ウィルオウィスプ(Will o'the wisp)とは、空中を浮遊する正体不明の怪火の名称のひとつである。このような不可解な現象は世界各地で目撃されており、日本では鬼火、人魂などと呼ばれている。
【概要】
原因不明の浮遊する火が現れる現象は世界中で目撃されており、欧米ではイグニス・ファトゥス(Ignis Fatuus:愚者火)、ウィル・ウィズ・ザ・ウィスプ(Will with the wisp:種火を持ったウィル)、ジャック・オー・ランタン(Jacko'lantern:ジャックの角燈)、ヒンキー・パンク(Hinky Punk:妖精の付け火)、ピンケット(Pinket:妖精のようなもの)、エルフ・ファイアー(Elf fire:妖精火)、ジル・バーント・テイル(Gyl burned tail:火付き尻尾のジル)、キット・ウィズ・ザ・キャンドルスティック(Kit with the Candlestick)、ジョーン・ザ・ウォンド(Joan the Wand)、フウ・フォレ(Fewx Follets)などと呼ばれている。日本では、鬼火、人魂(ヒトダマ)、狐火、不知火(シラヌイ)などと呼ばれるようである。
それは、暗闇の中をゆらりゆらりと漂うかと思えば、突然消えたり別の場所に瞬間移動したりする不思議な光であり、青白い火の玉であることが多いという。(しかし、世界各地に多数の伝承や目撃談があり、赤や黄色の火であることも、一度に何十個も現れることも、数メートルもの大きさであることもあるという。)
これらの光は、暗い夜に湖沼付近や墓場などに出没するといわれており、欧米では、生前に罪を犯したために現世を彷徨い続ける死者の魂、あるいは洗礼を受けずに死んだ子供の魂、もしくは悪魔・妖怪・妖精の仕業であると考えられ、恐れられてきた。日本では、古くからこのような怪火を人間や動物の死体から生じた霊、もしくは人間の怨念だと考えてきたようである。
また、世界各地に怪火にまつわる俗信が存在し、このような怪火が現れた後には人が死ぬと云われたり、それが現れた場所には財宝が埋もれている、あるいは怪火は旅人を道に迷わせ底なし沼に誘い込む、生きている人間に近づいて精気を吸いとるなどと云われる。
また、これらの怪火は特に陰湿な気候の地域で多く見られ、雨の降る夜に出現するとも言われている。
一説によると、その正体は湖沼や地中から噴き出したメタンガスやリン化合物などが自然発火したもの、あるいは地中で死体が分解される過程でリン酸中のリンが発光したもの、もしくは球電という稲妻の一種であると推測されるという。尚、怪火とされる現象のほとんどは自然現象、誤認、錯覚にすぎないと指摘する声もあるが、科学的に説明のつかない事象も数多く存在し、その正体は未だ解明されていない。
【種火のウィル】
ウィルオウィスプ(Will o'the wisp:ウィル・オー・ザ・ウィスプ)の名は「種火のウィル」を意味し、この世を彷徨い続けるウィル(ウィリアム)という男の魂(もしくはウィルの持つ石炭の種火)だと云われている。
昔、鍛冶屋のウィル(ウィリアム)という男がいた。ウィルは非常に素行が悪く悪行三昧の生活を送っていたが、ある時喧嘩をしてとうとう殺されてしまったという。
その後、死んだウィルは「死者の門」まで辿り着き聖ペトロの前に引き出されると、当然の如く地獄行きを言い渡されそうになった。しかしこの男は非常に口が上手く、言葉巧みに聖ペテロを言いくるめて、なんと生き返ることに成功したのである。
ところが、生き返ったウィルは相変わらずの悪行三昧だったため、再び死んだときには聖ペテロに「お前はせっかく生き返らせたのに、ちっとも良い行いをしなかったではないか。お前のような奴は地獄に入れるのすらもったいない。天国でも地獄でもない世界にとどまり続けるが良い!」と言い渡され、煉獄の中を彷徨うこととなったのである。
それを見て哀れんだ悪魔が、地獄の劫火の中から燃えさかる石炭を一つ取り出し、ウィルに灯りとして与えたという。
ウィルは今もその石炭の灯火を持って現世と冥府の間を彷徨い続けているが、ときにその種火が目撃されてウィルオウィスプと呼ばれるのだという。
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