実に様々なテーマを持った映画を撮っているダニー・ボイル監督ですが、そんな監督だからこそ普通にゾンビ映画を作るわけがありません。
本作において、ゾンビは生きている感染者にすぎず、つまりゾンビ対人間というモンスターパニックではないんですね。あくまで人間対人間の殺し合いをあけっぴろげに見せつける映画になっています。
冒頭、ウィルスの保菌者である猿に見せているモニター映像は、すべて人間の愚かしい争いの歴史ばかり。
主人公のジムは、軍人たちに蹂躙された「怒り」を最後に爆発させます。その様子を目撃するセリーナの目には、ジムの姿は感染者と変わらずに映るのです。
レイジウィルスの力など借りなくても、「怒り」の感情が暴走すれば、人間は抑制のきかない殺戮者になりうるという現実を描いた映画だと思います。
その一方で、ジムとセリーナは生き残るために終始、助け合います。
人間は殺し合う、しかし助け合うこともできる。
複雑な感情があるからこそ、人間という種は矛盾を抱えて生きていく生き物なのでしょう。人間の醜さと素晴らしさ。どちらの面も平等に描かれています。
エンディングは希望を残すものになっていますが、劇場公開バージョンとして収録されている別エンディングは、ジムが死んでしまうバージョンです。
病院で目覚めるジムで始まり、病院で息をひきとるジムで終わるんですね。
まるで、その間の出来事が幻だったのかのように錯覚してしまう締め方ですが、生き残る決意をもって旅立ってゆく女性二人が、人間の強さの象徴のように思えました。
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