かつて、精神に異常をきたして世間に出せなくなった身内を、
座敷牢へ閉じ込めておく習慣が、日本のあちこちにありました。
時代劇などで見た事のある方もいるかと思いますが
実際には、ああいうキチっとした牢屋のような構造ではなく
私邸の隅に、こっそりと間に合わせで作っているケースが多かったようです。
昭和50年代あたりまでは、まだ地方の一部に座敷牢が残っていましたし
今でも、旧家などを探せば痕跡が残っている所があるそうです。
私の育った地元(岩手の某漁村)もその一つで、
小さい頃(昭和50年代前半)に、近所の友達の家へ泊まりに行った時
夜中にトイレに行く途中で、座敷牢を見つけた事があります。
そこには年齢がかなり判りづらいですが、おそらく60歳前後の老人が
閉じ込められていました。
彼は、私がそばを通って明らかに気付いているはずなのに
うつむき加減で、たまにこちらに視線を移す程度。
ずっと無言のままでした。
後で聞いた話だと、その人は小さい頃に貰い子として
他の家から預けられ、家や庭の掃除や家業の手伝いなどを
しばらくさせていたのですが、
20年位前からだんだん言動がおかしくなり、
奇声を発したり暴れたりするようになり
しまいにはそこへ閉じ込められ今に至るそうです。
時は流れ、今になって故郷へ帰省すると、当時の面影は殆どなく
寂れた漁村独特の空気がかなり薄れています。
コンビニも一軒でき、若者は訛ってはいても方言は殆ど使いません。
当時座敷牢で老人を見た家も、今は建て替えられて
見るからに変哲もない普通の一戸建てになっています。
社会人になってからは、その家と付き合いがなくなりましたが
恐らくもう年数的に、あの老人も亡くなっているでしょう。
どこか寂しいような、何かが失われたような
日本の暗部がまた一つなくなった、そんな気がしてしょうがありません。
怖い話投稿:ホラーテラー REOさん
作者怖話