そろそろ風呂を出ようと思った時、
「バターン」
玄関の開く音と、買い出し組のワイワイとした声が聞こえてきました。
私は、風呂から上がり脱衣所で髪を乾かしていると、みんなのワイワイと共に、
「ギー ミシッ」
とSがロフトを降りてくる足音も聞こえました。
私は髪を乾かし、着替えもすませリビングに行くと、そこから一気に宴会状態、ワイワイとバーべキューしながらみなで夜中まで大ハシャギ、風呂場での事など一切忘れていました。
翌朝になり、
みな二日酔い状態で施設の掃除・かたずけをし、
チェックアウト後は、2日分の旅行疲れもあったので、軽く昼飯でも食べたら、まっすぐ帰ろうという事になりました。
リーダーRの運転での帰りの車中、渋滞もあり、地元近くまで来た時にはもう夕方だったと思います、まったりムードの中ふと、昨日の風呂場での事を思い出し、
「そういえばS、昨日風呂場ガチャガチャしてなんだったんだよー、サムイだろあんな事すんのー」
と、言ったところ、
「‥‥なにが????」
とSは不思議そうな顔で私を見ています。
「また騙そうとしてー、サムイ事したからってしらばっくれんじゃないよー」
「はい?」
「だ・か・ら~
みんな帰ってくる前、トイレ行った後にガチャガチャやっただろーガチャガチャー」
「だからなに?」
「君もしらばっくれるねー」
「‥‥いいかげんにしろよっ!!マジふざけんなっ!!おれはそんな事してねーわっ!!」
気分屋ではあるが、場の空気をちゃんと読み、クールな感じでゆったりしゃべり、キレたところなど1度も見せた事がないSが、旅行帰りの楽しい雰囲気が台無しになるほどのマジ切れ。
運転してるRと、半分寝そうになっていたあとの2人も、初めて見るSのマジ切れにびっくりしている。
「マジしつこいわっ!知らねーもんは知らねー!人に変な言いがかりつけてんじゃねーよ!さすがに腹立つわっ!」
「そうか、わるかった‥」
すると運転中のRが、
「なに??どした??」
というので、昨日の事をみなに話した。
Sは、確かにみなが帰ってくる少し前にトイレに行った。
そして、私が起きて、風呂に行ったのも、ドアの音や足音が聞こえていたので分かっていた。
確かには、よくよく思い出してみると、Sは私が脱衣所に入ってすぐにロフトにあがって行っている。音もハッキリ聞いている。
山の中の静かな施設、あれだけ「ギシギシ」と音をたてていたハシゴを、私に聞こえないようにもう一度降りてくるのは不可能。
「ガチャガチャ」した、ハシゴを上って行く音も聞いていない。
そして‥
なによりゾッとしたのは
、すりガラス越しの色。
私が見たのは、真っ黒いシルエットだったが、昨日のSは白のTシャツに、迷彩柄のパンツを履いていた。
上下とも迷彩とか、紺・茶など、黒っぽいモノを着ていたのなら、真っ黒く見える可能性はあるが、確かにSは真っ白ののTシャツだった。
Sは、そこまで計算して、上に黒っぽいモノを羽織ってでも驚かそうとするようなヤツではあるのだが、それならそれで、脱衣所に入ってくる時も静かに、「ガチャガチャ」やるのももっと激しくやって驚かそうとするはず‥
‥私は霊感というのはほとんどなく、今も幽霊などあまり信じてはいないが、あの時風呂場の鍵を閉めていて、本当に良かったと思う。
この出来事のあとは、私以外のみなは、すぐにこの出来事を忘れてしまい、(当事者じゃなければ、あまりたいした事に感じないのかも)もしかしたら私の勘違いで、未だににSに騙されているのかもと、ふと思い出すこともある。
Sとは、今でも年に一度くらい飲みに行ったりしている。
この話は、この10年くらいの間に旅行メンバーの中で一度もも出たことはないが、最近Sから急に誘いがあり、飲みに行ったとき、たまたま少し前にこの出来事を、怖い話として披露していたこともあったので、ふと、
「やっぱりあれって‥お前じゃなかったんだよな????」
「しつこい」
完
怖い話投稿:ホラーテラー ガタガタさん
作者怖話