男はつらいよ 男はつらいよ

ささやかな日常の幸せを破壊されることが、一般人にとってのリアルな恐怖であろう。その恐怖を存分に味わうことができる「国民的娯楽映画シリーズ」の第1作がこれである。東京葛飾柴又で団子屋を営む老夫婦と娘同然に可愛がっている姪が一人、その慎ましくも穏やかな日常がある日粉々に砕け散る。そうヤクザなフーテン「車寅次郎」が帰って来たのである。帰ってくるなり派手な喧嘩をおこし、毎晩大酒を浴びるように飲み、あまつさえ妹のお見合いの場に同席し乱暴狼藉の上見事これを粉砕。柴又界隈を荒地のごとくにし、何一つ責任を取ることなく又旅に出る。これが大まかなストーリーである。若かりし渥美清が演じる主人公寅次郎の暴力性がすごい、シリーズ後半に見せる物わかりの良さ等皆無で、自らの気の向くままことを進めていくその姿は、東京タワーをなぎ倒すゴジラを思い出させる。漫画家のますむらひろし氏が「男はつらいよ」を見て、周囲にこんな人がいたらとても耐えられないとの感想を述べていたのを何かの本で読んだが、多くの人にとってもそれは同じであろう。我々堅気の人間が日々の努力をもって必死に維持している日常の幸せが壊される理不尽さ、それは天災といっても差し支えないものである。寅次郎は津波であり、地震であり、または疫病であり、我々はただその猛威が過ぎ去るのをただじっと待つことしかできないのである。この恐怖劇場は後47作作られることとなるが、1~10作目ぐらいの寅次郎の暴れぶりは一見の価値あり!