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ろくろ首(轆轤首)とは、日本の妖怪で、妖怪のイメージを代表する一種である。

ろくろ首は、首が伸びる姿が一般的だが、実は、首が伸びるものと、首が抜け頭部が自由に飛行する二種類がいたといわれている。
古典の怪談や随筆にも登場し、あの葛飾北斎の「北斎漫画」にも掲載されている。

まずは、「ろくろ首」の名前の由来に迫りたい。

そもそもの名前の由来は、いくつかの説があるといわれている。
まず一つ目は、陶芸に使用される「ろくろ」を回して陶器を作る際の、雰囲気や感触が似ていることからこの名がついたというのが、一つ目の説である。
この説については、首を触ったものがいるのかどうかも非常に怪しいところだが、このような説があることは確かだ。

二つ目の説は、井戸の水をすくい上げる釣瓶(つるべ)を上下するための滑車が、
ろくろ首の長く伸びた首に似ていることからこの名がつけられたという説だ。
確かに全体的に似た雰囲気を醸し出している。

そして三つ目の説は、
傘のろくろ(傘の開閉に用いる仕掛け部分)を上げると、あたかも傘の柄が長く伸びたように見えるところからこの名がついたという説がある。

名前の由来にも諸説あるろくろ首だが、
実は、首が抜けるものの方が、元になっているといわれている。
また、その恐ろしさにも、違いがある。

まず、首が抜けるろくろ首は、夜になると、人間などを襲い、血を吸うなど非常に凶暴な妖怪だったという説がある。

しかし、首が抜けるろくろ首には弱点があり、体から離れ、首だけが飛び回っているときに、その体を別の場所移すと、元に戻らなくなるといわれている。

また、『諸国百物語』の中の「ゑちぜんの国府中ろくろ首の事」に、その様子を想像させる場面が記されている。

ある男が、女性の顔をした抜け首に出遭い、あわや刀を抜き追いかけたところ、
その抜け首は民家に逃げ込んだという。しばらくすると、その家の中から、「刀を持った男に追いかけまわされ、家まで逃げ切ったところで目が覚めた。怖い夢だった。」と、
人の声がしたという。

この話から、ろくろ首は一種の病気とする説もあり、『曾呂利物語』の中には、
「女の妄念迷ひ歩く事」、女の魂が睡眠中に身体から抜け出たもの、
言い換えると、夢遊病に近い病だとの説を想像させる言葉が記されているという。

一方、首が伸びる種類のろくろ首について書かれた文献も残っている。

例えば、江戸時代以降の『武野俗談』『閑田耕筆』『夜窓鬼談』などを見てみると、
たびたび、首がのびる種類のろくろ首が登場する。

この長い首、実は胴と頭は、霊的な糸の様なものでつながっているとの伝承が残っており、
石燕などが描いたその糸の部分が、細長く伸びた首に見間違えられたとの説がある。

江戸時代後期に肥前国平戸藩第9代藩主の松浦清(号は静山)により書かれた随筆集『甲子夜話』にこのような話がある。

とある女中がろくろ首ではないかと疑われ、気になった女中の主人が、その女中が寝ている様子を見たところ、なんと、胸のあたりから徐々に水蒸気のようなものが見え始め、
それが多くなると共に、頭の部分が消えてしまい、あっという間に首が伸び、ろくろ首の姿になった。
腰を抜かした主人の気配に気づいたのか、女中が寝返りを打つと、あっという間に首は元に戻っていたという。

この女中は、青白い顔以外には、普通の人となんら変わりなかったが、気味悪く思った主人は、女中に暇を取らせた。
そのような気味の悪い話が行く先々で上がることから、女中はすぐに暇を出され、奉公先に縁がなかった。

また、この『甲子夜話』と、前述の『北窻瑣談』で記されている、体外に出た魂が首の形になったという話は、
霊が体の外へ出て、目に見える形になったもの、つまり、心霊科学でいうところの「エクトプラズム」だという解釈もある。

一方、現実的な説として、酷使された末に痩せ衰えた遊女が、夜に灯油を嘗めている姿が影となって障子に映り、
それを見たものが、首の長い人間に見間違え、ろくろ首の話のもとになったとする説もある。