ヴクブ・カキシュ

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ヴクブ・カキシュ(Vucub Caquix)とは、マヤ神話に伝わる巨大な怪鳥(もしくは巨人)である。輝く眼と歯を持つ傲慢で邪悪な怪物だったが、マヤ神話の双子の英雄神フンアフプーとイシュバランケーによって倒されている。

【概要】 
ヴクブ・カキシュの名は「七の鸚鵡(コンゴウインコ)」を意味する。(コンゴウインコとは、オウム科に属する特大形のインコであり、嘴が巨大で尾が著しく長い特徴をもつ。巨大な嘴で堅い木の実を割って食べることで知られる。)
高地キチェ・マヤの聖なる書物『ポポル・ヴフ(Popol Vuh)』において、ヴクブ・カキシュは巨大な怪鳥として登場し、双子の英雄神フンアフプー(Hunahpu)とイシュバランケー(Ixbaranque)によって倒されている。
この怪鳥は、神々が人間を創造する前から存在していたが、傲慢で邪悪な性質であり、自分の事を「太陽であり、月である」と称していた。その傲慢さに怒った双子の英雄神フンアフプーとイシュバランケーによって、顎と歯に痛手を負わされ、歯痛に悩んでいたところへ治療師を名乗る老夫婦(双子の英雄の協力者)が現れて、力の源とも云える歯と眼を抜かれ死んでしまうのである。

【双子の英雄のヴクブ・カキシュ退治】
大昔、大地と空ができたばかりでまだ太陽も月もなかった頃、傲慢な性格の怪鳥ヴクブ・カキシュは、自らの輝く歯と眼を誇り、自身を太陽や月であると称していた。また、彼には山を造るシパクナーと、山を覆すカブラカンという怪力の2人の息子がいたが、 彼らも父親と同じく傲慢で邪悪な性質をもっていたという。
これを見た双子の英雄フンアフプーとイシュパランケーは義憤に駆られ、この一家を滅ぼすことに決めた。
ヴクブ・カキシュは大きなナンセの木を持っていて、その果実を食糧としていたが、それを知っていた双子の英雄はナンセの木の根元の葉陰で待ち伏せした。案の定ヴクブ・カキシュがやってきて木に登りナンセの実を食べ始めたところで、フンアフプーが吹筒(古代マヤの武器。息で土の弾を発射する)を吹いて攻撃した。その土弾はヴクブ・カキシュの顎骨に命中し、怪鳥はまっさかさまに木から落っこちたという。
しかし、怪鳥ヴクブ・カキシュはこの程度では怯まず、捕まえようと駆け寄ってきたフンアフプーの腕を掴むと、 肩の付け根からもぎ取って二つに折り、それを持って痛む顎をさすりながら家に帰っていった。
次に、双子の神はサキ・ニム・アクとサキ・ニマ・チイスという賢い老夫婦のもとを訪れ、ヴクブ・カキシュを倒す手伝いを頼むと、4人でヴクブ・カキシュの家へ赴いた。
老夫婦は医術を心得ていたため、自らを歯の治療師であると称したが、双子の英雄に関しては孫であると偽った。ヴクブ・カキシュが何も気付かずに老夫婦に歯の治療を頼むと、老夫婦はヴクブ・カキシュの歯を引き抜き、代わりに白いトウモロコシの粒を詰め込んでしまった。トウモロコシの歯は一瞬本物の歯のように輝いたが、 ヴクブ・カキシュの力を確実に弱らせた。老夫婦は次々に歯を抜き取り、全ての歯を取り去ると、今度は目の治療と偽って眼球も抜き取ってしまった。するとヴクブ・カキシュの力はみるみる衰えて、そのまま死んでしまった。
その後、英雄フンアフプーは自分の腕を取り戻すと、老夫婦に元通りにつけてもらったという。因みに、その後ヴクブ・カキシュの妻チマルマットも死んでしまい、2人の息子シパクナーとカブラカンも、双子の英雄によって殺されたと云われている。