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小池婆(こいけばば)は、雲州松江(現・島根県松江市)に伝わるとされる猫の妖怪である。
『逸話』
昔、小池という武家に仕える男がいたのだが、その男は、正月休みに里帰りしており、主の登城日前日の朝、未明の間に家を発ち、主のもとへと戻る途中であった。
檜山へ差し掛かった頃、男は狼の群れに遭遇してしまう・・そして逃げ場を失ったが、路傍の大木に登り、難を逃れようとした。
すると、狼たちは、ハシゴ状に肩車を組み、男に近づいてきたが、あと少しのところで高さが足りないのだった。
一番上の狼が、「小池婆を呼べ」と吠え立てた。
それを聞いて、1匹の巨大なネコがやってきた。そして、狼のハシゴに登ってきた。
男は、ネコを待ちうけ、腰の刀を抜き、ネコの眉間を切りつけた。
そうすると、金属音が響き渡り、ネコも狼の群れの姿も消えてなくなった。
やがて、夜が明けてきて、人の声が聞こえるようになり、男は安心して木から降りると、足元に茶釜のフタが落ちていた。
それを良く見たところ、なんと使い慣れた自分の家の茶釜のフタだったのだ。
不思議に思い、男はそれを持って主の家へと向かった。
主の家へついたのだが、主の母親が毎晩、厠で転んで、額に大怪我をしたという大騒ぎになっていたのだった。
そして、さらに家の茶釜のフタがなくなり、探して回っていたところだった。
男は、茶釜のフタを主に見せて事情を話した。
主が母親を除くと、母は布団をかぶり、妙な声でうめいていたのだった。
主は、母親を怪しく思い、布団の上から刀を突き刺した。
布団を剥ぎ取ってみると、そこには老いたネコの死骸があったのだという。
『類話』
「鍛冶が嬶」
鍛冶が嬶、鍛冶が媼(かじがかか、かじがばば)とは、高知県の室戸市に伝わるとされる説話である。
ある妊婦の女が、奈半利(現・安芸郡奈半利町)へ向かうため、峠を歩いていた。
夜になると、陣痛が起き、そこに運が悪いことに狼達に襲われたが、そこへ通りかかった飛脚に助けられ、木の上へ逃げることができた。
狼達は、木の上へは爪が届かなかったので、ハシゴ状に肩車を組み、木の上へ襲いかかろうとし、飛脚は脇差で必死に応戦した。
そのうちに、狼達は「佐喜浜の鍛冶嬶を呼べ」と言いだした。
しばらくすると、白毛に覆われた一際大きな狼が鍋をかぶった姿で現れ、飛脚に襲い掛かった。
飛脚は、渾身の力で脇差を振り下ろすと、鍋が割れ、共に人の叫び声のような声が響き、狼達は一斉に姿が消え去った。
夜が明け、峠に人々が出始めたので、飛脚は、女を通行人に任せて、自分は血痕をたどり、佐喜浜の鍛冶屋へ辿り着いた。
お宅に嬶(かか、または、かかあ)はいないのかと尋ねると、頭に傷を負って寝込んでいると言う。
飛脚は屋内に入り込んで、中に寝ている嬶を斬り倒した。
嬶の姿をしていたのはあの白毛の狼であった。
そして、床下には、多くの人骨、そして本物の嬶の骨が転がっていたのだという。
佐喜浜には、現在でも鍛冶屋の嬶の供養塔が残っている。
また、佐喜浜を訪れた郷土史家・寺石正路によれば、明治時代に鍛冶屋の嬶の墓石もあったとされ、鍛冶屋の子孫といわれる人々には必ず逆毛が生えていたのだそうだ。
江戸時代の奇談集『絵本百物語』によると、「鍛冶が嬶」と題して、狼に殺されたという女の霊が、狼に憑いて、人を襲うという話になっており、千疋狼のような特徴は見られないが、挿絵では、オオカミの群れが樹上に向かってハシゴ状に肩車を組む姿が描かれているという。
現在、水木しげるロードにも、鍛冶の嬶を、狼達がハシゴ状に肩車を組んでいる姿のブロンズ像が設置されている。