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アガースラ(Aghāsura अघासुर)とは、インド神話に登場するアスラ(阿修羅)の一人である。
巨大な蛇の姿に変身し、ヴィシュヌの化身であるクリシュナを殺そうとするが、逆にクリシュナによって滅ぼされてしまう。その逸話が、ヒンドゥー教のプラーナ文献『バーガヴァタ・プラーナ』に記されている。

【概要】
アガースラの「アガ(agha)」はサンスクリット語で「悪」を意味する語であり、その名は「悪のアスラ(阿修羅)」を意味する。アスラ(阿修羅)とは、古代インドに伝わる神族の一種であるが、インドラなどの神々(デーヴァ)と敵対する勢力であったために、次第に魔族として扱われるようになった。
このアガースラは、大蛇に変身するのを非常に得意としており、『バーガヴァタ・プラーナ』の中では悪王カンサの配下の将軍として、大蛇となってヴィシュヌの化身であるクリシュナを殺そうとするが、逆にクリシュナによって滅ぼされてしまう。

【ヴィシュヌの化身クリシュナ】
ヒンドゥー教のヴィシュヌ神は、創造神ブラフマーと破壊神シヴァと共に最高神の一体とされ、世界を維持する役割を担っている。このヴィシュヌ神は、アヴァターラ(化身)と呼ばれる10の姿で地上に現れるとされ、その第8の化身がクリシュナ (Kṛiṣṇa)である。(因みに、第7の化身はラーマ、第9の化身は仏陀とされるが、文献によって化身の数は異なる。)

邪悪な王カンサが王国を支配していた時代、これを滅ぼすためにヴィシュヌ神は、カンサ王の妹デーヴァキーの8番目の息子としてこの世に生まれた。
しかし、予言により自分が妹の息子に殺されることを知ったカンサ王は、デーヴァキーの息子たちを次々と殺し、デーヴァキー夫婦も牢に閉じ込めた。そのような環境で生まれたクリシュナは、生まれてすぐにヴィシュヌ神の力によりヤムナー川の向こう岸の牛飼いの夫婦に預けられ育てられたという。
アガースラを退治する逸話に関しては『バーガヴァタ・プラーナ』に記されているが、これはクリシュナが5歳の子供のときの事だと云われている。(一説によると、成長した英雄クリシュナが仲間とともにアガースラが治める領土を旅したときの事とも云われている。)

【クリシュナのアガースラ退治】
あるときクリシュナが牛飼いの子供たちと遊んでいると、強大な力を持つ悪魔アガースラがやってきた。かつて兄弟(バカとバキー)をクリシュナに殺されたアガースラは、クリシュナを見て、兄弟の仇を討とうと考えた。
そして、1ヨージャナ(約13km)もある大蛇に変身すると、山のように巨大な身体を道の真ん中に横たえ、洞窟のように大きな口を開けた。その下顎は大地に置かれ、上顎は雲まで達したという。また、口の角はまるで洞窟のようで、牙は山の峰のようにも見え、口の中は暗闇に包まれ、舌は広い道のようだった。そして呼吸は突風のように吹き、眼は野火のように光っていたという。
その姿を見た子供たちは、大きく開けた大蛇の口のようだと思いながらも、それを想像上のものだと思い、面白そうに次々と大蛇の腹の中に入っていった。アガースラはクリシュナが入ってくるのを待って、口の中に入ってきた子供達をすぐに呑み込もうとはしなかった。
クリシュナはそれが大蛇であると知りながらも、仲間の子供たちを助けるべく、その口の中へ入って行った。そして、アガースラがいざ噛み潰そうとしたときに、喉の中で身体を巨大化させてアガースラを窒息死させたのである。
クリシュナが眼差しを注ぐと、アガースラの中で死んでしまった子供や牛は蘇えり、次々とアガースラの口から出てきたという。(一説によると、最初クリシュナは大蛇と気付かずにその体内へと入ってしまうが、胃液から放たれる異臭に気付き、仲間たちを体内から脱出させたという。そして自身はアガースラの体内でアガースラを越える巨体となって、これを引き裂き殺したとも云われる。)