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ダートムーアの獣

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イギリス南西部のダートムーアでたびたび目撃されている謎の獣。
イギリスでは「悪魔の猟犬」として何世紀にわたり目撃されてきた。
ダートムーアはデボン州の内陸部に広がる625平方キロの高原地帯だ。花崗岩が露出する山岳部以外は泥炭層に覆われた草原の荒地で、現在は国立公園に指定されている。
南にはイギリスを代表する港湾都市で軍港のプリマスがあるものの、国立公園内には集落が点在するのみ。
先史時代の立石やストーンサークルなど古代の遺跡があり、妖精ピクシー、首なし騎士、亡霊犬、ブラックドックなどの伝説が残る。1638年10月21日の雷雨で巨大な火の玉が教会に落ちて多数の信者が死傷する出来事があった。この事故は伝説となり、契約を交わした賭博師の魂を悪魔が取りに来たと伝えられている。
ダートムーアの獣もそうした地元に残る伝説の一つだ。
17世紀にリチャード・キャベルという悪辣な地主がいた。狩猟に熱中し、妻を殺したといわれ、人々は彼が悪魔に魂を売ったと噂した。キャベルは1677年に亡くなったが、埋葬された夜に亡霊の犬が群で現れ、彼の墓の周りで吼えた。それ以降、命日になると犬を連れた彼の亡霊がダートムーアの荒地をさまようようになった。
また別の伝説では悪魔と契約を交わした者の魂を求めて、墓の周りを恐ろしい獣が群がるという。
伝説の獣は光る目に血の凍るような遠吠えを上げる四足の悪魔として描かれている。
イギリスの作家コナン・ドイルは、この悪魔の犬をモチーフに、シャーロック・ホームズの一遍「バスカヴィル家の犬」を書いた。
こうした自然と伝説を目当てに訪れる観光客や地元の猟師によって、ダートムーアの獣と思われる生物が目撃されている。
目撃者によると獣は小型の馬ほどの大きさで、長いシッポと小さく丸い耳、胸と足はがっしりしている。動きはネコのようだったという。足跡も確認されており、犬に似ているが爪の形はくっきりと残っていた。
1988年に大きな動物の頭蓋骨が見つかり、ピューマか山猫のものと推測された。同じ年に、家畜を襲っていたヒョウが猟師にしとめられた。これは移動動物園から逃げ出したものと考えられている。
1997年から99年にかけて、大きな山猫もしくはライオンのような獣を見たという複数の報告がある。目撃情報は2000年以後も続き、2007年と2008年に、黒い毛に覆われた獣が写真に撮影された。
実際に獣を見た人たちの話は山ネコやピューマ、ライオンなど様々だが、大きなネコのようだったという証言が最も多い。イギリスでは1976年に「危険動物法」が制定され、ネコ科の大型動物の登録制と飼育・管理が義務付けられた。しかし、現実には許可証を所有していない飼い主もおり、中には処理に困って荒地に放置してしまう者もいる。
1998年にはダートムーアの南端にあるランガトンで雌のライオンが目撃された。
また、2005年12月にはデボン州の農家が動物愛護者の襲撃を受け、飼っていた100頭以上のイノシシが逃走する事件が起った。イノシシの半数は交通事故や猟で死んだと考えられている。しかし、かなりの数が別の農家で飼育されるかデボン州や隣のサマーセット州の原野でさまよっているらしい。
そのため、ダートムーアの獣として目撃が報告されている生物の大半は、こうした何らかの事情で野生に帰った動物と考えられている。