実家(和歌山県上富田町)の祖母から聞いた話。

実家がある集落の外れは、ちょっとした峠道になっている。周りに民家も街灯もなく、雑木が鬱蒼と生い茂っていて、昼でも寂しいところだった。
昔は他に道がないため人通りもそこそこあったが、10年ほど前、そこを迂回する道路ができてからは、峠道を使う人はほとんどいなくなってしまった。
集落に住むAさんは豪胆な人物で、わざわざ遠回りするより峠を越えた方が早いと、普段から夜でもその道を使っていた。
今年9月の話だが、そのAさんが夜遅くに何かの用事で峠道を通った。夜空には雲一つなく、月明かりで足元がよく見えたらしい。
峠の登り始めのところで、何気なく前を見ると、坂の途中に人が立っているのに気付いた。
野良着姿に手ぬぐいをほっかむりにした、腰の曲がった小柄な老婆だったが、俯いていて顔はよく見えなかったという。
夜遅くに年寄りが一人でこんなところに突っ立っているのは尋常ではない。Aさんは「こんばんは」と声をかけたが、老婆は俯いたまま、全く反応がなかった。
Aさんは気持ち悪くなって、来た道を引き返そうかと迷ったが、それでも覚悟を決めて、その老婆を見据えたまま、峠の坂道を登り始めた。
一歩一歩と老婆に近付く。
その間も老婆は身じろぎ一つしない。
だんだんと距離が詰まってくる。

やがてAさんは妙なことに気付いた。
老婆の身体がさっきよりも大きくなっている。
近付けば近付くほど、老婆の身体が徐々に伸びていくのが分かった。
2メートルくらいの距離まで近付いた頃には、老婆はAさんが見上げるくらいの背丈になっていたという。
流石のAさんも老婆を見上げたまま、足がすくんで動けなくなってしまった。
老婆は相変わらず不動のままだったが、Aさんが立ち尽くしていると、不意に身体と顔をAさんの方に向けて、「〇〇か」とAさんの下の名前を呼んだらしい。

Aさんは恐ろしくなって、たまらず来た道を転げるように走って、家まで逃げ帰ったそうだ。

この峠道は狸がよく出るので、Aさんも「狸に脅かされた」と祖母に話したらしいです。
しかし祖母は、
狸は人の言葉を使うが、あまり化かすような悪さはしない。あの峠には昔から狢がいるので、Aさんはそいつに化かされたのだ、と言っていました。
狢は狸よりも性根が悪いそうです。

コメント怖い
0
6
  • コメント
  • 他の投稿