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おさん狐(おさんきつね)またはおさんわ狐は、美女に化けて、夫婦や恋人のいる男性へ言い寄ってくる狐の妖怪である。
西日本などで多く伝わっており、中国地方が特に多いとされている。
『おさん狐の特徴や逸話』
おさん狐は、痴話喧嘩が大好きで、嫉妬深いという一面がある。
現代においては、恋路を邪魔をしたり、浮気相手などの女性に対して、「女狐」(めぎつね)と呼ぶことがあるが、これはこのおさん狐が発祥だとされている。
大阪府北河内郡門真村(現・門真市)では、おさん狐を「お三狐」という表記をしており、執念深い性格とされている。
・鳥取県ではというと、八上郡小河内(現・鳥取市)のガラガラという場所では、おさん狐が棲んでいたのだそうだ。
おさん狐は、谷口與忽平という男を、美女の姿になり、化かそうとしたが、火であぶられて正体が暴かれ、二度と悪さしないことを条件にし、逃がしてもらった。
数年の月日が過ぎ、伊勢参りへきた者に伊賀山中にて、一人の娘に会い、「與忽平はまだ生きているか」と尋ねられ、
生きていると答えると「やれ恐ろしや」と言い、逃げて行ったという。
・広島県広島市によると、おさん狐が、尻尾に火を灯したり、ライオンに化けたりして、人を脅かしてくるので、職人が捕まえて火あぶりにしようとしたのだが、翌晩に、大名行列に化けてみせると言って許しを乞うたのだった。
そして、翌晩、本当に大名行列が現れたので、職人は狐を褒めたのだが、その大名行列は本物の大名行列で、その後、無礼を働いた職人は打ち首になってしまったという。
この話には類話があり、職人ではなく、お三キツネと伊像の与三郎タヌキが化かし合いをして、大名行列の殿様にお三キツネが斬られてしまうという話だ。また、タヌキが斬られたという話も伝わっているという。
ほかに、団三郎狸という新潟のタヌキの話にも、キツネとの化かし合いで大名行列を利用し、キツネが斬殺されるという同じような話がある。
同じく広島県にて、中区江波地区の皿山公園付近に棲んでいたとされるおさん狐は年齢80歳で、500匹の眷属を操り、京のお参りをしたり、伏見に位をもらいに行ったりと、風格のある狐だったという。
そして、人を決して殺めることはせず、地元では愛される存在だったのだそうだ。
この子孫とされている狐が、町の住人に食べ物をもらって生きていたのだという。
現在では、江波東2丁目の丸子山不動院に小さな祠が祀られているようで、江波車庫前の電停近くの中央分離帯で、立ち上がった姿の狐像が設置されている。
『まんが日本昔話のおさん狐』
昔、豊後国の小野瀬の河原に、おさんという古ぎつねが棲んでいた。
おさん狐は、それは化け上手で、特に若い娘に化けるのが得意だったという。
村の若者は、それがキツネとわかっていながらも、おさん狐が化けたその娘に会いにいくのが楽しみだった。
ある晩、この河原に、行商人の男が通りかかった。
さっそくおさん狐は、若い娘に化けて、行商人の男に声をかけた。
行商人は、旅になれた者だったので、その娘がすぐキツネだと気がついたが、男は騙されたふりをし、誘われるがまま、おさんの家に上がりこんだ。
行商人の男は、出されたお酒も得体のしれない酒だとわかっていたが、ぐいっと飲み干した。
そして、「なかなかの化けっぷりだが、ちと若すぎるんじゃないか?」と言い、化けの皮が剥がれたおさん狐も、落ち着いた様子で、今度は芸者に変身した。
そして、男とおさん狐は、きつねと人間のへだてを忘れ、一晩中飲み明かし、語り合ったという。
翌日、男は旅立だった。
それからもおさん狐は、河原に来る人と、きつねと人との垣根を越え、打ち明け話を聞いたりするようになったそうだ。