私の母が体験した話です。
全く怖い話ではないので
ご了承ください。
2年程前の大晦日、実家のお隣に住んでいたおじさんが亡くなりました。
私は当時大学1年でした。
骨の芯まで冷えこむような大晦日の早朝、家とお隣を隔てる小川にほぼ下着に近い恰好で両足を浸し、
雪の上に仰向けになって亡くなっていたところを私の母が発見したのです。
驚いた母はおじさんの名前を叫びながら駆けつけたのですが、
すでに亡くなっていたそうです。
原因はなくなる前夜酔っぱらって外に出たところ雪に足を滑らせて川に落ち、そのまま亡くなったたのだろうということですが、
本当のところはよく分かっていません。
救急隊や近所の人たちの騒がしさに起こされて、私は眠気眼で家族に聞きました。
私「どうしたのこの人だかり、なにかあったの?」
母「今朝お隣のおじさんが亡くなった。あんたは向こうに行ってなさい」
当然ですが突然のおじさんの訃報に驚きを隠せませんでした。
私が生まれたころからおじさんは、ずっと古い一戸建ての家に一人で暮らしていました。
私の実家は田舎ということもあり近所付き合いはかなりあるので、
おじさんもしょっちゅう家に世間話をしがてらお茶を飲みに来ていました。
いつかの正月には私や姉にお年玉をくれることもありましたが、正直言って家の者からはあまり好かれていませんでした。
というのも、おじさんはよく暇さえあれば家の中を覗こうとしたり、家の洗濯物が干しっぱなしになっていると、「取り込んどいたよ~」
などと言って洗濯物を抱えて家の中に入ってくることもある、変わった人でしたから。。
私も家でゴロゴロするにもおじさんが覗いているんじゃないかと考えたら、なんとなく落ち着かない時がよくありました。
(実際覗いたおじさんと目が合ったことも汗)
そんなおじさんが亡くなったと聞いて、おじさんには大変申し訳ないのですが、
驚きはしても悲しいという感情は湧きませんでした。
おじさんが長年独り暮らしの理由は、昔ギャンブル好きで浮気癖もひどかったため、奥さんと二人の子どもに愛想を尽かされて出て行かれそれっきりというものでした。
子どもたちもおじさんを嫌って、訪ねてくることは一度もありませんでした。
が、それでもさすがにおじさんの訃報を聞いた長男が東京から20年ぶりに遺品を整理しにやってきました。
手伝った母の話だと家の中はひどく荒れていて、生前健全な生活を送っていたとは思えなかったそうです。
おじさんが亡くなって年も明け、数日経った朝母から不思議な話を聞きました。
母「今日の朝方変な夢をみたのよ。それも亡くなったおじさんが出てきて」
私「え、本当に?どんな夢見たの」
母の夢は以下のようなものでした。
夢の中で、母はおじさんの家の中に立っていました。
部屋の中は、現実の荒れて暗い雰囲気とは異なり、物がなくがらんとしていて明るかったそうです。
そこにどこからともなくおじさんの声が聞こえてきました。
「お花をください」
悲しみも怒りも感じさせない、淡々とした声色だったそうです。
母はお花をあげなくてはと思い、どこからか摘んできた花を家の中に供えてあげたそうです。
するとまた声がしました。
「お水をください」
母はまたコップに水を汲んできて、その場に置いたそうです。
そして気配を感じて振り返りましたが、そこにおじさんの姿はなく
代わりにいつもおじさんが日向ぼっこしていた縁側の白いカーテンが、ふわふわと風に揺れていました。
そこで目が覚めたそうです。
母は、普段怪談話やその類の話をしたことは一度もなかったのですが、
「亡くなった人は喉がとても渇くと聞いたことがあるから、お水を下さいといわれた時は渇きを癒してほしくて沢山注いだ」
と言っていました。
そしてその話の後、母と私は正月の料理とお酒、水を持っておじさんの家の前にお供えしに行き、手を合わせて冥福を祈りました。
おじさんの葬式はいまだあげられていません。
というのも、おじさんは生前自ら献体の手続きをしていたらしく、その仏は現在地元国立大学の医学部に保管されているそうなのです。
私は、おじさんが自分が亡くなったところで引き取りに来てもらえるのかわからない家族のことを考え、
自らそのような道を選んだのかなと思い、すこし人生の寂しさを垣間見た気がしました。
そして廃屋になった家も取り壊され、この春新しい家が建ち人が越してくるそうです。
自分が存在していた証も壊されて無くなるということも、また違った寂しさを感じました。
生前は好きじゃなかったおじさんですが、私はいまだに実家に帰るたび思い出し、
亡くなっていた場所に野花を摘んで手向けるということを、密かに続けています。
長くなってしまいすみません。
読んでいただきありがとうございました。
怖い話投稿:ホラーテラー Qたろこさん
作者怖話