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短編2
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山のなか 2

私は女性に肩を貸し、山を下り始めました。

その道すがらで少し聞いたのですが、案の定女性は山菜を取っていたところを、

横合いのブッシュから飛び出してきた羆に突然襲われたそうです。

一応持っていたタオルで止血はしましたが、それで傷が治るわけではありません。

苦痛に顔を歪め、息も荒く、大怪我をしている女性に話を長々とさせることはできませんので、

この辺りは断片的に聞いた情報を元にした私の予想になるのですが、

恐らく女性は飛び掛かられながら顔面を羆の腕で叩かれたのでしょう。

もちろん女性の首がついているのですから羆も全力ではなく、撫でる程度の力だったのでしょうが、その程度の力でさえ人間の顔は割れるのです。

また羆は人を襲うとき、なぜか服を剥ぎ全裸にするといいます。

のし掛かられながら爪で服を剥ぎ取られる際に、

肩の骨が折れ、腕の肉も裂けたのでしょう。二の腕辺りは肉が削げて骨も見えていました。

また女性が重傷ながらも生きてここまでこれたということは、

恐らく女性は一瞬の隙をついて羆避けスプレーかなにかで羆を撃退し、無我夢中で逃げてきたのでしょう。

しかし脱力した人間の重さというものは大変なものがあり、

完全に脱力している訳ではありませんが、力の抜けた女性に肩を貸しながら、

還暦の私が山道を下るのは容易なことではありませんでした。

一歩、また一歩とよろけながら進んでいましたが、地を一足踏むごとに私は、脳裏で最悪の事態を想像していました。

一度人の味を覚えた羆は何度でも人を襲うといいます。

捕るのに手間のかかる動きの早い野生の動物や鮭などと違い、

愚鈍なのに肉付きも良く栄養価の高い内臓を沢山持つ人は、羆にとって最良の食料なのでしょう。

女性の腕の怪我。肉が削げ落ち、骨が見える部分。

その部分はただ爪でえぐり飛ばされただけなのだろうか?

羆がその部分を喰らったのでないだろうか?

もし喰らったのであったら羆にとって女性はすでに自分の食料です。

一度は羆避けスプレーで逃げたものの、羆が逃げた食料を追って来るのではないだろうか?

女性から発せられる血の臭いは、私の脳内の想像に現実の肉付けをしていきます。

恐怖のあまり胃酸が食道をかけ上がり、何度もえずきました。

どれぐらい歩いた頃でしょうか、早く町に出たいと願い歩む私たちの後方で……

ガサッ!

と音がし、気付けば辺りには濃厚な獣臭が立ち込めていました。

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 秋さん  

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