岩手県二戸市金田一字長川41
妖怪・座敷わらし。男が見ると出世し、女が見ると玉の輿に乗ると言われている。岩手県には、そんな座敷わらしが住んでいるという旅館が存在する。テレビなどのメディアで何度も紹介されている旅館「緑風荘」だ。
東北新幹線で二戸駅まで行き、そこでいわて銀河鉄道線に乗り換える。金田一温泉駅で下車。温泉郷だが、繁華街のような喧噪はなく、田畑や民家が目立つ静かな里だ。駅前から数分ほど歩くと緑風荘が見えてくる。
旅館として開業したのは60年ほど前だが、家屋自体は300年もの歴史がある。座敷わらしは古い建物が好きなので、ここは好条件がそろっているわけだ。
緑風荘の先代当主である五日市栄一氏は、初めて座敷わらしを見たときのことをこう語る。
「祖父の代までは、座敷わらしは狐か狸のしわざと考えられていた。それがある晩、私が眠っていると突然強烈な金縛りに襲われた。すると枕もとに黒と茶のしま模様の着物を着た7,8歳くらいの男の子が立っていた」
このおかげかどうかはわからないが、五日市氏は第二次世界大戦の徴兵を免れている。
緑風荘は本館と別館に分かれており、座敷わらしは本館の「槐(えんじゅ)の間」に現れることが多いという。テレビで取り上げられてからは、問い合わせが殺到。ここに宿泊した多くの著名人が、実際にここで座敷わらしを見たという。その中には原敬元総理や、ホンダの創業者の本田宗一郎氏、パナソニックの創業者の松下幸之助氏、作家の遠藤周作氏などがいる。
また、漫画家のつのだじろう氏もここで宿泊し、座敷わらしを見ている。後日、それを絵に描いて五日市氏に渡すと、額縁に入れて飾ってもらえることになった。
あるテレビ番組の取材で、五日市氏がその座敷わらしがまばたきをするというハプニングが起きた。絵の中の妖怪がまばたきをする・・・想像すると非常に不気味だ。
槐の間は2011年12月31日まで予約でいっぱいだったが、その2年前に火災が起きてしまう。座敷わらしを祀っていた中庭の神社を残して、緑風荘は全焼。そんな大参事にもかかわらず、従業員と宿泊客は全員無事だった。もしかすると、座敷わらしが守ってくれたのかもしれない。
伝承では「座敷わらしが去ったあとの家は衰退する」という恐ろしい話もある。この火事はそれが原因と考える人もいるようだが、それはあくまでも伝承だ。
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