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雇い入れた女が原因で、石が降って来たり、謎の出火があるなど、数々の怪異が起きるとした伝承。
岡本綺堂が、江戸時代の怪談として、紹介している。
江戸の、ある侍の下屋敷には、女子供たちが住んでいた。ある時、どこからともなく沢山の蛙が現われて、いつのまにか女たちの寝場所の蚊帳の上にあがっていたという。
更に、地震でもないのに、家屋が強く揺れることもあり、住人は大いに恐れた。調べてみても、原因は判らない。
狐狸のしわざとみた者たちが屋敷中を狩りたてたが、一匹も出なかった。
そこで、十畳ばかりの部屋で、家来たちが寝ずの番をすることになる。
深夜、どこからか石が落ちてくる。一人の侍の顔に、石が当たった。他の侍にも、石が当たる。
今度は、畳から火が出た。このような怪異が約3ヶ月も続く。
この間、下屋敷の女たちが、厳重に調べられる。果たして、池袋から雇い入れた女中があり、出入りの者と密通していたことが判明したという。その女中が追い出された後、不思議な現象は起こらなくなったという。
この怪談が広まるにつれ、武家屋敷などでは、池袋の女を仕うと必ず異変があるといって嫌われた。
また、牛込に住む、槍術の師範の家に、板橋出身といって住みこんだ女中があった。
どうも池袋の女らしいというので、豪胆な師範は、池袋の女の不思議を見たいと思って、雇い続けた。
ある日、食事中に、飯びつが突然、ぐるぐる回り出す怪異が起きた。飯びつは庭に落ちて、だんだん往来のほうへと転がっていく。止まったので、蓋を取り中を見ると、飯はすっかり減っていたという。
やはり、池袋から来た女中が、下男と通じていた。また、オサキという狐の信仰を、こっそり続けていたともいう。
「耳袋」では、池尻の女の怪が語られている。評定所の書役家で、大石の落ちるような音がする。
続いて、行灯が宙に浮いたり、食器が家の中を飛び回ったり、座敷で突然火が燃え上がったりといった怪異が、頻々と起きた。
池尻出身の女はいないかと探してみれば、下女の1人がそうだったので、暇を出した。すると、怪異はぴたりと止まった。
古老が、この事件の背景を解説している。池尻の土地を守る産土神(うぶすながみ)が、が氏子を惜しむため、土地の女が他へ出ていくことがあれば、怪異を成すと聞き伝えられているのだという。
従って、ある土地の出身そのものが原因では決してないので、注意したい。
誰もいないのに、石が投げられる、音が聞こえるといった怪談は、古くからある。
「古今著聞集」に、平安時代の怪談がある。右大臣の白川の屋敷で、どこからともなく小石を投げつけられることがたびたび起こるようになった。次第に増えた石は、一日で、たらい2つ分も打たれるようになった。
地方出身の侍が、狸を集め、酒を用意するよう、申し出る。庭に火を焚いて明るくした上で、狸を調理し、各々がよく呑んだ。
狸を懲しめる意味で、見せつけるように、飮食し、屋敷の塀の上へ狸の骨を投げたりもした。この後は、何も異変は起きなくなったという。
文政期の「享和雑記」にも類話がある。四ッ谷内藤新宿の、空いた屋敷の留守番をする男が、誰もいないはずの家内に、大勢の人の気配がするのに気付く。
どうやら、楽器を奏で、歌を歌いながら、手拍子を打っているようだ。男が見回っても、誰一人いない。この謎の音楽はしばらく続いた。
このような不思議を、地方では、狐かぐらと呼んだともいう。
何者かの怪しい仕業として、何もないのに、家具が動いたり、屋根に石が降って来たりといった現象は、西欧にも多く見られ、現代でも報告されている。これは、騒霊・ポルターガイスト現象と呼ばれている。