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ジンはイスラム圏の物語に登場する悪霊であり、女性の場合はジンニーとなる。
姿はおおむね厳しい男の姿で表現され、体はとても大きく、成人した人間を乗せたまま高速で移動することも可能とされている。
キリスト教圏の悪魔に比べて、神や人に対して従順なものが多く、悪性を働くものもいる一方で率先して人助けに乗り出すものも存在している。
また、瓶やランプに閉じ込められている、といったものも多く、もっとも有名な逸話としては「アラジンの魔法のランプ」が存在している。
ディズニーアニメの原作にもなり、非常に有名なエピソードだが、あえて説明をすると、ランプに閉じ込められたジンがランプの持ち主の命令になんでも従う、というものであり、原典ではランプの他にパイプタバコにもジンが宿っており、このパイプに宿るジンの方がなんでもできる魔神、という印象により近いと言える。
また、最たる特徴として自由な気質があげられ、キリスト教の悪魔が契約に縛られ、生贄などの自分への見返りを求めることが多いということに対して、ジンは完全な気まぐれで手を貸し、飽きれば去っていく、というパターンが多い。
先ほどのアラジンの魔法のランプに似た逸話がドイツにも存在するが、そちらは悪魔が黄金の貢物を要求する、という風に大きく異なっている。
また、ジンはジンニーとの間に好意を抱くこともあり、千夜一夜物語のなかでは、互いに睦合うこととなった話が存在している。
その詳細についてはぼかしてあるものの、明言されているのは「もしも人間が巻き込まれたら間違いなく死んでしまうほどの激しさ」というものであり、物語中ではジンニーが保護していた若者は寝巻きと下着という情けない格好のまま街の中に落下してしまっており、これについて二人のジンがなんの反応も見せていないことからも、ジンが非常に気まぐれで思い通りのものにはならない、といった印象を強くつけている。
また、あるジンは瓶の中に封じ込められていたところを助けた人間に何を望むかと聞いたところ「千夜一夜物語を語ったシェヘラザードのような物語を作る才能」を望まれ、シェヘラザードほどの分量の物語は作れないが、3ページ程度の傑作を作れる才能を与え、そのジンを助けた人間というが「母を訪ねて三千里」の原作「クオーレ」の作者である、といったジョークが存在している。 ちなみにこのジンは人間に勝手に才能を与えたことが神にばれ、再び瓶の中に閉じ込められた、という後日談まで存在している。
また、千夜一夜物語のなかでは、せっかくジンを瓶から救ったにも関わらず、そのジンが「瓶を開けた人間を必ず食い殺す」と誓っていたがために殺されかけ、医師の話をして機転を利かせて難を逃れた漁師の話も存在している。
これらのエピソードからも、イスラム圏におけるジンは、キリスト教の悪魔ほどおぞましい、唾棄すべき存在として忌み嫌われていたわけではなく、恐ろしくはあるが、気まぐれで手を貸してくれることもある存在、というある種のコミカルな親しみを込めた存在として描かれていたことが想像できる。
力を借りた場合にしても、キリスト教圏の場合はその悪魔を出し抜いて殺してしまいでもしない限りは、力を借りたものが不幸になるパターンが多いが、ジンの力を借りたものがジンを倒さなくてはならない、といった制限はなく、むしろ気まぐれなジンはまたどこかへ飛び立ってしまうため、力を借りた、と感じることすらないパターンが多く存在するのも特徴といえる。