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ヒラニヤカシプ(Hiranyakashipu)

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ヒラニヤカシプ(Hiranyakashipu)とは、インド神話に登場するアスラ(阿修羅)の1人であり、三界を征服した恐ろしい魔王である。

【概要】
ヒラニヤカシプは、聖仙カシュヤパとダイティア族のディティとの間に生まれ、強力な力を手にして三界を征したアスラの王である。苦行により創造神ブラフマーから絶大な力を得て、神々の王インドラのヴァジュラ(金剛杵)も通用しない無敵の身体を手に入れたが、ヴィシュヌ神の化身ナラシンハによって倒される。
その名は「金の衣を着たもの」を意味し、兄弟にヒラニヤクーシャ(「金の目を持つもの」の意)を持つ。

【ナラシンハのヒラニヤカシプ退治】
ヒンドゥー教のプラーナ文献『バーガヴァタ・プラーナ』には、ヒラニヤカシプがヴィシュヌの化身ナラシンハに退治される逸話が記されている。

ある時、ヒラニヤカシプの兄弟ヒラニヤークシャが、ヴィシュヌの化身ヴァラーハによって殺された。
ヒラニヤークシャの兄弟であるヒラニヤカシプはヴィシュヌに復讐を誓うと、マンダラ山の洞窟にこもり激しい苦行を行った。その苦行がブラフマー神に認められ、ヒラニヤカシプは苦行によりほとんど蟻に喰われてしまった身体を元に戻してもらった上、さらに願いを叶えてもらった。それは、『神にもアスラにも、人にも獣にも、昼にも夜にも、家の中でも外でも、地上でも空中でも、そしてどんな武器にも殺されない』という願いであり、この恐ろしいアスラの身体はこれにより無敵同然のものとなったのである。
その後、ヒラニヤカシプは三界を征服し、神々の王インドラの宮殿を乗っ取り、さらに人々に神々の名を唱えることを禁じ、代わりに人々に自分の名前「オーム・ヒラニヤーヤ・ナマハ(ヒラニヤ様に敬礼致します)」と唱えることを強制したという。

ところが、ヒラニヤカシプの息子プラフラーダは、あろうことか一族の宿敵であるはずのヴィシュヌ神を熱心に信仰したのである。
ヒラニヤカシプはプラフラーダを憎み、様々な罠を仕掛けて息子を殺そうとしたが、そのたびに不思議な力が守護して殺すことが出来なかった。そればかりか、プラフラーダは主(ヴィシュヌ神)が万物に遍在することを説き、ダイティヤ族の子供たちはその教えを支持するようになった。ヒラニヤカシプは怒りに身体を震わせ、厳しい口調でプラフラーダを叱責した。
「私以外の主が、この宇宙の何処にいるというのか? もしそいつが何処にでもいるのなら、どうしてあの柱の中に見えないのか?私だけが唯一最高の主であるゆえ、大嘘つきのお前の首を今すぐ切り落としてやろう!」
そう言ってヒラニヤカシプが玄関にあった柱を叩くと、その柱の中から恐ろしい轟音が響き渡り、『神でも獣でも、人間でも獣でもない』人獅子のナラシンハが現れた。それは、金色に輝く眼、眩いたてがみ、恐ろしい歯、剃刀のような舌、山の洞窟の如き裂けた口と鼻の孔を持ち、顎は割れ、その身体は天まで届き、太く短い首と広い胸、細い腰を持ち、月光のように白い毛で全身が覆われ、四方に伸びる数多の腕には鋭い爪を持つ恐ろしい人獅子だった。
ダイティヤ族とダーナヴァ族の者たちは、ナラシンハの凄まじい姿を見て、恐怖のあまり武器を放り出して逃げていった。
魔王ヒラニヤカシプは武器を手にして立ち向かったが、ナラシンハはそれを容易く捕まえると、『地上でも空中でもない』彼の膝の上で、その腹を『どんな武器でもない』鋭い爪で引き裂いた。また、それは『昼でも夜でもない』日没の瞬間に、『家の中でも外でもない』玄関においてなされたと云われている。

【備考】
因みに、ヒラニヤカシプの息子プラフラーダは、ヴィシュヌ神に父の深い罪業を清めてくれるよう求め、ヴィシュヌ神はその願いを叶えたとも云われている。
しかしある伝承によると、このアスラは元々天界の神で、自らの罪のためにヴィシュヌ神の敵として3回生まれ変わることを選択したという。(汚名返上のためにヴィシュヌの友として7回生まれ変わることも選べた。)
その最初の転生が上述のヒラニヤカシプであり、2度目の転生はヒンドゥー教の叙事詩『ラーマーヤナ』に登場するラークシャサ(羅刹)の王ラーヴァナである。ラーヴァナは、またもヴィシュヌの敵として地上に現れ、今度はヴィシュヌの化身ラーマによって滅ぼされる。
3度目の転生では、悪魔のシシュパーラとしてチェーディ国の王の元に生まれるが、またもヴィシュヌの化身クリシュナによって滅ぼされるのである。