オチがいまいちだった点で評価は低いが,その表現能力は非常に評価できる作品。前半はダレるが,後半の妄想なのか,想像なのか,現実なのかがわからない恐怖を鑑賞者に与える(そして,それらは自分のものなのか,他人ものなのかもわからないという点でさらに怖い)。
この表現で鑑賞者に提示されるイメージは,「多くの人の脳みそがつながって同じ夢を見ているような状況」(←これ,どっかのブログからの引用)である。だが,一人の人間がこの「夢」をどこまで夢として,あるいは他人のものとして認識しているのかは鑑賞者にはわからない。
ストーリーは,アイドルから女優に転身した女性の,職業選択,自分が向いた職業は何かという「自分探し」の悩みとアイデンティティの不安定さを中心に物語は展開していく。そのキーワードとなる会話が劇中劇である猟奇殺人事件のドラマのセリフとして表れている。
「ねぇ、一秒前の自分と今の自分が、どうして同じ人間だってわかると思う?」
「え?」
「ただ記憶の連続性、それだけを頼りに私達は、一貫した自己同一性という幻想を作り上げている。」
物語の後半は,連続していない記憶,そして自己同一性が崩壊していく様をあたかも自分のものとして感じることができる。そこでは,不安定な自己が,他人の想像した「現実のあり方」から影響を受けることによって,さらに不安定化していくスパイラルを描いているようにも思える。
このような自己の不安定さを描くことによって現代人の不安を描いている点で評価できる。しかし,映像イメージとしてその描写ができているにも関わらず,ストーリーの展開は映像で提示されたような混沌としたものを伝えるものではなく,シンプルに解決されるものであり,そのギャップが残念。
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