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ポポバワはアフリカ東岸タンザニアのザンジバル諸島に伝わる翼を持った邪悪な精霊だ。
スワヒリ語でポポはコウモリ、バワは翼を意味する。また複数形のマポポバワとも呼ばれる。名前はこの怪物がコウモリのように夜間に攻撃を仕かけてくることに由来している。
一つ目で小さな耳がありコウモリのような翼にはカギ爪を持つ。硫黄のような臭いがしたという証言もある。他の人間や動物に姿を変えるシェイプシフターといわれ、もっぱら夜に農家を襲うが、まれに昼間現れることもある。
大人も子供も見さかいなく襲って取り憑き、大人に対しては性的暴行を加える。時にポルターガイストのような現象を引き起こす。被害者が口をつぐんでいると繰り返し襲われるため、ポポバワが現れると人々は隣近所で身を寄せ合って夜通し起きているという。
この悪霊伝説が広まっている東アフリカでは、最近まで何度かポポバワが引き起こしたパニックが起っている。
ザンジバルは1963年にイギリスから独立し王国となったが、アラブ系スルタンの支配に不満を持つペンバ島のアフリカ人がクーデターを起こし、1964年に革命政府を樹立した。そして大陸にある隣国のタンガニーカと統合し現在のタンザニアになった。
1965年にペンバ島で最初のポポバワ騒動が起った。以後、1970年代から定期的に現れては住民をパニックに陥れている。
伝えられるところによると、1971年にポポバワが取り憑いたファツマという少女が男のような野太い声で村人に話しかけた。周囲では屋根がきしみ、車のエンジンを吹かすような音がした。悪霊払いを信じる人たちは、魔よけのイチジクや生贄の羊を用意するという。
1970年代の騒動では族長が悪霊を呼び出して自分に憑依させたが、制御が利かなくなり周囲の住民に暴行を加えたという話もある。
1995年にポポバワの被害に遭った農民は次のように語っている。自分は悪霊を信じていなかった。初めは体を圧迫されるような感じがして何が起っているのか分からず夢を見ているようだった。それはひどい性的行為をしようとしたので、これがポポバワだと思った。
最も新しいポポバワ騒動は、2007年にタンザニア最大の都市ダルエスサラームで起っている。
アメリカのテレビレポーター、ベンジャミン・ラドフォードはポポバワを調査し、イギリスの月刊誌『フォーティアン・タイムズ』に記事を載せ、イスラム教の多いこの地域で、聖書と同じような悪霊払いが行われているとのべている。
ダルエスサラームの主な病院には被害にあったと訴える患者が多数いたが、病院関係者はそのような被害者を治療したことはないと否定した。
ポポバワ騒動が起る背景には、ザンジバルが何百年にわたりスペイン人やドイツ人、イギリス人など外国の支配を受け、住民が奴隷制度の下で虐げられた記憶が関わっていると指摘されている。
心理学的な観点からポポバワを分析する見解もある。ポポバワが寝ているときに襲うことから、金縛りのように半覚醒状態で体験する幻覚だという。中世ヨーロッパを始めとして悪魔と性が結びついた夢魔の存在が世界各地に見られるが、ポポバワもその一種と考えられている。
それとは別に、ポポバワが流行した時期の符合から、革命や選挙など社会的な要因との関連を指摘し、犠牲者は政治的に無関心な人々だという意見もある。