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アスラ(असुर asura)とは、インド神話における魔族の総称である。
本来は超自然的な力をそなえた神的な存在を意味したが、次第にインドラなどの神々(デーヴァ)に敵対する勢力として魔族とされたようである。

【アスラの名】
アスラ(असुर asura)とは、サンスクリット語で「asu」は「命」、「ra」は「与える」を意味するため、本来は神々の一種だったと考えられる。しかし、「a」を否定の接頭語と捉えた場合、「sura」が「生、天」を意味することから、次第に悪いイメージが定着したようである。

因みに、古代イラン・インド共通時代にアスラとされたヴァルナ神は、ゾロアスター教における最高神アフラ・マズダーに相当する。アフラ・マズダーの「アフラ」とアスラは同じ語源をもち、ゾロアスター教では善神アフラ・マズダーに対して、デーヴァ(インドの「神」)に相当する「ダエーワ」は悪神である。このことから、本来は「アスラ」も「デーヴァ」も超自然的な力をそなえた神的な存在だったと推測される。
尚、仏教では「阿修羅」と表記されるが、インド神話に登場するアスラとは些か異なるようである。

【概要】
古代イラン・インド共通時代には、始源神ヴァルナとミトラが太古のアスラ族と考えられていたようである。
古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』が編纂された時代には、インドラ神が神々の王とされたが、これに敵対する神ヴァルナとその眷属がアスラとされている。
時代が下がり、インドラに代わってシヴァやヴィシュヌが主神となると、アスラはデーヴァ(神々)の敵対者―主にダイティヤ族とダーナヴァ族―の総称となったようである。これらのダイティヤ族とダーナヴァ族は魔族として捉えられ、この場合のアスラは「悪魔」とも訳されている。

また、後代のヒンドゥー教の文献によると、アスラとデーヴァは共に創造主プラジャーパティから生まれた者だが、デーヴァが真実の道を選んだのに対し、アスラは虚偽の道を選んだという。そのためアスラは、権力や富を得るがいずれは滅びる存在だという。

【インド神話におけるアスラの起源】
古代インドのウパニシャッドによると、この世界にまだ何もなく暗黒に覆われていたときに、1つの巨大な卵が生じたと云われる。そこには真実なる光明・最高原理ブラフマンがあり、その卵から創造神ブラフマー(梵天)が誕生した。そして、その梵天から10人(異説あり)のプラジャーパティ(創造主)が生まれ、その1人がダクシャである。続いてダクシャの7人の息子たち、及び21人の造物主が生まれ、神人(プルシャ)や多くの神々や聖仙、王仙たちが誕生したという。
そして、創造神ダクシャの娘ディティと聖仙カシュヤパによって生み出されたのが、アスラに属するダイティア族である。(ダイティアとは「ディティの息子たち」を意味する。)
また聖仙カシュヤパは、多くの妻との間にデーヴァ(神々)、アスラ(阿修羅)、ナーガ(蛇神)などの多くの子孫をつくり、全ての人間の父となったが、妻の1人ダヌとの間に生まれた100人の子供とその一族は、ダーナヴァ族と呼ばれる。(ダーナヴァとは「ダヌの息子たち」を意味する。)
このダイティヤ族とダーナヴァ族の他にも、聖仙カシュヤパが祭祀により生み出した巨大や蛇の怪物ヴリトラなど、アスラとされる者は数多くいるようである。

【アスラとデーヴァ】
共にプラジャーパティ(創造主)を祖とするアスラとデーヴァであるが、基本的には敵対関係にあり、三界の主権をめぐって数々の戦いを繰り広げている。
デーヴァとアスラの大きな違いとして、デーヴァが不死であるのに対して、アスラは不老不死ではないことが挙げられる。(それにも関わらず、アスラは想像を絶する厳しい苦行を行う事によって神々をも超越する力を獲得し、幾度となくデーヴァから世界の主権を奪う事に成功している。)
これに関して、以下の逸話が残されている。

まだデーヴァ(神々)が不死ではなかったとき、神々は不老不死の霊薬アムリタを得ようと考えた。そこでヴィシュヌ神(ナーラーヤナ)は、神々とアスラ族でともに天界の海を攪拌することでアムリタが生じると考え、アスラ族に協力を求めた。
神々はマンダラ山を引き抜いて天界に運び、それにヴァースキ竜を巻き付けて、逆さまにした山の支点を大亀クールマの背に置いて、天界の海を攪拌し始めた。ヴァースキ竜の頭をアスラ族が、尻尾のほうを神々が引っ張り、マンダラ山は天界の海の中でぐるぐると回転し、海は攪拌された。その間、海中の生物は幾百となく死滅し、攪拌の摩擦熱による山火事で、そこに棲む様々な生物も死滅したという。
インドラが雨を降らせて火を鎮めると、マンダラ山の大樹の樹液や薬草のエキスが海中に溶け出し、次第に天界の海はミルク状の液体となった。さらにこの乳の海を攪拌すると、そこから太陽や月、女神ラクシュミー(吉祥天女)などが生まれ、最後にダンヴァンタリ神が霊薬アムリタの入った壷を持って飛び出したという。
この奇跡を目の当りにして、神々とアスラは騒然としてこれを奪い合った。
ヴィシュヌ神は絶世の美女に化けてアスラ族を誘惑し、アムリタを手に入れると、一切の神々はそのアムリタを飲んで不老不死となった。アスラ族のラーフは、神の姿に変身してアムリタを飲もうとしたが、太陽と月がそれに気付いてヴィシュヌ神に知らせたため、ヴィシュヌ神の円盤によって首を斬り落とされてしまった。だが、すでにアムリタを飲んでいたラーフの首は不老不死となり、告げ口した太陽と月を追って天に昇り、彼らを飲み込むようになったという。これが日蝕と月蝕の由来だと云われている。(但し、身体がないため太陽と月はすぐに出て来るという。)
こうして、デーヴァは不死となり、アスラ族はアムリタを飲むことが出来ずに死すべき存在になったと云われている。