子供の頃の話。
私にはA君という仲のいい友達がいた。
彼との遊び場はたいてい近所の神社で、
いつもそこで待ち合わせをしていた。
神社といっても、神主のいない荒れ社で、
時おりボランティアで近所のお婆さんが掃除をしていく程度の、
ひと気のない神社だったが、
ただ気になる話があった。
それは度々顔を合わせていたそのお婆さんから、
A君を待つ間に聞いた話なのだが・・・。
曰く、この神社には天狗が出る。
1人で遊んでいるとさらわれてしまうぞ・・・。
当時まだ小さかった私は、
それなりに怖がった。
今思えば案に、
「子供がこんなひと気のない所で1人でいると危ないよ」
という気遣いだったのだろう。
だが、怖いものは怖い。
A君はいつもお婆さんと入れ替わりになるようにやってくるので、
正直、A君が来るまで1人になるのが、
たまらなく不安だった。
そんなある日、A君がこんな提案をした。
「この社、誰もいないのなら、秘密基地にしないか?」
この社とは神殿のことなのだが、
私はとにかく嫌がった。
例の話もある。
信じたわけではない。
でも不安だった。
「境内には他にも遊べる所が、たくさんあるじゃないか。」
と、そんな感じの反論で諦めさせようとしたが、
逆に、
「遊んだことないのここだけだろ?」
と返された。
どうにも断固として嫌がる私を見て、意地になったらしい。
結局、
「覗くだけ。」
と、互いに譲歩することになった。
ところが、A君はさっそく神殿に上がり込んでしまった。
「覗くだけって・・・」
慌てて後を追った私の目に、
一枚の鏡が写った。
御神体だったのだろう。
だが、そんな知識のなかった私は、
他に物もないので、その鏡に手を出した。
あっさりと・・・
あれほど怖がっていたはずの私が、
なぜか手を出してしまった。
持ち上げると意外に重かったのは覚えている。
なぜ持ち上げようと思ったのかまでは覚えていない。
A君が鏡をかしてくれと言ってきた。
私は素直に差し出したのだが、
A君がそれを受け取った瞬間、
ガシャン!!
鏡が大きな音をたてて割れた。
床に激しく破片が飛び散ったのが見えた。
「A君が鏡を取り落とした。」
そう思ったのは病院のベッドの上でだった。
実のところ、鏡が割れた所までしか記憶がないのだ。
気が付いたら自分の家の前につっ立ていた。
私はどうやら3日ほど行方不明になっていたらしい。
とくに体調は悪くなかったが、
検査のためにと入院させられた。
警察からも色々訊かれたが、
あまり覚えていない。
ただ、その日からA君はいなくなった。
あんなことがあったにもかかわらず、
何度も神社に通ったのだが、
結局会えずじまいだ。
A君とは学校も違ったため、連絡も取れない。
A君はどうなったのだろうか・・・。
・・・私はなぜ、あのとき警察に、
A君の安否を尋ねなかったのだろうか。
A君は、誰だったのだろう、か・・・。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話