『オペラ座の怪人』というタイトルを誰しも耳にした事くらいはあるんじゃないだろうか。本作は原作小説から映画化された『オペラ座の怪人』の中で3番目に世に出てきた怪人(ファントム)であり、名前も一文字抜けてつるっとした感じのちょっと変わった作品だ。本作は1943年の作品でミュージカルではなく劇中歌もオペラの一曲程度しかない。怪人はオーケストラのバイオリン奏者という職を持っており、陰ながら賃金の殆どをヒロインのレッスン代に費やしているが、奏者も引退勧告をなされており見通しは暗い。家賃も払えないのにレッスン代の捻出に翻弄する怪人を見て、視聴者側は「何故?」と思うだろう。本作の最大の違いは、怪人の人物像を掘り下げた事であり、モンスター映画でありながらあくまで怪人は人間である。何故顔を隠すようになったのか、何故殺人を犯したのか、怪人が何故ヒロインにこだわるのか。それを提示する事で、直接は語らなくとも、一番感情移入の出来る人間臭い怪人になっている。それと対象するかの様なオペラの華々しさ・ヒロインの陽気さが眩しく、余計に怪人の陰鬱さと狂気が際立ち、次々と人を殺める様にもの悲しさを覚える。『オペラ座の怪人』は現代までで9回実写映画化されており、近年ミュージカル化された事である程度傾向は固まってしまったようにも思う。しかしどの作品でも、もしも『怪人』本人に興味が出たならば、この変わり種の『オペラの怪人』を見てみても悪くないと思う。
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