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縊鬼(いき、いつき、くびれおに)は、中国や、日本の妖怪である。
人にとり憑いて、首を吊り自殺に追い込むとされている妖怪だ。
『中国の縊鬼』
中国での縊鬼は、「いき」と読む。
中国の古書の『小豆棚』『太平御覧』『聊斎志異』などのに記述がある。
伝承によると、冥界には、一定の人口数に定めており、この人口数を常に保つ必要があるとされ、死者が別の人間として転生して冥界を去ろうとしても、
自分の代わりとなる後任の死者が冥界に入らなければ、入れ替わりで転生の許可が下りないという。
このときに、死者が生者の死をただ待っているのではなく、積極的に、自殺や、事故死に追い込むことで、自分との入れ替わりを作ろうとする。
これを「鬼求代」という。
亡者が生まれ変わるには、入れ替わり対象の者に、自分と同じ死に方をさせなければいけないという条件があり、縊死した死者が生者に取り憑き、自分と同じように、縊死させようとしているものが、縊鬼とされるのだという。
民間伝承や、昔話に見られる縊鬼の話は、どれもほぼ同じである。宿に泊まった者が、ヒモを手にした何者かの影を見かけたが、その後、隣室で、女が縊死を図ろうとしており、それを慌てて止めようとしたところ、さっき見た影は縊鬼で、隣室の女は理由もないまま縊鬼により、縊死させられそうになっていた、という筋の話がほとんどだ。
中華民国の時代に入ると、「吊殺鬼(ちょうさつき)」「吊死鬼(ちょうしき)」などと呼ばれるようになり、同様に、自分の身代わりに死んでもらう者を求める霊のことが、民間伝承や昔話で語られているという。
『日本の縊鬼』
日本での縊鬼は「いつき」と読み、幕末の旗本文士・鈴木桃野の随筆『反古のうらがき』巻一には以下のように語られている。
とある組頭が、酒宴を開いており、その中に同心も客の一人としてくるはずだったのだが、なかなか現れなかった。
やがて、現れた同心は、「急用ができたので断りにきた」と言って、帰ろうとした。
組頭が訳を問いただすと、「首をくくる約束をした」と言い。しきりに帰ろうとするのだった。
組頭は、その同心が乱心したと見て、酒を飲ませて、引き止めたところ、なんとか同心は落ち着いた。
その後、喰違御門にて、首吊り自殺があったという報せが届いた。
組頭は、縊鬼が、この同心を殺そうとしたものの、阻止され、諦めて別の者にとり憑いた、これで彼に憑いた縊鬼は離れたと考え、再度事情を問うた。
すると同心は、夢の中にいるかのようなぼんやりとした状態だったので、よく覚えていないと言いつつ、経緯を話した。
それによると、喰違御門のもとまで彼がやってきたところ、何者かに「首をくくれ」と言われた。なぜか、彼は否定できない気持ちになり、「組頭のもとへ子断りを入れてからにしたい」と答えると、その何者かの声は「早く断ってこい」と送りだしたのだという。
事情を知った組頭が「今でも首をくくりたいのか?]と尋ねると、同心は、首をくくるそぶりをしながら「あなおそろしやおそろしや」と答えたという。
昭和・平成以降の妖怪関連の文献では、この縊鬼は、水死者の霊とされ、これに取り憑かれた者は、川に飛び込むなどし、自殺をしたくなるものなどと解釈されているようだ。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』によると、「死神」と題した絵があるのだが、これは、悪念を持ったまま死んだ者の霊が、同様に悪念を持った者を首吊りなどに誘い込もうとしているものとされ、近世の宗教における死神より、本項の縊鬼に近いものとだと指摘されている。