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野槌(のづち)とは、日本の妖怪で、名の意味は「野の精霊(野つ霊)という意味である。
野槌は、ほかにも、「野雷」ともよばれており、 記紀神話では、伊弉諾尊(いざなきのみこと)・伊弉冉尊(いざなみのみこと)の子とされ、野椎神(のつちのかみ)。草野姫(かやのひめ)と呼ばれている。

姿形は、蛇のようで、直径15センチ、体長1メートルほどとされ、頭の一番上には口があり、目も鼻もない。
深山に住んでいると言われ、ウナギやリスなどを食べている。時には人も食うことがあるとされている。
奈良時代の歴史書『古事記』や『日本書紀』などでは、草の女神とされ、「女神カヤノヒメ」などと称されており、山野の精とされた。
記紀神話では、カヤノヒメを蛇とする記述はないものの、夫のオオヤマツミが蛇とした説がある。
そして、仏教が普及し始めると、カヤノヒメが、霧の神、暗闇の神、惑わしの神を産んだとされるようになり、野槌は、妖怪変化を生み出す神と解釈されるようになった。
そして、野槌自体も、後に、妖怪として解釈されるようになっていった。
仏教説話の中にも取り入れられるようになり、鎌倉時代の仏教説話集『沙石集』では、徳のない僧侶は、深山に住む槌型の蛇に生まれ変わり、僧侶は、生前に口だけが達者だったそうで、そのせいか、野槌も口だけが大きく、目や手足のない姿なのだという。
江戸時代の百科事典『和漢三才図会』によると、、和州(現・奈良県)吉野山中の菜摘川(夏実川)や清明滝(蜻螟滝)で野槌を良く見かけるもので、
その名は、槌に似ていることが由来とされる。
深山の木の穴に住み、大きなものだと体長3尺(約90センチメートル)、直径5寸(15センチメートル)で、人をみるなり坂を転がり下ってきて、人の足に噛み付くが、坂を上るのは遅いのだそうだ。
そこで、逃げる場合は、高い所へ逃げるのが良いという。
阿州の善徳などにいる野槌は、体が2体の蛇でできており、お互いに尻尾に噛み付いた状態で、輪になったものが野槌といわれているようだ。
この状態だと当然うまく動けないので、転がるように移動するのだそうだ。
民族的伝承においては、奈良県のほかにも徳島県、北陸地方、中部地方に伝承されているようだ。
また、その中には、鹿を一気に飲み込むだとか、転がってくる野槌に当たると死んでしまうとか、野槌に見つかってしまうだけでも病気を患ったり、高熱を発して死ぬとも言われている。
『今昔画図続百鬼』で鳥山石燕は、全身毛だらけの野槌が、ウサギを食べている様子を描いており、解説文によると「草木の精をいふ」と述べている。
その形状は『沙石集』からの引用で、「目も鼻もなき物也といへり」と述べている。
ツチノコは、野槌ににていることから、その名を称されたという。一説には、その野槌の基になった生き物がツチノコだという話もあるようだ。
『ゲゲゲの鬼太郎における野槌』
ゲゲゲの鬼太郎でも、野槌は登場している。
古典などで、登場する大きさとはまるで別物のサイズのようで、巨大な大ナマズのような口に、芋虫のような体の形状をしている。
口が大きいのは伝承などと同じようだが、ゲゲゲの鬼太郎での野槌は、ものすごい勢いで物を吸い込んでしまう妖怪のようだ。
登場作品「えんらえんら」では、都会の有害な煙を吸って凶暴になった「えんらえんら(煙羅煙羅」(煙の妖怪)を倒すために、野槌塚に眠っていた野槌をよびさまし、見事、えんらえんらを吸い込んで倒した。
このように、鬼太郎における野槌は、巨大な掃除機のような妖怪として登場することが多いようである。