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アペプ(アーペプ、アアペプ、アペピ、アピペ、アポペ、アポピス)

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アペプ(Apep)とは、古代エジプトの神話に登場する混沌と無秩序を象徴する大蛇の怪物である。
太陽の運行を邪魔し、闇の支配者にして、太陽神ラーの最大の敵とされる。

【アペプの名】
古代エジプト語でアーペプ(Aapep)、アアペプ(Aapep)、アペピ(Apepi)、アピペ(Apipe)、アポペ(Apope)とも呼ばれるが、古代エジプト語のヒエログリフは母音を明確に記述しないため、本来の読みは不明である。
また、ギリシア語ではアポピス(Apophis)、ラテン語ではアポフィスとなる。

【概要】
現存する古代エジプトのパピルスの記録文書によると、アペプは「巨大な蛇で、全体的に赤く、蛇腹は白い。口には4つの牙があり、これに噛まれたものは即死する」という(ブルックリン博物館所蔵)。
しかし、このような蛇の実在は確認されておらず、アペプはあくまでも架空の生物であると考えられる。

古代エジプトのヘルモポリスの神話では、世界がまだ創造されていなかったとき、そこにはただ黒々とした水が広がっていたという。これが原初の水ヌンであり、ここから最初の神々が生まれた。
そして、このヌンから生まれた神々が、太陽神ラーや闇の支配者アペプなのである。

【太陽神ラーと闇の支配者アペプ】
エジプト神話によると、太陽神ラーが生まれたことにより、世界には秩序が生まれたという。
そして、この秩序から、世界を最初の混沌に引き戻そうという力の顕れがアペプである。
太陽神ラーは昼に天空を、夜に冥界を旅し、翌朝再び復活すると考えられていたが、アペプは、このラーの乗る太陽の船を座礁させ、天空と冥界の航海を邪魔するものである。
当時は、アペプとの戦いにラーが苦戦すると天候は荒れ、アペプがラーを呑み込むと日蝕が起こると考えられていた。
また、死者の魂はラーの船に乗っていたため、ラーが敗れると死者は冥界を抜け出せず、天国に行くことが出来ないとも考えられていたようである。

太陽神ラーの息子にしてオシリスの弟であるセトは、ラーの乗る太陽の船の航行を守護する神である。このセトは、アペプの天敵として、日々この船を守り続けているという。しかし、時代が下ると、このセトとアペプはしばしば同一視されたという。
また、太陽神ラーは、アペプと戦う時に雄猫(マングース)の姿をとるとも云われ、その様子がインヘルカウの墓壁画などに残されている。

【祭儀における混沌の象徴アペプ】
古代エジプトでは、祭儀においてアペプに見立てた蛇を殺すことによって、混沌を制御し、世界の秩序を保つことができると考えていたようである。しばしば、ファラオがオシリス神の前でアペプを打ち倒す儀式が行われていたという。
アペプの象徴とされる蛇は、本物の蛇が使われることもあれば、アペプを模した彫像が使われることもあったという。その像は、鰐や蛇をかたどったロウ製のもので、 緑のインクでその名が記されていたと云われるが、儀式の中でアペプの像は剣で切り刻まれ、大地に打ち捨てられるため、現存するものはないようである。
また、時代が下がると、これらの儀式はあらゆる災難から身を守ることが出来るものとも考えられた。

因みに、エジプトにおける蛇は畏怖の対象であり、ファラオの守護者であるコブラ以外の蛇は、すべてアペプの眷属として忌まわしく恐ろしいものとされていたという。

【備考】
一説によると、アペプは水と土の元素から成り、黄色と黒の身体をした蛇だとも云われる。
ヘリオポリスの神話では、アペプは軍勢を率いて、天地創造の神アトゥムと習合した太陽神ラーの軍勢と戦うが、アトゥム神の息子シューに敗れたと云われている。

また、地球への衝突の可能性が指摘されるアテン群の小惑星アポフィスの名は、このアペプに由来する。