『オペラ座の怪人』とか『美女と野獣』に似てるけどちょっと違う感覚。
愛する人が化け物に変わってしまった事で引き裂かれる、でも心は以前と何も変わらないからお互いの愛情は変わらない…でも理性を失う前にお別れしなくちゃいけない…そんな感覚。
前半は完全にミステリー要素で構成されていますが中盤は恋愛要素が強くほのぼのとしたシーンが続き後半でようやく若干のホラー演出を混ぜて、事件の核心に迫る感じです。
ホラーといっても肝心の蝿男の姿が何ともショb……いえ、残念で、ホラー映画だけどホラーとして観るのは辛いと思います。
短編ミステリー小説なのでミステリー風の冒頭、ミステリー作品を読んでいるような人間関係も頷けます。
B級映画ではありますが、そのB級感が中盤のアンドレとエレーヌの微笑ましい夫婦生活を素朴に見せ、だからこそ愛おしく思えて良いと思います。
何となく色合いや画質的にドラマ版『奥さまは魔女』を彷彿とさせますね。
ところが冒頭でアンドレは上半身を潰されて死んでいるので、その幸せっぷりを見れば見るほどこれからアンドレが悲惨な死に方で死ぬという恐怖に追い詰められていきます。
しかもこの恋愛パートの最中に容赦無くフラグが立ちます。そういう意味ではスリラーかもしれません。
この夫婦、仕事がうまくいったアンドレが上機嫌でエレーヌを抱き寄せたり、エレーヌがアンドレの頭を撫でたり、とにかくクッソ可愛いです。
けれど、アンドレは装置の事故で蝿と身体の一部が挿げ変わってしまいます。
それが「蝿男」であり、シリーズ共通のコンセプトなんですが…。
顔を隠しながら音や筆談で交わすエレーヌとのやり取りや、人間らしさを喪失していく自分に絶望し死ぬ事を決意したアンドレが、エレーヌに顔を見られた後で伝えようとする純粋な愛情…。
人ではなくなってしまった故に成就できないキスや人間の理性が崩壊していく中に乱雑な字で紡がれていくLOVE YOUの文字がただひたすら悲しくて悲しくて…。
自殺の協力をさせられるエレーヌがとっさに一緒に死のうとするけど、アンドレに拒否されるしホラー映画だということを忘れますというよりジャンル間違ってる気がします。
夫婦はある日突然そんな悲しい結末を迎えたというのに、エンディングではフランソワがエレーヌといい感じになって終わるというあまりの自体に二回目以降は「主人公なら何でもしていいわけじゃないんじゃーこの泥棒猫が…っ!(ギリィ」と思ったりもしましたが。
(初見では泣き過ぎて「フランソワ…フランソワ…アンドレの代わりにエレーヌ幸せにしたげてね…ぐすっぐすっ…」って感じだったのですが…)
でも二作目で丸くなったフランソワが普通に良き義父になってたので許せるようになりました(^^;
アンドレが良き夫過ぎて、死んでしまうのが辛い。
とはいえ、ホラー系作品最初のカラー映画らしいし、そのせいか現代作品で世代を超え、ネタにされたりパロられまくっているのでちょっと苦笑い。
なお、原作にも目を通しましたがストーリーはほとんど同じで、でも映画版より悲惨でした。
映画版のエンディングの何と優しい事か。
結果として観て良かったです。
コメントをするには会員登録が必要です