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寝ている間に、首だけが身体を離れて、飛び回るという妖怪。魂が抜ける現象のメタファーとも考えらえる。また、首が長く伸びる妖怪・ろくろ首の原型でもある。
古くは「曽呂利物語」に紹介されている。鶏と見えた影が、女の首に変化していた。これを見た旅人が、刀を抜いて追いかけると、抜け首はある家に入っていく。中から女の声で、恐ろしい夢を見た。刀を抜いた男が追いかけてきて、家まで逃げてきたところで目が醒めたと語る。女の魂が、寝ている間に身体から抜け出ていたのだ。
「蕉斎筆記」にも、抜け首の話がある。住職が、寝苦しいので夜中に目を覚ますと、人の頭が胸の上に乗っていた。慌てずに、首を取り、外へ投げ捨てた。翌朝になっても、下男が起きてこない。昼時に、下男が暇をくれと言ってくる。住職が不審に思って理由を聞くと、昨夜、胸に乗っていたものは自分の首だと告白した、下男は、下総の出身で、住職に叱られたことが苦になって、夜中に首だけで部屋に訪ねたと言い出す。どうしても、首が抜け出てしまうのだと。抜け首病が下総によくあると聞いていた住職は、許してやったという。
抜け首病は、離魂病と同じと解釈してもいいだろう。「北窗瑣談」には、寛政年間の越前国にいた女がある。眠っている間に、枕元に首だけが転がって動いていたという。この随筆集の筆者は、魂が体を離れて首の形になったのだといると説明している。
「諸国百物語」によると、この女は罪業を恥じて、髪をおろして往生を遂げたという。
「甲子夜話」には、常陸国の女が冒された難病について言及がある。犬の内臓が特効薬になると聞いた夫が、妻に食べさせると、妻は回復したものの、この後に生まれた女児の様子がおかしい。娘は抜け首だったのだ。娘が、首だけになってさまよう最中、どこからか白い犬が現れ、噛み殺されてしまったという。
「古今百物語評判」にも、抜け首の特徴が記されている。肥後で見つかった抜け首の女には、首の周りに筋があったという。香川でも、首に輪のようなアザのある女性は抜け首だと噂している。「中陵漫録」にも、吉野山の奥地に住む人々には全員、首の周りに赤い筋があり、普段は首巻きで隠しているという。
三国時代の呉の将軍・朱桓(しゅかん)が雇った女が、抜け首だったという話が伝わっている。これは「落頭」(らくとう)と言う妖怪で、首が胴体から抜けて飛び回り、飛び回っている間は、布団の中に胴体だけが残っている。耳を翼にして飛ぶのが、落首の特徴だ。秦の時代には、南方に「落頭民」(らくとうみん)と言われる人々がおり、その人々は首だけを飛ばすことができたともいう。
落頭は、「飛頭蛮」(ひとうばん)とも呼び、飛頭蛮の場合には、首の回りに赤い筋が付いている点が異なる。飛頭蛮は首が、身体から完全に離れている状態を言うとする見方もある。
宋代の「太平広記」には、夜になると首が体を離れて、川岸などへカニやミミズを食べに行く例がある。男の首には、紅色の筋が輪になってできていた。
また、人を襲う抜け首もいたという。抜け首が群れをなして外を飛び回るのを見たら、抜け首が群れをなして襲って来るという。
抜け首にも弱点があり、朝、自分の体が隠されでもして見つからないと、死んでしまうのだという。
日本でも「和漢三才図会」に、飛頭蛮の紹介があり、耳を翼のように使って空を飛び、虫を食べるとしている。
抜け首はポピュラーだったようで、「耳嚢」には、この噂をささやかれた女が結婚したが、結局は何も起きなかったという珍談が見える。