旧約聖書及びユダヤ神話に登場する荒野の悪魔、それがアザゼルである。
アザゼルという名は悪魔アザゼルと、堕天使アザゼルとに別れるとする説が存在しているが、ここでは同一の存在として説明する。
その姿は頭部は山羊の角を持ち、顎には髭をぼうぼうに生やした大男というギリシャ神話の牧神パンのような姿であることが多いが、7つの蛇の頭、14の顔、6対12枚の翼を持つという姿も伝説に残っている。
アザゼルが堕天使となった経緯にはいくつかのバリエーションが存在するが、その中でも有名な説を2つ次に述べる。
1つは、人間が生み出された時に、神が人間アダムに仕えるように命じられたが、アザゼルは「天使が人間に屈するべきではない」と髪の命令に背き、神を否定したために展開を堕とされた、というアザゼルの傲慢さに原因があったとする説である。
悪魔や堕天使について細かな説明がなされた偽典『エノク書』では地上の人間たちを監視するエグレーゴロイ(見張りの者たち)のひとりであったが、人間の娘の美しさにより、アザゼルを含む200人の天使が人間の娘を娶るという禁を犯したために堕天した、という欲望に打ち勝てなかったが故の堕天説である。この際に堕天した集団を「グリゴリ」と呼び、アザゼルは人間たちに医療や呪い、剣やナイフ、盾といった武具のつくり方、金属加工、眉の手入れなど化粧の仕方、染料についての知識を与えるが、人間の娘との間に生まれた巨人(ネフィリム)は知性がなく、人を食い殺す凶悪なものであったと言われている。
この巨人たちは途方もない大きさまで成長(およそ1350cmほど)し、地上のあらゆる食べ物を食い尽くし、ついには巨人同士が共食いをしようとしたところ、神による洪水が起き、乱れ切った地上は洗い流されることとなった。
アザゼルらの不法、人間たちに天上の知恵を与えた罪により、神はラファエルに命じて、アザゼルを縛って荒野の穴に放り込み、石を置かせた。
旧約聖書においては、贖罪日の儀式にアザゼルの名を見つけることができる。
贖罪の生贄として2頭の雄山羊のうち一方を主に、もう一方はアザゼルのものにするというものである。
アザゼルのものとされた山羊は生贄として屠られることなく、イスラエルに住む人々の罪を背負わせて荒野でアザゼルのもとに放逐する、というものである。
こアザゼルの山羊は、現代にも用いられるスケープゴート(罪の身代わり)として言葉が残っている。
この他、旧約聖書偽典『アブラハムの黙示録』では人語を話す汚らしい鳥の姿で現れたアザゼルが生贄を捧げようとするアブラハムの邪魔をし、天使・ヤホエルに追い払われるシーンがある他、エデンの園でアダムとイヴに知恵の実を食べるようにそそのかしたのも、アザゼルの仕業だったとされる。
アザゼルという名は非常に有名なものの、その名前の意味は専門家によっても意見が異なり「山羊が向かう山の名前」「山羊を突き落とした崖の名前」「『送り放たれる』の意」「『罪を運び去る』の意」「主との対比なので『邪悪な力』の意」「『自然界の力』の意」など諸説入り混じっている状態であり、名前の由来は不明である。
また、アザゼルという名はヘブライ語で表記した場合、「神の強者」という意味合いがあり、神に力を与えられた天使という説も存在しているが、ヘブライ語の専門家であるユダヤ教徒のラビたちがこの説を絶対としていないため、説得力に欠けるとされている。
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