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枕返し、反枕(まくらがえし)は、夜中に枕元にやってきて、枕をひっくり返したり、寝ている人の頭と足の向きを逆にしたりする悪戯好きの日本の妖怪である。
江戸時代の妖怪画集『画図百鬼夜行』では、小さい仁王のような姿で描かれているそうだ。
子供のようで坊主の姿と言われているが、外見ははっきりとは伝わっていないようだ。
『各地での伝承逸話』
東北地方では、枕返しの事を座敷童子の悪戯だと言われることが多いと言う。
・著書『遠野のザシキワラシとオシラサマ』では、枕を返すほかに、体を押し付けられたり、畳を持ち上げられたりしたとある。
その周りには小さな足跡が残っていたそうだ。
・岩手県九戸郡侍浜村(現・久慈市)南侍浜や下閉伊郡宮古町(現・宮古市)字向町には、不思議な柱があり、枕をその柱に向けてねると、枕返しに合い、眠ることができないそうだ。
・岩手の下閉伊郡小本村では。亡くなった人の入った棺を座敷に置いておいたところ、棺と畳が突然焼けてしまい、その後、畳を変えたが、その畳の上で寝た者は、枕返しにあうといわれている。
この怪異の正体は、いろいろあるが、タヌキやサルという説もあるようだ。
・群馬県吾妻郡東吾妻町でいう枕返しはネコが化けた「火車」(かしゃ)の仕業とも言われ、東向きに寝ている人を西向きに変えたりすると言われている。
東北地方以外の枕返しの解釈として、妖怪とみなすか、またはその怪異がある場所で死んだ霊が枕返しになったという考えもあるのだそうだ。
かつて、盲目の旅人が泊まったそうなのだが、その部屋の主人が、その旅人が大金を所持していることに気づいた。
その翌朝、旅人を騙し、殺害して金を奪ったのだ。
ところが、その旅人は、霊となって部屋に住み着いてしまう。
そんな事もあり、そこに泊まった人の枕を動かすようになったという。
地方によって、枕をひっくり返す妖怪の事を枕小僧(まくらこぞう)と呼ぶと言う。
静岡県では、枕小僧は背丈3尺(約90センチメートル)くらいの霊の一種とされており、一人で寝ると、枕を帰すなどの悪戯をすると伝えられているようだ。
『寺院で起きた枕返しの話』
枕返しの話は、各地の寺院でよくあるという。
栃木の大雄寺には、幽霊を描いた「枕返しの幽霊」と呼ばれる掛け軸が存在しており、これを掛けて寝ると、翌朝には枕の位置が変わっているのだそうだ。
これは江戸時代中期に古抑園鴬居という絵師が描いたものなのだが、一説によると、病気の母を書いたもので、絵の完成直後に母親は亡くなり、その後、絵を巡り、さまざまな怪異が起き、供養するため、この寺院に収められたと言う謂れもあるとされる。
『人の命を奪うとされる枕返し』
枕返しは、基本的には悪戯をする程度の妖怪のはずなのだが、中には命を奪うという伝承もあるようである。
石川県の金沢のとある屋敷では、美女の枕返しが出没したというのだが、草履取りが、屋敷の前で枕返しに遭遇し、笑いかけられた途端、気を失い、そのまま死んでしまったという。
『枕を返すという行為の意味』
民俗学の観点からいけば、夢を見ている間は魂が肉体から抜けている状態であり、その間に枕を返されると、魂が肉体に帰ることができなくなるという考えがある。
かつて、日本では、夢を見るという事は、別の世界へと行く手段として考えられていた。
そのため、夢をみるために、箱枕に睡眠作用のあるお香を焚いて寝ることもあったという。
枕は、別世界へ行く道具とされ、枕を返すと、全ての秩序も逆転するという考えのようだ。
ほかにも、枕には人間の生霊が込められており、それを返すと言うことは、寝てる人間を死に近づけるという意味だという説もあるようだ。