ある解体現場での話
カーン、カーン……
男は鶴嘴(つるはし)を地面に叩き続けていた
この現場で作業を始めて3日目…
男の苛々はピークに達していた…
元々、男は何かを造る仕事がしたかった……
皮肉にも今は真逆の仕事をしている…
男「ちっ!!こんな事して何になるんだ!!!」
男は遂に鶴嘴を投げ捨て、地面に座り込んだ……
男「どうせ壊したところで、また新しい物を誰かが造るんだろ!?何の為に俺達が汗水垂らしてこんな事しなきゃならねーんだよ!」
男は日頃から溜まっていた思いを吐き捨てた……
そんな男に、屈強な体つきをしたこの現場の責任者が近づいた
男「親っさん……」
親っさん「まぁ、そう言うな…」
「お前の気持ちはよく分かる……俺も若い頃はそんな風に毎日イラついていた…」
男「親っさん…、俺にはもう何が正しいのか分かりません…造っては壊し…また造っては壊す…人間って奴は何を考えているんでしょうか?」
親っさん「そうだな……、そういえば、ここにまた新しい建設案が出ていたな…」
男「ほらみろ!結局壊したところで何の意味もない!!誰も俺達の苦労を知ろうともしない!」
親っさん「昔な、お前みたいに自暴自棄になった奴がいたよ…そいつも、この終わりのない作業の繰り返しに耐えられなかったんだろうな……」
男「そいつの気持ち……、スゲー分かります」
親っさん「でもな、そいつはこの仕事を辞めてすぐに死んだよ…、俺達には結局この仕事しかないんだよ……分かるか?」
男は俯きながら頷いた…
親っさんはニッコリと笑い、自分の首に巻いていたタオルで男の額の汗を拭ってあげた……
親っさん「頑張ろう!この現場ももう少しじゃないか…!」
男達は仕事を再開した……
自分達のプライドの為に…
カーン……カーン………
現場には、また鶴嘴が地面を叩く音が鳴り響いた…
時を同じくして……
「あら〜、進んでますね…」
「じゃ、削りますね〜痛かったら右手上げて下さい!」
こうして、俺達が壊した歯はまた歯医者によって治される…
今日、歯医者に行った時に思い付いた妄想でした……
もし、口の中でこんな事が起きていたら……と考えると、虫歯には気をつけたいですね
今、虫歯がある方……大丈夫ですか?口の中から何か聞こえてきませんか?
ありがとうございました
怖い話投稿:ホラーテラー 猛壮さん
作者怖話