後味の悪い、心を陰鬱にする作品。人の心の持つ、自己中心的な他者への愛を感じない部分を主人公に先鋭化させた作品。

原作は正統派ホラーだったけど、こっちはブラックコメディって感じ。大竹しのぶと西村雅彦の過剰な演技も笑いを誘うし、ボウリングのシーンなんかは妙にシュール。これ、やっぱり狙ってるのかなぁ。

青い空とか、海とか、ガスタンクとか、森田監督らしい演出は例によって盛り沢山。大竹しのぶ演じる幸子の象徴として、ボウリングの玉や黄色い服など、原作に無かった要素も取り入れられている。この手法も森田監督ならではのもので、初期作品から、この後の「模倣犯」に至るまで、積極的に取り入れられている。

西村雅彦の登場シーンにノイズが混じったり、画面がいきなり一色に染まったりする演出や、向日葵の写真を入り乱れさせるオープニング、ザッピングを駆使した金石と若槻の酒場のシーンなどは結構好き。

ただ、いろいろな部分がはしょられているし、キャラクター造詣も原作と結構違う(若槻挙動不審すぎ、幸子最初からぶっ飛びすぎ、など)んで、原作の怖さを期待して観ると肩透かしを食らわされるだろう。別物と考えて楽しむのが吉。

しかしこの映画の何が凄いかって、大竹しのぶが凄い(笑)。

ラストの階段でのバトルシーンは、髪を振り乱して鬼のような形相で迫ってくる彼女の演技のおかげで意味不明な迫力を醸し出している。「まだまだ自分は現役女優なのよ」という彼女の女優魂が感じられて、個人的には好感を持った。