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ブラック・スワン 役者陣の怪演が目を引く

軒並み評価が高いことや『レスラー』『レクイエム・フォー・ドリーム』のダーレン・アロノフスキー監督ということで嫌が応にも期待が募り、ハードルが高まる。そしてこの映画鑑賞後の充足感は計り知れないものだった。ハードルを軽く飛び越えたのだ。

自分はこの監督の作品は『レクイエム・フォー・ドリーム』しか見ていないので大それたことはいえないが、このレクイエム〜を見たときのえもいわれぬ不快な感触が今でも忘れられない。一番といってもいいほどにトラウマを抱えた作品だ。そして今回鑑賞したブラック・スワンもストーリーの違いもあり、トラウマを抱えるほどではないけれど、相変わらず見るものを不快にさせることに関しては天賦の才である。

不安な内情を晒すようにぐらついたカメラワークに始めのうちは、カメラ酔いしそうだな、と思っていたのだけれど、現実と虚構の狭間を行き来する展開にぐらついたカメラが気にならないほど世界観にのめり込んでいった。これには酔いもきれいさっぱり覚めてしまった。

そんな不穏な空気をさらに引き立たせるのが歪んだ協奏曲が奏でられる音楽。これには寒いことを言ってしまうけど戦慄が走る旋律に胸が掻き毟られる想い。

そういった演出の中で自分を見失っていくナタリー・ポートマン、娘を寵愛するバーバラ・ハーシーを代表するように役者陣の怪演が目を引く。

本編終了後、エンドロールで暫し茫然となってしまった。こんな映画は久方ぶり出会っていなかった。

爽快感はあまりないので、そう何度も見たくなる映画ではないけど、衝撃度は限りなく高い。