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カイムは地獄の大総裁であり、30の悪霊の軍団を率いている堕天使である。
中世のグリモワール『ゴエティア』によるとソロモン72柱の悪魔の1人とされ、序列は53である。
地獄でもっとも雄弁であるとされ、その姿は密告者の暗喩としても用いられる黒鶫である。
鳥の歌、動物の声、水などの自然の音の意味を聞き取る能力を持つとされ、古代の神格あるいはシャーマン的な属性を持っている。
またカイムはそうした言葉を司る悪魔であるということから、契約者にあらゆる言語の知識を与えるとされ、カイムと契約したものはどのような言語でも匠に操ることが出来る。
さらに意外なことながら、カイムはそのシャーマン的な属性からか、未来に対してのアドバイスにも長けているされ、これから起きることに対して最良の対応を答えてくれる、という契約さえできれば、非常に頼りになる悪魔である。
しかし、弁舌豊かな悪魔と契約するには、召喚者自身が知識に長け、カイムを従わせられるほどの素質を持っていない場合は難しく、カイムを従わせられたとされるソロモン王は彼を含む72柱の悪魔を真鍮の容器に封じ込め、穴の中へと封じたとされていることから、扱いの難しい悪魔であると言える。
人間に化けるときは、細いサーベルを携え、羽飾りのついた帽子をかぶり、孔雀の尾で飾った鳥の着ぐるみを着た男の姿で燃え盛る灰、あるいは石炭の中に現れるとされ、黒鶫のときの装いからは印象をまるきり変えており、道化師のような姿になっている。
『地獄の辞典』にはサーベルを携えた黒鶫の姿と、羽飾りに孔雀の尾を付けた人間の姿両方の挿絵が載せられている。
カイムの活躍として知られるのは16世紀からの宗教改革の立役者となったマルティン・ルターとの論争であろう。
ルターは部屋にこもっているときでも、カイムに論争をぶつけられ続けたことで、常に悪魔や魔女といった存在に見張られていると感じ、ノイローゼ状態になっていたというエピソードもあり、彼の部屋には今でもカイムに向かって投げつけたインク壺のインク染みが残っているとされている。
宗教革命をなした、という点でも近代的な人物という印象の強いルターだが、実際には魔女狩りや悪魔の存在を非常に恐れており、著書の『教理問答』の中で「キリスト」の名を63回あげているのに対して、「悪魔」の名は67回出ており、それほどに付きまとわれていたという証明である。ヴィッテンブルグ僧院にいた頃も、常にカイムは彼に対して騒がしいほどの問答を押し付け、ルターの精神を衰弱させていった。
当時は魔女狩りの最盛期でもあり、悪魔たちの存在が現代以上に身近であった時代、仮にカイムの論争に破れて魔女(男性であっても魔女という)になってしまった場合、黒鶫と皮肉られる密告者によって魔女狩りたちの手に渡される、というのもなんとも皮肉な話である。
さらに皮肉なことは、当時カトリックにおいて都合の悪いルター派は魔女として告発されることも多く、ルター本人がカイムに苦しめられている間に、カイムと似た黒鶫たちの口先三寸でルター派の信徒たちは次々と魔女裁判に放り込まれていくことになったのだ。
こうした意味合いでも、カイムが最も活躍したのは聖書や、伝説の中ではなく、現代に直接つながる中世であったことが明白だろう。

天界戦争の際にはルシファーの軍勢に加わったが、その最たる役割は闘争ではなく、自らの得意とする雄弁さを生かした広報活動であり、黒鶫の体の飛翔力、自らの権能である弁舌を存分に発揮し、戦場を駆け巡ったとされる。