投げやりな邦題で損をしている良作は数あれど、本作『デモンズ’95』くらいワリを
食っている作品も珍しいのではないだろうか。
一部の、食わず嫌いをしない良心的なホラー(スプラッタ)愛好家たちに見出され、
彼らの筆によって紹介されてはいるが、やはり知名度の面で大きく劣っている。
寡作ながら、良作・傑作ばかりをモノにしているミケーレ・ソアヴィが監督であり、
彼の(現時点での)劇場最終作であるだけに残念な限りだ。
とはいえ、本邦でビデオスルーされた不遇の過去を思うと、ほぼ無名の存在である
ソアヴィの作品を売り出すには、商業作品として、彼の師匠であるアルジェントの
偉名の尻馬に乗った方法論は仕方のないことかもしれない。
さて、本作の不当な扱いに関するグチはこの辺りで切りあげて、肝心要の内容に
ふれていこう。
原作としてバンデシネが存在しているそうだが、残念ながら筆者は未読。
しかし、映像と演出から、間違いなくソアヴィの手によるそれとわかる。
デビュー作である『アクエリアス』から連綿と続く美しい「画作り」は健在であり、
目にしている作品がホラー(ゾンビ)ジャンルであることを忘れさせるほどだ。
ドギツイ内容を期待すると肩透かしを喰らうものの、良質なアート系の単館上映作を
彷彿させ、満足のいく映像体験を得られる。
キャストにも力がはいっており、主人公フランチェスコはシェークスピア俳優である
ルパート・エヴェレットが、そして、非常に「イイ味」を出している相棒役のナギを
フランソワ・ハジー・ラザロが演じている。
ゾンビが脅威ではなく「添え物」扱いされてはいるが、全編を通してみなぎる不穏、かつ
悪夢的な閉塞感は、正しくホラー映画といえよう。
また、ラストにいたり、その閉塞感が一気に諦観へと変わるカタルシスは筆舌に尽くし難い。
ホラー・ファンを自認する向きが本作を未見であるのは大変な損失、是非とも観るべし!
コメントをするには会員登録が必要です