。

「じゃあ引っ越しが全て終わりましたんで、集金の方よろしくお願いします。」

俺が玄関先で言うと、男はムッとした表情ででてきた。

だが、女の方が出て来ない。

普通、最後はカップルで

「ご苦労様でした!」

だろう…

そう言えば荷物を降ろしてる最中もいなかったなあ…

俺は男に聞いて見た。

「あれ?彼女さんがいないみたいですけど…

俺らがトラックでここまで乗せてきたんですけど…

どこ行っちゃったんですかね?」

それを聞くと、男はいきなり怒りだした。

「お前…女を乗せてきたって?女があのアパートにいたって?

ふざけるな!!

お前全部知ってるんだろう!

知ってて俺をおちょくってんだろ!

マジでぶっ殺すぞ!」

俺は(うわ―)と思った…

こういう人が一番怖い…

とにかく集金して早く帰ろ。

訳の分からない恐怖が俺を包んでいた…

男は怒鳴ったかと思うと、今度はいきなり沈んだ声になり、力なく俺に聞いた。

「なあ…女はなんて言ってた?

俺の事なんか言ってたか?」

俺は訳が分からなかったが、一応女が言ってた事をそのまま伝えた。

「えーと、あなたの事を愚痴ってましたよ…酷いやつとか冷たいやつとか…

ああ、後ですね、いつか殺してやるんだみたいな事も言ってましたよ…

もう―、おいていくからー、

参りましたねハハハ…ハ…」

俺がそう言うと、男は頭を抱えてうずくまった…

そしてガバッと起き上がると、自分の携帯を取り出しどこかに電話をかけ出した。

俺の目の前で、男は誰かと話していた。

いやがおうでも声が聞こえる…

(…警察ですか?…はい…僕…人を殺しました…はい…はい…いえ…彼女です…いえ…引っ越し先は…)

男は電話を切ると、虚ろな目をして玄関に寝転んだ。

俺が何を話しかけても返事をしない…

とりあえず代金は受け取っている。

俺は、

「じゃあ…ありがとうございました…」

そう言ってアパートを後にした。

トラックに戻ると、新人さんはもう起きていた。

そして俺に言った。

「遅かったっすね、ご祝儀出ました?」

俺は、今あった事をそのまま説明した。

「いや…出なかった。なんかいきなり怒り出して…女をトラックに乗せたのが悪かったらしい…

警察に電話し出したから帰ってきた…」

新人さんは、しかめっ面で言った。

「もう、ホント先輩は仕事ができないっすねぇ…」

俺は、クラッシャーパンチを炸裂させる元気もないままに、営業所までトラックを走らせた…

事の真相がわかったのは次の日だった。

昨日のあの男が、新聞に載っていたのだ…

記事の内容によると、男は女を殺害し、アパートの床下に埋めたらしい…

そしてそのまま3ヶ月も放置してたらしい…

事件は男の自首により発覚したと書いてあった。

俺は思った。

男に殺されても、なお男について行った女の気持ちを…

(いつか殺してやるんだから…)と言いつつ3ヶ月も男を生かしていた女の気持ちを…

まだ…きっと好きだったんだなあ…

俺は一人呟いた。

「恋愛ってのはさ、まあ例えるなら……」

その時どこからか

「うるさい!ちょっと黙ってて!」

と、聞こえた気がした…

怖い話投稿:ホラーテラー ビー玉さん

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