鬼婆 人間の本質を鋭く描いた秀逸な作品

どこかで「和製ホラー」と書いてあったような気がするのですが、人間の本質を鋭く描いた秀逸な作品でした。

南北朝時代、息子を戦にとられた中年の女は、息子の嫁と落ち武者を殺しては鎧甲冑、刀などを奪って生計を立てていた。

殺すことは生きること。

生きるために、殺し奪うことは正当化される。

食うこと、眠ることと同様に、殺すことは人間の根源的な欲望として描かれている。

が、女二人の生活を一人の男が狂わせることになる。

息子の戦死の知らせとともに現れた男は、嫁の性欲を刺激する。

老境にさしかかりつつある女は、嫁が自分のもとを離れると一人では生きていくことはできないと危機感を募らせる。

男との逢瀬に耽溺する嫁、それを引き止めたい姑。

姑は、鬼のふりをして嫁を驚かせることで、嫁の逢瀬を食い止めようとするが…。

芥川の「羅生門」に登場する老婆を思い出させる。

「鬼婆」というタイトルだが、登場するのは「鬼婆」などという異界の存在ではなく、あくまでも人間、人間らしい人間だ。

人間など美しくはない、美しくないからこそ人間なのだろう。

姑は鬼の仮面をかぶったことで顔にひどい傷を負うが、姑のあの行為は責められるものだろうか。

生きていくために誰かを必要とし、その人の行動を規制したいと思う欲望は、誰にでもあり得るものだろう。

過酷な時代を経て人類がこれまで残ってきたのも、ああいう貪欲でたくましい?人たちがいたからこそなのか。

そうじゃない人たちは淘汰される…など、現代に置き換えてもあてはまるような気がしてひとしきりでございました。