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垢嘗(あかなめ)は江戸時代から現代にかけて全国どこでも現れるといわれる日本の妖怪で、はだかの子どもの姿をしていて、風呂や風呂桶にたまった垢をなめるといわれている。
風呂桶や風呂場を汚くしていると、真夜中にこっそりとやってきて、長い舌を出してペロペロと湯船についている「垢」をなめる。
垢嘗にとっては人間の垢が一番のごちそうなので、湯船が汚ければ汚いほど、垢嘗が出現しやすくなると言われている。

書物では江戸時代(1776年)、鳥山石燕(とりやませきえん)の「図画百鬼夜行」に載っているのが初期の例であるようだが、これが「最初」の掲載であるかどうかは不明。
そして、「図画百鬼夜行」ではぼさぼさの髪の毛を伸ばし、足が鉤爪のようになっていて、舌が異常に長い異形の子どもの姿が描かれているいる以外には、何の説明書きもないので、詳細は不明になっている。
しかし1686年、山岡元隣(やまおかげんりん)の「古今百物語評判」という怪談本には「垢ねぶり」という名前で解説が掲載されていて、鳥山石燕の「垢嘗」はこの「垢ねぶり」を基にして描いたのではないかといわれている。
この「古今百物語評判」は、作者山岡元隣の京都六条の自宅で開催した百物語怪談をもとにした書とされ、怪談会に出席している一座の者たちが次々に話す怪談話を、元隣が解説(評判)するといった解説書のようなものだが、その中で、「垢ねぶり」は古い風呂屋に棲みついたり、荒れた屋敷に潜んでいるらしいとされ、また、その誕生は、「魚が水の中に生れて水を口にし、シラミが汚れの中に生じてその汚れを食べるように、垢ねぶりは塵や埃の気が集まったと場所から変化して生まれ、垢をなめて生きる。」とされている。そして、この怪談会で話が出ると言う事は、「垢ねぶり」はすでに一般的に広く伝わっていたことになる。
近年では、水木しげるのイラストや漫画にも何度か登場し、その姿の多くは「古今百物語評判」を参考にしたような姿である。
その他には、現在子ども達に大人気の「妖怪ウォッチ」のゲームにも登場し、その中では「いつも桶を抱えていて、風呂場に現れ、風呂桶についた垢をなめ落とし、取り憑かれると、ゲテモノをを好むおかしな味覚になる」という設定になっていたり、子どもの妖怪ということで、あまり恐怖を感じさせないような愛嬌のある姿で描かれているイラストなども多く見受けられる。
また、垢嘗の身体の色は「図画百鬼夜行」では白黒だが、「垢(あか)」は「赤」を連想させるので、全身が赤いともいわれるが、1858年の歌川芳員(うたがわよしかず)による絵双六「百種怪談妖物雙六」では緑色、また、水木しげるのアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」で登場する際も緑色になっているので一概には言えない。

垢嘗は、人のいない夜中に風呂場の垢をなめる以外は何もしないので、人間に対して直接被害が出るわけではないが、妖怪が自分の家にやって来るというだけで気持ち悪がる人が多いので、垢嘗に来てほしくなければ、家の風呂場をきれいに掃除しておくしかない。
昔は現代と違い、風呂場が全て木でできていたので、掃除をせずに放っておけばすぐにぬめりが出て傷むといういこともあり、「風呂桶(現在でいうバスタブ)をきれいにしておかなければ妖怪が来るぞ」という教訓的なものであったと思われる。
また、昔の風呂場は現代と違って家の中の日当たりの悪い場所や、母屋から離れた場所に作られていたこともあり、子ども達にとっては妖怪が出て来そうな怖い場所でもあったのである。