これは私が10歳の頃の話。
当時、地元の少年野球チームに所属していた。決して強い選手じゃなかったけれど激しい練習にも必死に喰らいついた。
それもこれも大好きな父ちゃんを喜ばす為だったかもしれない。父ちゃんは大の広島カープファンだったから。
恒例の隣町の少年野球チームと公式戦はだいたい負けていた。私はヒットを打つことは本当に稀で、応援に来た父ちゃんにかっこいいところを見せつける事はなかった。
それでも父ちゃんはニコニコ笑って帰りにかき氷を食べさせてくれた。
そんな父ちゃんが暮れに突然亡くなった。死因は信号無視したトラックによる轢死。
葬式も棺桶の中の父ちゃんの顔も泣き崩れる母ちゃんもどこか、漫画や映画の世界のように現実味を感じない。
忘れもしない父ちゃんが死んでから最初の水曜日の夜、夢の中で父ちゃんに会った。
父ちゃんとのキャッチボール。
バシッ!さすがは元実業団野球部に所属していただけあって剛速球。
去り際に父ちゃんは言った。
「また、来週の水曜日な」
その日から水曜日の夜が待ち遠しくなる。
でもね、なんとなく感じてた。だんだん父ちゃんの投げる球が弱々しくなってるの。
六週目の水曜日の夜。父ちゃんは私に届くか届かないくらいの弱々しい投球を最後にいなくなった。
私は泣きながら父ちゃんが水曜日に来なくなったことを母ちゃんに話した。
その時、初めて四十九日なるものを知った。
父ちゃんが亡くなって最初のお盆を迎えた。
夜に2階の自室から庭をぼっーと眺めてると、七三分けにグレーのポロシャツ、チノパンを着ている人がジーッとこちらを見ていた。
まさしく父ちゃんだ。
私は2階から
「父ちゃん!」
と叫ぶとニコニコっと笑いゆっくりと手を振ってくれた。
「今すぐそこに行くからまっててね!」
私ははやる気持ちを抑えつつ、庭まで急いだ。
そこには…父ちゃんの姿はなかった。
でもね、父ちゃんの愛用してたコロンの匂いだけが漂ってて…。その場で泣きじゃくったっけ。
その後、まあ正確には二十歳になった時、母から打ち明けられる。父は本当の父ではなく、育ての父であることを。
でもさ、私にとって父ちゃんはこれからも、あの人しかいないよ。
怖い話投稿:ホラーテラー 薄荷飴さん
作者怖話