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青鷺火(あおさぎのひ)は、江戸時代に有名になった怪談話の1つである。
木の上や上空に突然青白い光が現れるという現象だ。
正体のわからない青い光がもたらす恐怖に、人々は強い恐怖心を持ったという。

ある雨の夜のことである。
「化け柳」と呼ばれる巨大な柳の木が、青白い光に包まれているのを見て、町の人々は不気味に感じていた。
普段はなんの変哲もない柳が、雨の夜にぼんやりと青いのだ。
すると1人の男が、「雨の夜に火が燃えるわけがない」と言い、青白い光の正体を突き止めるために化け柳に向かっていった。
柳の木はぼうっと光っていたが、男が側に行ったとたんに全体が青く発光し、さすがに気持ちの大きい男も気絶してしまったという。

この青白い光の正体はサギという鳥だと言われる。
現在の佐渡にある根本寺という寺の梅の木に、頻繁に青い光が飛んできていた。
そこである者がその光を弓で射てみると、矢の刺さったサギが落ちていたという。
実は雉やサギは夜間に青く発光することがある。
科学的な見解では、サギの体に着いたバクテリアの影響で青白く光って見えることがあるとされている。
それも、昼間ではなく夜間の目撃しかないのは、月の光に照らされたサギの体が、バクテリアのせいで光って見えるというのだ。
サギの仲間のゴイサギは、胸元の白い毛が青く光っているように見間違えたという説もあり、ただの自然現象として片づけられている。

しかし、サギが光って見えるだけが正体ではないとする説も存在する。
化け柳が光っていた夜は雨が降っており、月はなかったというのだ。
明かりのない夜空でサギの体を照らすものがあるとは考えにくい。
現代なら街灯やネオンがそれにあたるが、当時の町中には街灯はなく、提灯や行燈の明かりしかないのだ。
それも、柳の木全体を包むほどの大きな光は、サギが何羽いても不可能に思える。

サギ自体も妖怪のような扱いをされており、サギが火の玉に変身するという伝承も少なくない。
光っているのは、口に火の玉を加えているという説や、サギが多摩川の水面に火を噴いているのを見たという目撃例も存在する。
これはサギがタヌキやキツネと同じように、年をとると妖気を持ち、化けると伝わっているためだ。
化けたサギを見た人の伝聞によれば、空を飛んでいた姿はサギのようだった。
しかし、大きさは160㎝ほどもある巨大なもので、真っ赤に発光していた。
そのため燃えているのかと思ったが、飛びながら白い光へと変わって筋のようになってしまったという。
バクテリアの影響で発行するとしてもほとんどが青や白であり、真っ赤に光るというのは前例がない。
また、飛んだ後に筋ができるのは考えられない。
化けたサギだけが起こせる不可思議な現象ではないか。

さらに別な話では、夜道を歩いていると白い着物を着た者が道端に立っていた。
振り返ると下半身が透けており、顔には目玉が1つしかなかった。
そこで、刀で切りつけたところ悲鳴をあげて倒れたという。
幽霊が悲鳴をあげたことに驚いて良く見ると、それは年を取ったゴイサギであり、刀で切られて息絶えていたというのだ。
人の姿に化けて驚かすことができるので、妖怪として扱われても不思議ではない。

サギが夜に飛ぶため、月明りで光って見えるというのも納得がいくが、見間違えとは思えない事例も存在している。
長年生きている動物には不思議な力が宿ると言われるが、サギもそうした力を持っているのかもしれない。