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生息地:日本列島各地の山間部
大きさ:体長10センチ~10メートルと様々
特徴:カラスのような口ばし、背中に翼を持ち、自在に空を飛ぶ
正体:妖怪、山岳信仰の修験者や山伏、あるいは神や眷属(けんぞく)

昔話の中で、鞍馬山で牛若丸(源義経)に剣を教えたとされるのはカラス天狗であり、天狗はカッパ、鬼と並んで日本の妖怪界の重鎮だが、遭遇事件が頻繁に起こったのは江戸時代になってからのことだ。
誘拐されて10年後に着のみ着のままで帰ってきた元少年、江戸から高松の実家へテレポートした下屋敷の庭男、京都の愛宕山(あたごやま)で天狗にさらわれ東京へテレポートした寺の住持(じゅうじ)、江戸の上空を素っ裸で飛んでいく美女が目撃されるなど、とんでもない事件が相次ぎ、町奉行も調査を行った。
また、同時代の国学者・平田篤胤(あつたね)の「仙境異聞」は常陸国(今の茨城県)の岩間山(愛宕山)の天狗と少年についてのノンフィクションとされているが、地元では今でもその山には12の天狗、近くの加波山には36の天狗は暮らしていると伝わる。
さらに天狗界はしっかりしたヒエラルキーが確立しており、それを決める最高裁判所は群馬県の妙義山にあるというのだ。
また、多くの寺社で配られるカラス天狗は天狗の眷属(手下)である。
実在するとしか思えないエピソードが多いなか、2009年の夏に和歌山県で初公開されたミイラがある。かつ修験者(山伏)が所蔵していたもので、現在は東京都内の行者が口ばしと翼をもつ、カラス天狗に似たミイラ2体を飯縄(大権現)として祀っている。飯縄は山岳修行の神であり、上杉謙信、武田信玄など多くの武将が信仰していた歴史もあるのだ。