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ベア湖の怪物はアメリカのユタ州とアイダホ州にまたがるベア湖に生息するとされる怪物だ。
大半は19世紀後半の目撃だが、20世紀以降も近年に至るまでいくつか報告がある。
ベア湖の怪物が初めて報告されたのは1868年、アイダホ州に入植したモルモン教徒のジョセフ・リッチである。民主党議員のリッチはベア・ライク郡の代表として州の上議員も務めている。
リッチは1868年に州都ソルト・レイク・シティの新聞「デザート・ニュース」に、男女10人の入植者が湖で見た怪物の話を寄稿した。
大きさは9m、身体は灰色で耳は突き立っている。泳ぎが恐ろしく速かったという。目撃者たちは怪物をセイウチ、巨大な爬虫類、ワニとそれぞれ異なったイメージで証言した。リッチの記事により、ベア湖の怪物は旅行者の興味を駆り立て捕獲を狙う者が出てきた。
1871年夏に、地元の猟師が怪物の子供を捕獲したという記事がソルト・レイク・シティの新聞に載った。それによると、大きさは6m、口は人を飲み込めるほど大きく、シッポと足を使って自由に泳ぎまわっていた。この猟師は魚を採るために作られた浅瀬に偶然、怪物が迷い込んでいたのだという。
1874年にジョン・グッドマンという旅行者が、仲間の部族に追われた原住民の恋人たちが湖に飛び込んで二頭の巨大なヘビになったという伝承を採取している。
同じ年に、ユタの歴史家ウィリアム・バグレイは、リッチが伝えた目撃例とは別に、モルモン教徒の入植者が怪物を見たという報告を記録している。
ベア湖のある渓谷に白人が初めて入植したのは1818年で、この地にはショショーニ族の居留地があった。原住民の間には湖に巨大なワニか竜のような怪物がおり、しばしば人を捕らえて連れ去るという言い伝えがあった。怪物は大きな口を持ち足は短く、水面をすばやく泳ぐ。身長は大きくなると120mにもなるという。
怪物に関心を寄せたモルモン教会は、湖周辺の入植者から直接、目撃した経緯の聞き取りを行った。様々な目撃場所や状況を総合して証言は信頼にたると考えられた。
一方、「デザート・ニュース」は怪物の報道を続けたがその存在には懐疑的で、他の新聞も批判に転じた。中でも「ソルト・レイク・トリビューン」紙は怪物を悪魔の双子の兄弟かモルモン教の指導者ブリガム・ヤングのいとこだと揶揄した。
怪物の目撃は何年にもわたって続き、ユタ州の他の湖や川でも報告されるようになった。ベア湖で目撃されるのはユタ州側であるため、ソルト・レイク・シティのあるグレート・ソルト湖や川につながる地下水路があると考える者がいた。
そこでモルモン教会は怪物の正体を明らかにするため捕獲を検討した。様々な捕獲方法が考えられたが、そのうちに世間の怪物騒動の熱が冷め立ち消えになった。ジョセフ・リッチも批判にさらされ自分の記事を撤回した。
20世紀に入り1907年にキャンプ場で怪物に馬が殺されたという報告があり、1937年と1946年にも目撃情報があった。現在のところ2002年に湖でボートに乗っていたビジネスマンが遭遇した例が最も新しい。
ベア湖では怪物の存在が伝説化し、その姿をかたどった遊覧船が運航している。また怪物を見つけようと訪れる観光客や研究者が現在も詰めかけている。