妹が中学生だった頃の話だ。
妹は中学にあがってから急に色気づき、オシャレだの流行りだのとうるさくなった。
ド田舎で必死に時代の最先端を追い求める姿は滑稽ですらあり、都会の情報にくねくねと踊らされる様は哀れでもあった。
日に日に容姿どころか言語までおかしくなり、家族でさえ何を言っているのかもよく分からない。
気付けば茶色いダダになった妹に畏敬の念を抱きながら、まぁヒマなんだろうと放っておいた。
そんな妹がある日、仲間をぞろぞろと引きつれて帰ってきた。
誰が誰だか区別がつかない。
たまたま仕事が休みで家にいた俺は、ちょっとイライラした。
休みかよウッゼェ〜という一言を残し、妹と仲間たちはドカドカと家に上がり込んだ。
居間を占領し、仲間の一人が何やらビデオテープを鞄から取り出す。
するとそのビデオテープに向かって、みんなワーワー騒ぎだした。
「ヤッベェ〜し!マジヤッベェよ!」
俺は彼女らの様子をただじっと眺めていた。
「イっちゃう?イっちゃう?はいイったー!!」
その掛け声を合図に、テープが再生された。
女だらけでAV鑑賞会じゃあるまいな…と若干の不安を抱きつつも、俺はちょっとワクワクしていた。
最初に画面に映し出されたのは、「赤ずきん」というタイトルだった。
陽気な音楽が流れ、文字が消えると同時にどこかの学芸会みたいな場面に変わった。
段ボールに景色を書いただけのものが所狭しと置かれている、幼稚園のお遊戯レベルの舞台。
観客がいるような気配もなく、音楽も止まった。
しばらくそのままの画面が続き、やがて誰かが両端から現れた。
一方は狼のお面をかぶった男性、もう一方はお婆さんのお面をかぶった女性だった。
二人が舞台の中央で寄り添うと、その会話らしき声が聞こえてきた。
赤ずきんちゃん、見ーつけた
見ーつけた
パパね、すごく心配したよ
ママもね、すごく心配したの
早く劇の続きやらなきゃね
今、迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
迎えに行くからね
気が付いた時には、目の前に母がいた。
妹もその仲間の姿もなく、テレビも電源が付いてなかった。
「あれ?えっ?どうしたんだっけ俺?」
「あー起きた?とんだ災難だったねーあんた。」
茫然とする俺に、母は険しい表情で事の真相を説明した。
「あんた達が見たのはね、故人の遺品だよ。〇〇〇のあたりに今も献花がされてる。お菓子とか手紙とかと一緒にね。そこから勝手にテープを持ち出してきたんだよ。置いてあったから気になったなんて、冗談じゃないね。あんなことになったのも自業自得。」
妹とその仲間は、後日丸刈りになって帰ってきた。
お祓いをうけたらしいが、見た目も普通の中学生らしいものに戻され、えらく地味になっていた。
また、遺族へ謝罪にも行ったらしい。
我が家とは全く関わりのないお宅だったが、母が調べて見つけたようだ。
快く聞き入れてもらえたのかどうかは知らないが、謝罪から帰ってきた妹は泣いていた。
落ち着いてから何となく妹に聞いてみたところ、ビデオに映っていた二人と思わしき人はいなかったそうだ。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話