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中編6
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獣臭と女

初めて投稿致します

誤字脱字があったらすみません…

この話は私が数年間に務めていた、ブラック企業の営業で出張に行った時の話です確か場所は山梨県でした。

ブラックな会社なので、出張といっても宿泊費交通費などは自腹で、会社の方針?で宿泊施設は「いかに安く泊まれるか」で選ぶので、

泊まる場所は一泊1000円の今にも潰れそうな民宿になりました

男が10名、女が5名の出張だったので、男は大部屋、女は3名2名に別れて部屋を取りました。

出張は二泊三日。私はまだ入ったばっかりの10代の最年少だったので、何故こんな薄気味悪い民宿に泊まらなきゃいけないのか、何故宿泊費も交通費も出ないのか苛立ちもあり、早く帰りたくて仕方なかったのを覚えています。

朝民宿に着いたので、それぞれ分けられた部屋に荷物を置き、それから営業に向かうことになりました。

部屋に着くとまず狭さに唖然。六畳もない。ここに三人?しかもかび臭い。そして何より、奇妙なものが視界に入りました

…照明を消す紐に、五円玉?

よく電気を消すときに消しやすいように、照明に物などをくくり付けているのはよく見たりしますが、お金を吊り下げているのは初めてでした。

まぁ穴が開いてるし付けやすいよな、と思い、早々と荷物を置いて各自営業に向かいました。

営業は大変でした。地図を頼りに民家を1日アポなしで最低200件回るのですが、なんせ田舎。次の民家に行くにも距離がかなりあり、足が棒のようでした。

おまけに田舎特有なのが、飼い犬にしてあるリールの長さ。敷地内を自由に動き回れるようになのか、完全に繋いでる意味がない物凄い長さ。そして飛び付かれる

なので、スーツは犬のよだれでベタベタ。営業の辛いところでした。

なんだかんだ時間になり、よれよれになりながら民宿に帰って来ました。

大部屋は男の部屋でしたが、寝るとき以外はそこに集まって結果などを報告するため、一度自分の部屋に戻って荷物を置いてから行くことに。

ガラッと部屋を開けると、強烈な違和感が。

………犬臭い

…五円玉がクルクルと微妙に回っている

ムワッと鼻につく犬の匂い。まるでそこに犬がいたんじゃないかと思ってしまうくらいの匂い。

恐らく、誰かが私以上に犬に飛び付かれたんだなと思い、窓を開けてから大部屋に向かいました。

五円玉が微妙に回っていたのも、私とタッチの差で先に誰かが帰って来てたんだな、くらいにしか思ってませんでした。

夕飯は、近くのコンビニで買って大部屋で全員集合してから食べました。食べ終わった順から一つしかない浴場で入浴を済ませました。

浴場は何故か地下にありました。やけに地下。急過ぎる階段を降り、やっと浴場がありました。階段は古く狭く、数人が一気に使ったら壊れるんじゃないかというくらい軋みました。

私は同室のAさんと入りました。二人で今日の営業の出来事などを話ながら汗を流しました。

『それにしても、田舎のワンチャンはなんであんなにリードが長いんですかねー。私今日飛び付かれましたよ』

「分かる分かる!でも私、今日は大丈夫だったよ。あと一メートル近かったら危なかったけど」

『本当ですかー?……………………………あれ、Aさん今日私より早く帰って来たんじゃないんですか?』

「え?いや、私はBさん(もう1人の同室)と営業地区が近くて帰りにたまたま会って、一緒に帰ってきたから…多分●●チャン(私)が一番早かったと思うよ」

………ワタシガ、イチバン?

この時、鳥肌がブワッと立ったのを覚えています

…じゃああの強烈な匂いは?

…あの回っていた五円玉は?

違う人が私達がいない時に入ったんだ、絶対そうだ。そうに違いない!私はそう言い聞かせて、風呂を出ました。

寝るまでは大部屋にいるのが基本。皆と一緒、仲間を大事に!そんな方針だったので、就寝時間までは大部屋に居なくてはなりません。

そして従業員が20代が多かったので、案の定怖い話大会になりました。

私はさっきの事があったので、完全に乗り気じゃなかったのですが、1人であの部屋にいることも出来ません。

1人ずつ怖い話をしていき、盛り上がっていました。

ここで私は、何故か嫌な予感がしていました。おかしい、何かがおかしい。違和感がある

ふと、その違和感に気付きました

…犬、臭い

かすかに、獣のような匂いがしてきたのです

今まで感じなかったのに…

ですが、ここでこんな事を言ったらKY。気のせい、気のせい…

そして怖い話は、寡黙でダンディな仲間内では素敵!と言われていた30歳のOさんの順番に。

皆がワクワクしてOさんの話を待ちました。すると、Oさんはちょっと溜め息。

『うーん…言おうかどうしようか迷ったんだけど…』

「なんですかー!あ、そういえばOさんって確か霊感かなり強いんですよね?社長がアイツは凄いって言ってましたよ!?」

『あー…まぁ、そうなんだけどさ…』

霊感がある、というだけで、場の雰囲気は更に盛り上がりました。正直私は、この時直感で思いました。

Oさん、なんか見えてる…?

『まぁ、とりあえず話すよ。なんかあったあとじゃ嫌だし。あのさ、ここの民宿の風呂あるじゃん?』

『ここの風呂に、俺さっき入ったんだけどさ』

『…皆、違和感なかったか?あの階段の急な角度』

『…無意識で昔から階段の数を数えてしまうんだけどさ、やっぱり思った通りだったんだ。』

『………13階段だった。数を合わせるべく、無理やり13にしたんだろうな。だからあんな急だったんだ』

『…で、気味悪いと思いながら、風呂に浸かったんだ』

この辺りで、誰も相槌も野次もいれなくなってました。皆、固まってOさんの話を真剣に聞いてました

『…そしたら、物凄くゆっくり…本当にゆっくり、扉が開いていくんだよ。』

『俺も、ヤバイと思って視線をなんとか反らしたんだがな。視界に扉がまだ入った状態で、金縛りにあっちまったんだ』

『視界の端で、ゆっくり扉が開く。来るな、って念じたね。どう見たって、異常だ。この世のモノじゃない』

『でな、ソイツが入って来たんだ。入って来た瞬間、扉が閉まったんだ。まるで巻き戻ししたみたいに、サッ!!って音もなく』

『で、ソイツ、ゆっくり風呂に入って来たんだ。正直、心臓が止まるかと思ったよ。全裸の女なんだからな』

「ぜ、全裸の女!?なんすかOさんーめっちゃいい思いしたじゃないですか!」

場の重すぎる空気を察したのかそれとも耐えきれなくなったのか、男子従業員の1人が口を開いて笑いました。そのおかげで、皆も少し笑みが溢れました。

『…お前は、そうやって喜ぶのか?人間じゃなくても』

このOさんの言葉で、全員笑顔が消えました

『アレは…無理矢理人間の女に化けてた。全裸といっても、違う。無理矢理人の女に似せてたんだ』

『顔を覗きこまれて…確信した。犬だ。獣だ。顔が人間じゃなかった。』

『口が裂けていて、満面の笑みだった。笑みから、生暖かい獣の匂いが…。人間じゃない。獣が無理矢理人間に似せてたんだ。』

『正直、思い出したくもない。…それくらい、アレは見てはいけないものだった』

この瞬間、一気に大部屋の獣の匂いが強まりました。あの時と同じ匂い。よりいっそう、まとわりつくような匂い。

私ははっきり言って、泣きそうでした。

だって、この匂いをこの場で感じ取れてるのは、どうやらOさんと私だけのようだったから…

そんな私の状況を察したのか、Oさんは私と目が合うと咳払いをし、パンッと手を叩きました。するとフッと、突然その匂いが消えました。

…その夜も次の日の夜も、あの獣の匂いがした五円玉の部屋にはどうしても泊まれませんでした…。先輩に頼み込み、違う部屋に寝ました

この会社はとっくの昔に辞めてしまいましたが…

一体、あの匂いはなんだったのか

何故、五円玉が回っていたのか

Oさんが遭遇したモノはなんだったのか…

今となっては何も分かりません…

山梨県の駅前近くにある民宿、ということだけは覚えています

犬となにか縁があった場所だったのでしょうか?

以上、長文失礼しました

怖い話投稿:ホラーテラー ゆうまりさん  

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