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短編2
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駅で

高校生だった頃、雨の日、学校からの帰り道での話。

今はどうかわからないが、東京を走る中央線は人身事故がやたら多かった。

週に一回のペースで事故があったように記憶している。

その日もホームに着くと

『人身事故のためダイヤが乱れております』

の表示。

うんざりした気持ちで電車待ちをしていた。

20分待っても電車が来る様子はない。

事故の片付けに手間取っているのか、ホームは電車待ちの人達で込み合い始めていた。

しかしそれも、週に一回は繰り返されている、苛つきはするが日常のことだった。

なかなか来ない電車にホーム内にも苛立った空気が流れる。

雨がその空気に拍車をかける。

二人組の大学生が楽しそうに話しながら、一番前に並んでいる私の前を通り過ぎようとした時、二人を追いかけるように、あまり身なりのきれいではないおじさんがやって来た。

「おいっ。」

おじさんが大学生一人を呼び止める。

やや酒臭い。目がすわっているように感じた。

何で傘、肩に担いでるんだ??

大学生が振り向いた瞬間。

ガッシャー!!

持っていたビニール傘で大学生の顔にフルスイングの殴打。

大学生の被っていた帽子がふっとぶ。

呆気にとられてしまい、声すら出せない。

それは大学生の方も同じだった。

だが、おじさんは体制を立て直すと、すぐに2発目の殴打。

目の前で大学生の顔が血に染まった。

「なんなんっ…」

言い終わらない内に、3発目の殴打…。

傘が大学生の顔をしたたかうちつけ歪み、血が飛ぶ様が、私にはスローモーションのように見えた。

「…す、すいません…」

顔を庇うように背を丸め、なんとか大学生が言葉を発する。

鼻血が出、目の上が切れ、口からも出血している。

歯が折れたのかもしれない。

この状況でも、大学生は話してどうにかなる相手ではないと判断したようだった。

「…すいません…」と繰り返す。

ブツブツ言いながらおじさんは来た方向へといなくなっていく。

「ブツブツ…見てんだよ…ブツブツ…」

ひしゃげたビニール傘を持って。

連れの大学生が誰なのか聞いていたようだが、殴られた大学生は知らない、と顔を押さえながら首を横に振っていた。

とにかくその場を離れようと大学生二人は、おじさんと逆方向へと消えていった。

茫然としたまま、大学生が落としたままにした血の点がついた帽子とを見つめながら、私にもようやく恐怖が沸き上がってきた。

平凡な時間があっけなく暴力によって終わらされる恐怖、身に覚えのない悪意が突然自分に向けられる恐怖、思い出す度未だに背筋が寒くなる。

怖い話投稿:ホラーテラー かえるさん  

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