第4回「コロナをぶっ飛ばせ!」 2021秋のリレー怪談 スタート!!
◯小説の形式及び登場人物
2021、11月21日現在
舞台;私立鳳徳学園高校;明治時代に建てられた地方の進学校。元は男子校であったが平成に入り共学制に。
旧校舎には時計塔あり。ロンドン塔によく似ている。 敷地内の一角に英国人墓地と併設して礼拝堂がある。
主人公;秋永九十九(あきなが つくも)。ごく普通の男子。部活は未定。残りの書き手さんに任せます。
ヒロイン;甘瓜美波(あまうり みなみ)、転入生。すらりとした体系のボブカットの美少女。背は高め。周囲に溶け込む気が余りないが敵は少ない。悪夢の中で主人公に会う。父の都合で引っ越してきたことになっているが、実はストーカー被害に悩まされていたことが原因。
甘瓜花波:甘瓜美波の母。鳳徳学園の新米英語教師。
因みに甘瓜家の家系。
雪波→月波→花波→美波。
校長;ロビン・ウィルソン。片言の日本語を話す英国人。顔の怪我を隠す為に半分白い仮面で覆っている。あからさまに怪しすぎてかえって怪しまれない。ニックネームは便器。
マリア・ウィルソン:故人。ロビン・ウィルソンの娘。
大神遊平の元妻であり、大神遊輔の母親。
八島弘:ロビン・ウィルソンの側近。
大神遊人:大神遊輔の祖父。
大神遊平:大神遊輔の父。妻はロビン・ウィルソンの娘、マリア・ウィルソン
オカルト研究部部長・大神遊輔。金色の目を持つ。甘瓜みなみにフラれる。狼一族とヴァンパイ◯一族のハーフ?※超難関キャラw
気水百香:大神家に仕える鳳徳学園の教員。
護摩堂アキラ:鳳徳学園生徒会長。自信が秀才である事に自負を持つ、完璧主義者。 生徒会長の権限として、彼だけが校長との面談を許されている。 八島の存在に疑問を持つ。
沢カレン:鳳徳学園二年。オカルト部の幽霊部員。今どきのギャル風女子。好奇心旺盛。体育は嫌い。放課後はデートと称したパパ活。
ユウタ:沢カレンの中学の同級生
月島聖良(つきしませいら)……進路に悩む鳳徳学園の2年生。甘瓜美波の母、英語教師の甘瓜花波と親交を持つ。魔夜中に取り込まれノイローゼになり入院。その後、学園の旧校舎から身を投げる。生死は不明。
日本生まれの日本育ちで和食党だが、曾祖母が英国人のため瞳は碧眼。曾祖母はロビン・ウィルソンの父の、姉にあたる人物。
麻希子……聖良のことを「セーラ」と呼ぶ友人。普段はいい加減だが、友だち思い。聖良にトドメを刺す。
時系列は以下の通り。
・約20年前。2001年頃。甘瓜花波とマリア・ウィルソン、鳳徳学園に在籍。教師になる夢を語り合う。
・鳳徳学園卒業後、ふたりとも学生結婚をし、大学を中退。花波は美波を、マリアは大神遊輔を出産。マリア死去。
・約10年前。2011年(美波、遊輔は小学生)。英語教師として赴任してきた花波と、月島聖良が出会う。
ふたりとも魔夜中に取り込まれ、花波の魂は八島の手中に落ちる。聖良はノイローゼになり、文化祭の前後に旧校舎から身を投げる。
・現在。2021年。魔夜中の中で、聖良と護摩堂アキラが出会う。
魔夜中;悪夢の中を指して甘瓜美波がつけた呼称。
魔夜中に持ち込めるもの;ない。だが鬼火の怪人(ジャック・オランタン)を倒せるものは夢の中にも存在する。英国人墓地、といえば○○が埋まっているはず。ただこの〇〇を使うかは残りの走者次第。
◯リレー順および〆切り(※順不同・敬称略)
第一走者:ゴルゴム13(掲示板〆:10/9 23:59/「怖話」投稿予定:10/10)
第二走者:五味果頭真 (掲示板〆:10/16 23:59/「怖話」
投稿予定:10/17)
第三走者:ロビンⓂ︎ (掲示板〆:10/23 23:59/「怖話」投稿予定:10/24)
第四走者:rano_2 (掲示板〆:10/30 23:59/「怖話」投稿予定:10/31)
第五走者:あんみつ姫(掲示板〆:11/6 23:59/「怖話」投稿予定:11/7)
第六走者:一日一日一ヨ羊羽子(掲示板〆:11/13 23:59/「怖話」投稿予定:11/14)
第七走者:綿貫一(掲示板〆:11/20 23:59/「怖話」投稿予定:11/21)
第八走者:珍味(掲示板〆:11/27 23:59/「怖話」投稿予定:11/28)
第九走者:車猫次郎(掲示板〆:12/4 23:59/「怖話」投稿予定:12/5)
第十走者:ゲル(掲示板〆:12/11 23:59/「怖話」投稿予定:12/12)
○ 控え走者 (およびリレー順希望)
・ふたば
□物語の形式
①「前半オムニバス+後半なぞとき」
メインキャラ5人(前後)分の導入となるオムニバスを4~5話続けて
残り7~8話+エンディングで、たっぷりと謎解き(および恐怖体験)。
②「途中オムニバス」
主人公視点で物語が進んでいく途中途中に、主人公以外の視点で語られる話がある、という形式。
⇒(意見)まあこれについては、いざ始まってみたら自然に決まるかもしれませんね。。
□最終話について
①合議制で内容を決め、代表者1名が執筆を行う。
②マルチエンディング →その場合、複数の希望者がそれぞれ結末を用意する。
⇒①をトゥルーエンド、②はアナザーエンド(ifのエピソード)とするなら、両立するかもしれませんね。
□タイトル 候補
タイトル候補;魔夜中の殺人鬼、魔夜中の狩人、鬼火の狩人、鬼火舞う学園、鬼火の牢獄、鬼火舞う牢獄、旧校舎に鬼火舞う刻、魅惑の旧校舎~紅蓮の狩人。
・放課後の獄舎 ~転校生と鬼火の狩人~
・ミッドナイト・パーティー
・神無き月の狩人
・Faceless sneaker(顔のない 忍び寄るもの)
○現在までのダイジェスト(綿貫様まとめ)
2021.10.16 現在。
■第一話(秋永九十九)
□シーン1 悪夢の中
九十九が、どことも知れない建物の中を歩いている。
建物の1階で、頭部が縦長のカボチャのような、背の高い、謎の人物に遭遇する。
男の手には紅蓮の炎をまとう、大ぶりの鎌が。
男の背後には制服姿の少女の死体があった。
ガツンという衝突音とともに、悲鳴が響く。男の背後にもうひとり誰かがいることに気付く。
□シーン2 学校/教室の外
九月下旬。十月末に行われる文化祭に向けて、学校中が盛り上がりつつある。
転校生の甘瓜美波が、九十九に話しかけてくる。
美波は親の都合で九月に転入してきたばかりだが、その美貌とふるまいから、当初は注目を集めていた。
しかし、オカルト研究部部長・大神遊輔のラブレターを破り捨てた事件で、「甘瓜さんは甘くない」と噂が立ち、今では男女ともに彼女から距離をとっていた。
そんな孤高の美少女に話しかけられドギマギする九十九であったが、「昨日、夢を見なかった?」という美波の言葉に戸惑う。
美波は九十九をある場所へと誘う。
□シーン3 旧校舎
美波は「あなたの見た夢の場所は、この旧校舎である」と告げる。
たしかに窓の外に見える時計塔に覚えがあった。
「校内に礼拝堂と英国人墓地があるのを知ってる?」
「私は昨日、殺されかけた」
次々と謎の言葉を紡ぐ美波。
聞けば、紅蓮の鎌を持った化け物―ジャック・オー・ランタン―に、廊下の突き当りで殺されかけたのだという。
それがただの夢でない証拠にと、美波は首の付け根に現れたミミズバレを見せる。
夢の中で彼女よりも先に女生徒が殺されたが、美波の調べによると十年前に死んだ生徒であるとのこと。
「あなたも私の夢の中にいたのよ」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、
鳴らずの時計塔が突如鳴り出す。
■第二話(大神遊輔)
□シーン4 自室
オカルト研究部部長・大神遊輔は、先日、甘瓜美波にラブレターを出したものの、ビリビリに破かれ玉砕。そのことを校内の裏サイトにもさらされ、ショックから不登校になっていた。
悪夢を見て飛び起きる遊輔。手元の時計はPM4:44を示している。
夢の内容を振り返り、気になることが出てきた遊輔は、それを確かめるため学校に行くことにする。
□シーン5 祖父の部屋
出がけに祖父に呼ばれ、父とともに祖父の部屋に。
不登校を責められるかと思いきや、
「そろそろ文化祭だ。文化祭といえばなんだ?」と謎の問いをされる。
祖父も父も遊輔の通う高校のOBだが、私立鳳徳学園は元々は男子校で、また時代柄男女交際のチャンスなど文化祭以外になかった、と告げられる。「恋愛については奥手な家系だ」とも。
大神家には遊輔の物心がついた頃から、すでに祖母・母親の姿がなかった。
□シーン6 旧校舎①
遊輔は、美波に惹かれた原因のひとつは「甘い香り」であると考えていた。
学校に到着すると、悪夢に見たであろう旧校舎へと向かう。
現場に着いて、場所の確信を持つ遊輔。
彼は悪夢の中で、美波が何者かに襲われるのを見ていた。
□シーン7 旧校舎②
遊輔は旧校舎で美波と九十九の姿を目撃し、逢引きであると思い込む。
九十九に首筋を見せる美波に、嫉妬から正気を失う遊輔。
思わず走り出し、旧校舎の裏側、英国人墓地へと足を踏み入れる。
遊輔は旧校舎に、美波とは別の魅惑的な香りが漂っていたことに気が付く。
墓地には、誰かが掘り返したような跡があった。
墓穴の中にはあるべき棺桶の存在はなくなっていた。
頭上の空を大きな鳥のような影が横切る。
空に浮かぶ真っ赤な満月を見て、自分の身体が大きくなり、全身を毛が覆いつくす感覚を得る遊輔。
その時、突然鳴らずの時計塔が鐘を鳴らし始め、それにあわせ、遊輔は吠えた。
コメントをするには会員登録が必要です
@五味果頭真 様
第二走者 お疲れさまでした。
これほどの長編を描くのには、相当な体力と気力知力 全ての力を総動員したことでしょう。
たった今、仕事から帰宅したばかりですので、申し訳ございません。
もう少し、経ってからゆっくりプリントアウトして読ませていただきますね。
完成するまでの後日談、執筆にあたってのご苦労や普請したところなどを拝見し、これは、たいへん読みごたえのある内容、完成度の高い作品になったことと存じます。
今週一週間は、今までの人生の中で一番短かったとのこと。
それだけ集中していらっしゃったのですね。
五味様、まずは、ゆっくりとお休みくださいませ。
完成したときの喜びと興奮、未だ覚めやらぬことと存じますが、本日は、お身体をご自愛下さいね。決して、無茶をなさいませんように。
次の走者は、まだ決まっておりませんね。
私は、既に予告してございますが、来週まで予定が立て込んでおり、第三走者の任を追うことは出来ません。大変申し訳ございません。
今週は、早朝から夕方まで仕事ですが、皆々様のご尽力と素晴らしい走りに敬意を表します。
ではでは、今宵は、たいそう楽しみな夜となりそうです。
新しく手に入ったワインでも飲みながら。って、明日も仕事でした。
美酒に酔うのは、五味様と皆様でした。
面白い展開になりそうですね。
早めに食事を終えて、プリントアウトしたら、ガッツリ読ませていただき、まだ、本日中に感想を述べさせていただきますね。
本作の感想や意見、ほか諸々のやり取りが、コメント欄に上がるのは仕方ないです。
コメント欄すら気づかない人もいるくらいですし、現段階では、クレームや荒らし行為は、見られていないようです。
このまま継続しても大丈夫、問題ありません。
ではでは、このへんで失礼させていただきますね。
@ロビンⓂ︎ 様
お仕事、お疲れ様です。自分で読み返しても文章として読みづらいところや、内容について無意味に複雑にしてる気がするところがあったので、仕事終わりのお疲れの時に読んでいただくのは申し訳ない気がします…。どうかご自身のご都合を優先してください!
実は言うと今朝ようやく書き終えたばかりなので、細かいところなどをもう一度推敲し直してみます。
あと、裏設定といいますか、僕が第二話を書くうえで意識した要素などをまとめました。
○遊輔(手紙の主)が狼男になる条件(仮)
・我を忘れるくらいに心を揺さぶる激情
・獣の匂い
・満月(赤色に限定した方がいいのかは自分では決めてません)
○遊輔の母について。顔すらわからない母と、遊輔が狼男であること・英国人墓地に現れる西洋人・魔夜中の被害者が女性であること、の関連性
→どう関連するのかは自分の話では書けませんでした。すみません…
○遊輔の目が金色であること
→狼について調べると、どうやら狼の目は「金眼」というみたいです。それも踏まえて、金色にしてみました
○バンパイアと墓守犬の存在の示唆
→夢の中での鬼灯の怪人との戦いに並行して、現実世界でのバンパイアとの戦いなんかもアリかと…(バンパイアは怪人の手下として現実を飛び回っていて、現実と夢の中の二つの世界が交錯するような展開も個人的には面白いのかなと思いました)
○ラブレターの行方は分かっていない
→ふたば様の考察の中でもありましたように、破かれた手紙は誰かが回収・修復していて、今後のキーアイテムにでもなればと考えております
○遊輔が確認したデジタル時計の時間が4:44
→これについては、もし時計塔の鐘が鳴るのが4:44の方がしっくりくるなら、授業が終わる時間を一時間ずらします笑
今の段階では、怪人は現実世界にも現れるのか、墓守犬は夢の中に入れるとしても、遊輔は夢の中で狼男に変身できるのか、バンパイアはどういった存在なのか(またそもそもバンパイアというキャラはこの話にふさわしいのか、蛇足でしかないか)など、あやふやな点だらけです…。
後続者様へのバトンパスとしてはあまりにも不十分な情報ではあると思いますが、いっそのことこれら全部無視していただいて構いません。少しでも手助けになればと思い、個人的な見解として書かせていただきました。
五味お兄様!執筆お疲れ様でした!
ちょっとまだ仕事中ですので今晩ゆっくりと読ませて頂きます!てか、ゴルゴム先生!よ、米津玄師を知らないとはいったい?!…ひ…
@ゴルゴム13 様
コメントありがとうございます!この時間まで寝てしまってて、ごめんなさい。温かいお言葉に救われました。これだけキャラの濃い人物を設定していただいたので書きやすいかと思っていたのですが、フタを開けてみると会話調の場面がほとんどつくれないことに気づいて、難儀しました…。
ご指摘いただいた二点、修正させていただきます!どちらも自分では気付かない点でした。ありがとうございます!
渾身のラブレターを破られた挙句にネットの晒し者にされたというキャラなら、本当はもっと厭世的で過激な性格の人物にするべきだと思いましたが、不登校や引きこもりの人がイメージ通りに暗い性格っていうのは個人的にですが抵抗があったので、人間くさくて愛すべき憎まれキャラみたいな人物像に書いてみました。
ただ、「ヤブレター」の件を含め、もう少し全体的に暗い書き方のほうがこのキャラには合ってるのかなと書き終わってから思いました。(でも僕も、ヤブレター気に入ってます。褒めていただきありがとうございます!)
この次に書いていただける方は、できれば自分から言ってくれると助かりますが、もし希望がない場合は明日の本投稿の時に指名させていただきます。それとも、今日中にははっきりとした方が後続者様にとってはよろしいでしょうか?第二話ではひたすら大神遊輔という人物について書いてしまったので、第三走者様の負担が大きい気がして申し訳ないです…
@五味果頭真 様
第二話お疲れ様です。
大神遊輔君、いいキャラに仕上がりましたね。しかも終盤のトドメを刺すかのようなシーン、エグいな〜と思わず唸りました。大神君から見た美波ちゃんの様子が第一話をしっかり踏まえており、かつ心理描写は大神君の性格がよく描かれていて良かったと思います。
「ヤブレター」には上手い!と感嘆しました。
誤字は無かったように思いますが、気になったのは以下の二点です。
・米津玄師って誰?と思い自分で調べました。アーティストの、と一言入れて貰えると流行に疎い人にも伝わりやすいかな。
・数字表記は漢数字に統一して欲しい。第一話でそうしているので。
さて、登場人物はこの後二〜三人くらいまでですね。組み合わせとしては男女一人ずつはいた方がバランスは良さげです。交際中のカップルもいたりして?
今後の展開が気になる終わり方ですが、現状どなたも第三話に名乗りを上げておられません。このままなら五味果様の指名になりますね。
この話を書くうえで考えた裏設定(もちろん変更可です!)や個人的な反省点などについては、3時頃にまとめて投稿します。
反省点について簡単に言えば、手紙の主を完全に闇落ちさせる勇気がなかった点と、現実の出来事ばかりで魔夜中について書けなかったことです。あと心理描写ばかりになってしまった点も…。他にも違和感のある展開だと思われた方がいましたら、ごめんなさい。ご指摘いただければ明日までにできる限りの改善をさせていただきます。
お待たせしました!人生でいちばん早かった1週間でした…笑 自分の中では反省点だらけな話にはなってしまいましたが、それでもベストは尽くしたつもりです。
長さについては、あんみつ姫様、ロビン様の後押しをいただいたので、現時点の換算で長編16分でしたがとりあえずそのまま掲示板投稿させていただきます。内容についても、改善点や矛盾している点などありましたら10個でも100個でもお申しつけください!お願いいたします。
(ただ、3時頃まで仮眠をとらせていただきます。返信がそれ以降になっても、どうか気を悪くなさらないでください…)
第四回リレー怪談 第二話
飛び起きた俺の首筋に冷たい汗が伝う。目まで隠れるほどの前髪が、べったりと額に張りついて気持ち悪い。
どうやら俺はまた悪夢を見ていたようだ。もう何度目だ、とため息をつきながら、がしがしと頭を雑に掻く。
意中の彼女に呆気なく振られて以降、夢の中でさえ夢を見られない日々を過ごしていた。
たしか夢とは深層心理の現れだった気がするから、悪夢ばかり見る俺はよっぽどショックだったのだ。そう思って、まるで他人事のように笑ってみる。
でも、うまく笑えるはずなんてなかった。俺はいまでは、学校中の笑い者になっていた。
悪夢以上の現実が目の前にはあったのだ。
俺が何をしたって言うんだよ。ただ好きな子に手紙を書いただけじゃないか。
薄気味悪い奴と思われるのには慣れていたが、失恋に傷心した今、誰ともなく笑われるのには耐えられなかった。そして俺は学校を休むようになったが、それでも執拗な笑い声が、ネットを通して俺を揶揄い続けていた。
学校の裏サイトなんて、見なければいい。でも、見なければいいのに見てしまう。俺は、自分というものが時々わからなくなることがある。彼女に手紙を書いたことだって、何かに突き動かされてペンを握ったようなものだった。
今となっては、夢ならばどれほどよかっただろうと思う。しかし、ここが現実であることは間違いないだろう。
それを確認するかのように窓の外を見てみると、何の変哲もない曇り空の中を大きなカラスが横切っていった。昼夜逆転の生活もすっかり板について、ちょうど最後の授業が終わった頃かなと手元のデジタル時計を確認する。
四角い画面は、PM4:44を示している。
あーあ、なんかもう嫌になる。
カラスが目の前を横切り、時計の数字は不吉なゾロ目。…いや、目の前を横切ると不吉なのは、黒猫だったか。あれ、もしかして犬?
というか、さっきのも本当にカラスだったのか?別の何かに見えたように気もするが、その何かの名前が思い出せない…。
オカルト研究部の部長としてあるまじき知識不足。でもそれが何であれ、いまの俺には目に入るものすべてが気分を盛り下げる引き金となり得た。
俺の気分を盛り下げるのは、なにも目の前の現実だけじゃない。ふとした瞬間にあの時の光景が脳内で蘇り、その度に俺はどうにかなってしまいそうになる。
普段から涼しげな彼女の目に別の冷たさが宿り、ぴくりとも表情を変えずに破られる俺のラブレター。教室の隅で何気ないフリをして見守っていた俺は、床に膝をつきそうになるのを必死に堪えていた。
が、そのままゴミ箱に直行し、紙切れを放って手をぱんぱんと払った彼女を見た時には、崩れ落ちるどころかあやうく吠えそうになっちまった。
もちろん、俺にはそんなことできるはずなかった。
俺は万年教室の隅っこで、指を咥えて同級生の青春を見守る傍観者なんだ…。つらい現実を直視したくなくて、情けない気持ちで目を閉じる。
目を開けたら、大好きな米津玄師になっていないかな、なんて思ってみる。
もっとも彼と俺の共通点は、鬱陶しい前髪しかないけど。でも、同じ前髪なのに、彼のはどうしてあんなにもカッコいいんだろう。
そしてふて寝気味に再び布団に倒れ込んだ俺は、悲壮感溢れる空想の代わりに、さっき見た夢の内容を思い出すことにした。
本当は悪夢なんて振り返りたくないが、今回の夢はいつもとは違っているような気がした。夢のはずなのに妙に生々しい実感が、寝起きの脳内にこびりついていた。
その実感を頼りに、まぶたの裏のスクリーンに悪夢の舞台を思い描く。俺が主人公になれるのはもはや夢の中だけなのかもしれない。そんなブルーな気持ちを取り払って、記憶の世界を辿っていく。
…え?
何かに気づいた俺は、目を開けて再びデジタル時計を見やる。4:59。もうすぐホームルームが終わって解散という時間だ。
今から学校へ向かえば下校途中の奴らに鉢合わせて、これまで以上に悪意のある嘲笑を受けるかもしれない。
それでも、俺は「あること」を確かめるために、制服を着て学校へ行く準備を始めた。
知識はないけど好奇心だけは一人前だ。何かに夢中になることこそ、失恋の特効薬なのかもしれない。少なくともこの部屋で考え込むよりは、外にいる方が気は紛れるだろう。
それでも、もし俺の思った通りだとしたら…。
さっきから胸の中で渦巻く得体の知れない不安は、しばらく学校を休んだ後に誰もが抱く、あの不安なのだと自分に言い聞かせた。
そして俺はモヤモヤした気持ちに踏ん切りをつけるために、勢いよく階下へと駆け降りた。最後の3段は覚悟を決めて、足をもつれさせながらも跳んでみる。
引きこもりのせいで鈍った体が、この時にはふわりと宙を舞った。額に張りついていた前髪が横に流れて、その奥に隠れていた、金色の瞳があらわになった。
*
「どこに行くんだ〜、遊輔」
数日ぶりの外出にどきどきしながら玄関の引き戸に手をかけようとした時、俺の名前を呼び止める声があった。
間延びしたその声は、しかし、俺の緊張感を跳ね上がらせた。俺は引きこもっている間、家の人たちの呼びかけにうんともすんとも言わなかった。それを含め失恋で荒んだこれまでの素行を咎められるのだと思って、玄関口でひとり立ちすくんだ。
声の主は、祖父だった。父も祖父も普段は穏やかだが、怒った時はとてつもなく怖い。そして、怒っているかどうかは声色だけではわからない。その声を無視して玄関を飛び出す手もあったが、そうすると帰ってきた時に地獄を見るかもしれない…。
そんなことを考えていると、突然目の前の引き戸が開いた。驚いて後ずさった俺を、外出から帰ってきたであろう父が笑った。
「どうしたんだ?こんなところで突っ立って」
俺が引きこもりを改心して外に出ようとしていることに、父はまるで気に留める様子がない。廊下の奥からは相変わらず祖父の俺を呼ぶ声が繰り返されていて、父は「呼んでるぞ」と、そう言って引き戸の前から動かない。
万事休す。もう逃げられないことを悟った俺は、父の後押しで大人しく祖父の前へと姿を見せた。
俺が居間に入ると、重厚な革の椅子に腰掛ける祖父が迎えた。歳に合わず豊富な白髪とそれ以上に立派な白鬚というその風貌は、まるでRPGのラスボスのように思える。あるいは仙人か?
「久しぶりだな」
彼の声と顔は笑っているが、心まで笑っているのかは怪しい。俺は祖父の本心がわからずに怯えながら、久しぶりに入る居間の様子をまるで初めて見るかのように観察した。
あらためて見ると、それは不思議な部屋だった。ひと言で言えば、丸っこいものがまるでないのだ。
テーブルや絨毯が四角なのはもちろん、四角い皿ばかり並ぶ食器棚やギザギザの葉をした観葉植物、そして壁に吊るされた十字架…。おまけにこの家には男しかいないから、角ばった部屋の中はいつだってむさ苦しかった。
俺がモテないのも男所帯なこの環境のせいだろう。せめてペットでも飼うことができたら少しは空気が和むだろうが、それは祖父と父が頑なに許さなかった。
祖父はじっと俺を見つめていた。父はその横で、俺と祖父の様子を伺っている。
俺はいよいよ怒られる気がして、それならば先に謝ろうと口を開いた時、祖父の穏やかな声がひと足先にその場を制した。
「もうすぐ文化祭じゃのう」
えっ?予想外の問いかけに少しの間固まってしまったが、すぐに気を取り直して首を縦に振る。
「文化祭といえば、なんじゃろうな」
今度の問いかけはイエスかノーかでは答えられないものだった。しかし俺は答えが思い浮かばず、頭の中でうんうんと唸りながら考えた。
そんな俺に助け舟を出すかのように、父が横から言った。
「俺や親父にとっては、文化祭だけが異性との交流のチャンスだったんだ」
それを聞いた時の祖父の顔は、心なしか寂しそうだった。祖父によく似ている父の顔も、同じようになんだかしょぼくれているように見える。
それから祖父は淡々と話した。
戦前は男女共学なんてあり得なかったこと。戦後には今の6・3・3の学制になると、手のひら返しに国が男女共学を強制したこと。共学への移行にはそれなりの苦労と、それを跳ね除ける楽しみがあったこと。
そんな時代の意向に逆らって、我らが私立鳳徳学園はつい最近まで男子校だったこと。ちなみに祖父と父は俺が通うその高校のOBで、だから二人は次々に共学化されていく周りの高校が羨ましくて仕方なかったらしい。
「遊平(父の名前)はそうでもないが、わしの時代は女の子と話すだけでも女々しいと殴られた時代じゃ。それが突然、男女肩を並べて同じ教室で過ごせと言われるのだから、うまく馴染めるほうが無理な話じゃった。
それでもすんなりと打ち解けるグループと、いままで通り同性で徒党を組むグループが両極端に存在した。
そしてわしはと言うと、一年に一度しかない文化祭でさえ、隅っこで彼女たちを横目で見ることしかできないグループの一人じゃった…」
だんだんと尻すぼみに小さくなっていくその声を聞いて、俺はなぜかどきりとした。
俺とおんなじじゃないか!まさか父も?
横を見ると、父はぐっと口を結んで何かに耐えているような表情をしていた。それを見た俺はなんだかやるせなくなった。
そんな俺と父に追い討ちをかけるように祖父は言う。
「つまりわしら、大神家の男は、恋愛に対して奥手家系というわけじゃ。はっはっはっ!」
俺は自分の失恋が彼らにバレているような気がして、祖父のようには笑えなかった。
それでも、祖父は俺が失恋したことを実際に知っていて、彼なりに慰めてくれているのかもしれない。そう思うと悪い気はしなかった。
とりあえず、怒られることはなさそうだ。途端に緊張が解けて、精神的に余裕ができると今まで温めていた疑問が思い浮かんだ。
この家には、男しかいない。祖母も、母も、俺が物心ついた時にはいなかった。
いや、俺は母がどんな人なのかさえ知らなかった。唯一わかっていることは、母はきっと外国の人だということだけだ。
この家の中で、金色の目をしているのは俺一人だ。だから、母は俺と同じ目をしているに違いない。
母はいまどこにいるの?父と母は、どうやって出会ったの?これまで何度も喉元まで出ては飲み込んできた疑問を、今なら屈託なく投げかけられるような気がした。
「呼び止めてすまん。これから用事だったな」
しかし祖父の言葉に、俺は今日も心を折られてしまった。
というより、話ってそれだけ?びっくりして祖父の方を見つめてみたが、親子3代みんな奥手であること以外にどうやら話すことはないみたいだ。
俺は拍子抜けした気分で、いそいそと居間を後にした。そして今度こそ玄関の引き戸を開けようとした時、後ろから父が声をかけてきた。
「気をつけてな」
俺は振り返って、うん、と返事をした。
ぴしゃりと戸を閉めてから、自分が嫌に感傷的になっていることに気づく。
俺が外出する時の父の常套句が、今日はなぜか違う響きをもって俺を見送っているような気がした。
それもきっと、俺が引きこもっていたせいだ。走り始めた俺の頬に、久しぶりの外の風が当たる。
冷たいはずの秋風が、まるで頬を撫でる誰かの手のように優しく通り過ぎていく。
俺はその風に、父や祖父のとは違う丸みを帯びた手を思いながら、学校までの道のりをひたすらに走っていった。
*
しかし、学校までの道すがら、俺は寒さに凍えそうであった。
「おい、大神遊輔が走ってるぞ!」
さっきまでの曇り空は、この時にはすっかり黄昏時の赤い空に変わっていた。夕陽に向かって走る俺を、帰宅途中の彼女らの黄色い声援、ではなく、やんちゃな男子の楽しそうな声が薄汚い野次を飛ばして笑っていた。
「もしかして、"ヤブレター"でも探しにいくのか?」「美波ちゃんが体育館裏で待ってるって言ってたぞ!」
俺の破られた手紙が"ヤブレター"と呼ばれていることは、裏サイトにも書いてあったから知っていた。でも、美波ちゃんが待ってる的な野次については、あながち嘘ではないように思えてむしろ嬉しかった。
そう思えるくらいに、俺は失恋から立ち直っていた。これも祖父や父のおかげかなと、心の中で感謝する。
甘瓜美波。奥手な俺の勇気が破り捨てられて以来、彼女の顔なんてもう見たくないと思っていた。それなのに、もしかしたら彼女に会えるかもしれないと思うとこんなにも胸が高鳴ってしまう。
それは、俺がまだ彼女に惚れてるからだろう。美波ちゃんはやっぱり、俺にとって特別な存在だったんだ。
男はみんな狼っていうけど、自分はそうじゃないと信じたかった。一目惚れとはこんなにも純粋な気持ちなんだと、彼女を見て初めて知った気がした。
しかし、彼女に惹かれたのは俺の"目"だけではない。あの魅惑的な甘い香りが、今でも鼻腔をくすぐり続けていた。俺は昔から鼻が効くから、彼女の匂いにやられたといってもよかった。それは変態的な意味ではなく、ただ彼女の匂いは、なぜかとても安心する、懐かしいような匂いだった。
もちろん、もしそんなこと彼女に言ったら、今度は手紙を破られるどころじゃ済まないだろうけど…。
とにかく、数週間前にはへこたれていた冷たい野次にも、彼女のことを想えば耐えられた。それどころか外野からの声は、まるで自分を、城に囚われた姫を救う勇者の気分にさえしてくれた。
そう、俺は、美波ちゃんを助けるんだ!そして孤独な寒さに耐えて走り続けた俺は、久方ぶりに学校の正門前に立っていた。
グラウンドから聞こえてくる部活動の声が、なんだかとても遠くのものに感じる。
オカルト部のみんなは、今頃どうしてるのだろう。…って、部長である俺が休み始めても誰一人連絡をよこさないのは、いったいどういうことだ⁈
それは置いとくことにして、校門をくぐると、家を出た時から決めていた目的地へと直行した。
俺の見間違いでなければ、あの悪夢の舞台は…。
なるべく人に会わないように体育館の裏を通り、敷地の端っこを沿うようにして本館をかいくぐる。やがて見えてきたのは、学校には似合わない赤茶けた煉瓦張りの建物だった。
それは、おそらく父や祖父が悲しき青春を過ごしたであろう、今は使われていない旧校舎だった。人っ気がないうえにその奥には英国人墓地と礼拝堂が控えていて、この辺りだけいつも不気味な雰囲気が漂っている。
しかし、俺にとってここは恰好の休息場所だった。みんなから薄気味悪いと敬遠されている俺は、いつもこの旧校舎のそばに座って一人で昼食を食べていた。
だから、見慣れたこの景色を俺は鮮明に覚えていた。
やっぱり、間違いない。今日の悪夢の舞台は、この旧校舎だったんだ。特に、あの時計塔は見間違えるはずもなかった。なぜか長時間見つめることのできない、まん丸で不気味なこの時計は夢の中にも存在した。
そして。あの夢の続きでは、俺はたしかに女の子の悲鳴を聞いた。鼻に比べれば耳はそれほど敏感ではなかったが、それでも俺は美波ちゃんの声を聞き間違えるがなかった。
あの夢の中で、美波ちゃんは何者かに襲われていた。俺はその何者かの姿までは覚えていなかった。あるいはそもそもその姿を見ていないのかもしれない。
ただ、美波ちゃんと思われる悲鳴を聞いて、そこで目が覚めた。俺はこれまでと違った悪夢に後味の悪さを覚え、あまりにもリアルな実感に嫌な胸騒ぎがした。
わざわざ学校まで来たのも、もしかしたら本当に、現実の美波ちゃんによからぬことが起きるかもしれないと思ったからだ。これは俺の知ってる数少ない知識のひとつだが、眠っている間に見る夢とは、起きている時の無意識に影響されるらしい。
俺は美波ちゃんを意識して過ごす日常の中で、あんな夢を見てしまうほどの異変を無意識に感じていたのかもしれない。そう思うと、部屋の中に閉じこもってなんかいられなかった。
野性のカンといえば聞こえはいいが、俺の衝動的な性格は、手紙を書いた時から何も変わっていない。でも、何も行動に移せないより、たとえ失敗してでもやってみる方がいいに決まってる。だから、たとえ夢だとわかっていても、俺はここに来たことを後悔していない。
なによりも、俺の大好きな美波ちゃんに何かあってからでは遅いのだ。
…ここからは、"もし"の話だけど。美波ちゃんにもし何かあったら、その時には俺は身を挺して戦ってやる。化け物でも怪物でも、どんとこい、だ。
部屋にいる時の悲壮感溢れる空想から一転して、根拠のない自信から生まれる妄想に没頭していた俺は、ふと、甘くて懐かしいようないい匂いをかいだ。
それは俺の鼻腔が覚えている、いまいちばん好きな匂い…。そして匂いの正体に気づいた俺は、咄嗟に木の影に隠れてしまった。
俺は無意識にそうしていた。これが奥手家系の血筋ってやつか、なんて感心している場合ではない。
俺の目の前に、現実の美波ちゃんが現れたのだ!まさか本当に会えるとは!
俺の胸は張り裂けんばかりに高鳴った。しかし、待ちに待った彼女の姿を見て、俺は目を見開いて絶句してしまった。
そもそもどうして美波ちゃんが旧校舎に?その答えは、彼女の後ろをひょこひょことついて歩くひとりの男が教えてくれた。
そしてさっきまでの自信満々な妄想は砕け散って、後に残ったのは、あまりにも残酷な現実だけであった。
*
俺は息を潜めて、二人の様子を伺っていた。
あの美波ちゃんが、男を連れて歩いている。そして人気のない場所で二人きりですることなんて、八割がた、やらしいことに決まってる。
この時すでに俺は正気を失いかけていた。もはや夢の続きなんてどうでもよかった。
いちばんの悪夢は、目の前にあったのだ。俺はその元凶である男の顔を、ありったけの憎しみを込めて睨みつけた。
あれは、たしか秋永という奴か。彼も俺と同じように、教室の隅で目立たないような奴のはずだ。なのに、なぜ美波ちゃんと一緒に歩いている?
モヤモヤが収まらないうちに、彼らは窓ガラスを割って扉の鍵を開けると、旧校舎の中に入っていった。
もし先生に見つかったら停学は確実だろう。そんな危険を犯してまで、彼らはいったい何をするつもりだ⁈
俺はもちろん、彼らの後を忍び足でついていった。
このままでは終われない。もしかすると、美波ちゃんは秋永に弱みでも握られている可能性も拭えない。
俺は悪夢の中で聞いた悲鳴を思い出す。美波ちゃんを叫ばせた何者かの正体は実は秋永なのかもしれない、なんて、夢と現実の区別もつかないことを思ってみる。
しかしあながち嘘ではないような気がしてきて、憎しみのこもった獰猛な目つきで二人の背中を観察した。もし秋永がよからぬ行動をした時には飛びかかれるように、俺はすでに臨戦体制にはいっていたのだ。
ただ、ひとつ気になるのは、明らかに美波ちゃんが秋永を先導しているということだ。窓ガラスにしても、信じられないことに割ったのは美波ちゃんだ。
いや、正確に言うと割ったのは秋永なのだが、彼は美波ちゃんに指示されて渋々といった様子だった。だとすれば、弱みを握られているのは秋永の方なのか?
そんなことを考えながら二人の赴くままについていくと、廊下の突き当たりで彼らは立ち止まった。
これ以上近づけば俺の存在は彼らにバレてしまう。しかし、もっと近づかないと彼らが何を話しているのか聞こえない。曲がり角に隠れて葛藤していると、突然美波ちゃんがブラウスのリボンに手をかけるのを見てしまった。
おいおいおい、ボタンとってるよ…。えっ!襟元はだけさせて美波ちゃんの方から見せてる!
秋永の奴、鼻の下伸ばしてんじゃないだろうな。ちくしょう、いったい全体何が起こってるっていうんだ…。
どうか夢であってくれ。そんな願掛けは今となっては手遅れに思えた。俺が学校に行っていない間に、美波ちゃんに何があったんだ⁈
そして、俺は何かに緊張するような彼女の顔を見て、この後の展開を予想してしまった。いつも堂々としている美波ちゃんが、ひとりの男の前で、体を震わせている…。
俺はもはや、完全に正気を失っていた。
夢のままだったら、どれほどよかっただろう。あのまま空想で終わりにしとけば、俺は悲鳴を聞いて颯爽と現れる勇者にもなり得たのに。
少なくとも、その可能性はあったのだ。せめて夢の中だけでも、存分に夢を見ておけばよかった…。
現実なんて、糞食らえだ。俺は胸の内でそう吐き捨てると、足音も気にせずに無我夢中に走り出した。馬鹿な俺は出口の場所なんて覚えていなかった。それでも、気がつけば外に出ていた。
一階の渡り廊下へと続く扉のひとつが、なぜか開いていることに気づいたのだ。そこは旧校舎の裏側、つまり、英国人墓地や礼拝堂の付近で、旧校舎一辺の中でも最も不気味といえる場所であった。
しかし、この時の俺には人並みに感じるべき恐怖なんて関係なかった。正気を失っているのだから、当然と言えば当然だ。
俺はまるで誰かに見せつけるように、わざと墓地の真ん中を横切り始めた。それは何かに突き動かされているような、自分の意志ではない行動に思えた。
いや、本当に、俺は何をやってるんだ?
何かが俺を誘き寄せてる?しかし思考がはっきりと定まらず、自分が自分でないような感覚だけが残る。
正気を保てないというより、意識が朦朧としているこの感じ。美波ちゃんに手紙を捨てられた時に抱いた激情とは、同じようで何かが違う。
いや、俺は最初から気づいていたはずなんだ。この旧校舎には、美波ちゃんとは別の、もうひとつの魅惑的な匂いが漂っていることを。
そして俺は、その匂いの正体と同じ存在に"なりたがっている"ことを。
彼女がこれからするであろう愛の告白を想像して、取り乱してしまったがために俺はその匂いに惑わされてる。
そう自覚するが、すでに体は言うことを聞いてくれない。
俺はまるでゾンビのように、少しの間ふらふらと墓地を彷徨っていた。やがて立ち止まった俺の足元には、誰かが掘り起こしたのかもしれない墓石が無惨に転がっていた。
誰が、何のために?
疑問符ばかりの頭で墓穴を覗いてみる。そこにあるはずの棺桶は綺麗さっぱりなくなっていて、俺を誘惑し続けた匂いがこれまで以上に鼻につく。
思えば俺が校内の出口を見つけられたのも、この匂いのおかげだった。いまならわかる。それは冴えた獣の匂いで、それでいて、まるで誰かに抱きしめられているような、安心できる匂い…。
そのとき。頭上の空を、大きい鳥のような影が疾風とともに横切った。つられて俺は上を見る。前髪が風で流れたために明瞭になった視界の中で、俺はどう見ても夢のような光景を目の当たりにした。
空飛ぶ何かの正体は、すでに見当たらない。しかし、その時の俺は別の何かに惹きつけられていた。
夕焼けの陽光をそのままに、その反対の空にはっきりと浮かぶこの世のものとは思えないような真っ赤な満月。さっきの疾風で覆っていた雲が流れたために姿を現したのだろう、そのまん丸な満月の周辺には細く薄い雲が朧げに漂っていた。
淡い赤色の光が雲の灰色と混じり合い、艶かしさを感じさせる紫色が辺りを包み込んでいる。しかし驚くべき変化は、そのような身の回りの環境だけではなかった。
俺の体、大きくなってないか?
前髪なんて比にならないくらいの鬱陶しい毛が、体中を埋め尽くす感覚がぞわぞわと全身を這う。制服は今にも張り裂けそうだが、すんでのところで持ち堪えている。
俺は、今から自分が何をしようとしているのかがわかった。これも深層心理、あるいは本能というやつか、なんて悠長に言ってられない。
どうか夢であってくれ。このままだと、俺は俺ではなくなってしまう。
その時、時計塔の大鐘が突然に鳴り始めた。
鳴らないはずのその鐘は、地響きのような轟音を辺りに振り撒いていた。
この音なら、紛れる。そう考えると、俺を人間に留めていた、理性のタガが外れた。
胸の内のすべてを吐き出すように、ありったけの力で喉を震わせる。
そして、俺は鐘の鳴っている数十秒間。
月下に吠える、一匹の獣となった。
(第二話 終わり)
五味お兄様、お疲れ様です!
あんみつお姉様!はい!最初そのようなルールにいたしましたが、15分程度なら全然許容範囲ではないでしょうか?せっかくの描写を削るというのはもったいない話ですので、僕的にはオッケーです!
@五味果頭真 様
ラストスパート おそらく佳境に入り、力の抜き方や駆け引きを考えながら走行している途中ですね。箱根駅伝でいうと どのあたりの坂にあたるのかな?
もし、冗長だなぁと思われるのであれば、大鉈をふるい、あとは、次に続く走者様に委ねるという英断もありかな?と。
主人公君?どうした!!
不思議な存在 彼女自身が旧校舎同様「魅惑」の人ですが、むむむむむ どう絡んでくるのかな?
狼男に 狗神的な存在の黒い犬と 死神との攻防…
読むのが楽しみです。
さて、皆様
五味様は、新人さん(といっても既にベテランの域に達していらしゃいますが)ですし、
リレーも初体験ということで、長編15分でしたら許容範囲内としてもよろしいのではないでしょうか。ちなみに第一回リレーの際、長編10分超えしたのは、10名中4名でした。最長17分でしたが、ストーリー展開が手に汗握るというかハラハラドキドキだったこともあり、長さをかんじさせなかったですね。
@あんみつ姫 様
温かい応援のお言葉ありがとうございます!あっという間に金曜日になってしまいました…
仕事から帰り、今からラストスパートをかけます!明日の正午あたりには掲示板に投稿できたらと考えてます。
また、皆様へ。このリレー企画においては、できれば中編程度の長さに収まるようにとルールにありましたが、長編15分は許容の範囲内でしょうか…?今の段階ではおそらくそのくらいの文字数になってしまいそうですが、10分程度に!ということなら削ることもできます(無駄な描写とか多い気がするので…)
とにかく、今は最後まで書き上げることに専念します!主人公くんを家から出すのに2日を要してしまいましたが、なんとか間に合いそうです!笑
ロビン様、あんみつ姫様
愛のある叱咤激励、ありがたいです。
姫様のいわれる通り、学園ものという自分の全く手掛けていないジャンルということも、不安要素の一つですね。まあ、ポジティブに捉えると、手掛けていないジャンルだからこそ、新しい境地が開けるという考え方も出来ますよね。
いずれにしろ個性というのは、今更変えられないので、私は私の世界観で表現するしかないな、と開き直っておる次第ですwww
@綿貫一 様
お忙しい中、早速の返信ありがとうございます。
ロビン様や綿貫様ほかたくさんの優れた作家様がいらっしゃいますし、リレー作品以外であれば、本編投稿作への怖いとコメントは大丈夫ですね。
よかったです。
昨日、懐かしい作品と遭遇し、つい怖いを押してしまったものですから。
ありがとうございました。
感謝します。
@あんみつ姫 さん
今回のリレー小説参加者は、「怖話」投稿ページに投稿された今回のリレー小説に対し、「怖い」を押すこと、コメントすることを控える、ということですね。
リレー小説とは関係のない、各人の「怖話」投稿作品については、上記の限りではありません。
@ロビンⓂ︎ 様 綿貫様
ルールですが、あくまでも本編に上った本作に対する評価とコメントはしないという解釈でよろしいですよね。
それ以外の作品に対するコメントや評価もいけないということであれば、自作品を挙げること自体いけないということになりますが。
そこまで制限はないですよね。
返信お願いします。
五味様
第二走者頑張っていますでしょうか。
正念場の上り坂の後は、美しい朝日に輝く自作品と、タスキとバトンを落とすまいと息をこらして次の走者様が待っています。
もうひとふんばりです。
こんな時間にしか来ることができなくて申し訳ございません。
ウザい応援すみませんでした。
@車猫次郎 様
な、なにをおっしゃいますか。
でも、ストレートに今のお気持ちを正直に吐露してくださってありがとうございます。
学園ものということで、そっち系のアニメやライトノベルを漁ってみようと思いましたが、付け焼き刃は、メッキのごとく剥がれてしまいそうですし、そもそも時間がない!!ということで、恥をさらず覚悟でおります。
@ゲル 様
こんばんは。
こんな時間に失礼いたします。
ゲル様は、画像提供してくださったり、真っ先にこのイベント企画に参加する意志を表明したり
決してそんなことはございません。
ルールや心構えも ほぼ万全の状態で迎えた今回のリレーです。
主宰者のロビン様やトップバッターを引き受けてくださり、素晴らしいスタートを切ったゴルゴム13様 しっかりと前回のリレーまでの経過を把握し、ルール他必要十分条件をわかりやすくアップしてくださった綿貫様 はじめ ここに参加なさった作家様全員にエールを贈ります。
逆に、私のコメントがプレッシャーになっていらっしゃるのであれば、お気になさいませんように。ある意味、最近、暴走気味の自分自身の戒めとして挙げたコメントでもあります。
このイベントに参加することを決意なさった作家様たちへの配慮、労いもまた大切だと思いました。
物語を紡ぎ出す作業は、孤独で辛いものです。
先にコメントしてくださった車様が抱かれた不安は、おそらく全員が感じておられるのではないでしょうか。オムニバスを提案したのも、そういう思いからでした。リレーという趣旨からは若干離れるかもしれませんが、本筋のストーリーとは別に膨らませたいエピソードや書きたい思いは必ずあるはず。それは、個性でもあり、その作家様にしか描けないタラント(才能)でもあります。
第一回は参加者として、第二回第三回は、読者として通読した際、感じたことです。
例を上げてもよろしいのですが、長くなってしまいますし、また別の機会にコメントします。
本編の「怖い話」にアップしても問題ないようですし、あとは、第二走者である五味様の走りを応援したいと思います。
私が一番の足引っ張りになるかも。
_| ̄|○
ではでは、このへんで。
下手の長談義も辞めなきゃいけませんね。
猫お兄様、よければ僕と一緒に手を繋いでもらって一緒に震えを抑えませんか?…ぶるぶる…
いやあ、軽い気持ちで参加したこの企画でしたが、今更ながら大変だということに気付きました。
遅すぎか?(笑)
一番難しいであろう思うところは、
大筋の流れをいったいどこまで崩していいのだろうか?というところです。
あまりに崩してしまうと、通して読んだとき、まとまりのない作品になってしまうだろうし、かといって、あまりに流れに沿ってしまうと、凡庸で詰まらないものになりそうだし、、、
ん~ん、、、頭を悩ましそうです。