1.世界最古といわれているレンズ
人間の最高の英知の一つともいわれているレンズ。
レンズの役割は非常に重要で、人間の生活を大きく変えてきた。
小さなものを拡大し、遠くにあるものを近くで見ることができ、またそれを利用して眼鏡や顕微鏡、カメラなどが作られている。
レンズの存在がなければ現在の人間社会は形成されていないだろう。
科学や医療、工業、日常生活に幅広く利用されているレンズだが、最古のレンズは「アッシリアの水晶レンズ」といわれ、紀元前700年頃にあったアッシリア文明にまでさかのぼる。
最古のレンズは、現在のイラク北方にあったとされるニネヴェの遺跡から発見された水晶のレンズとされている。直径3.8cm、焦点距離11.4cm、レンズの肉厚の部分が0.64 cmで、主に太陽光を集めるために使用されたという説がもっとも有力だ。
ニネヴェの遺跡から発掘された「アッシリアの水晶レンズ」
ニネヴェの遺跡の水晶のレンズは、旅行家で考古学者・楔形文字研究者でもあるオースティン・ヘンリー・レイヤード(1817年3月5日 - 1894年7月5日)が1853年に発見した。
その後、スコットランドの科学者で、偏光角や屈折率の発見で有名なディヴィッド・ブリュースター(1781年12月11日 - 1868年2月10日)が「焦点距離が12 cmの、意図的にレンズとして作られたもの」と分析し「ニムルードのレンズ」と名付けられたものを発表したが、このレンズはレイヤードが1853年に発見したものと同一の可能性が高い。
レイヤードがニネヴェの遺跡で水晶のレンズを発見した時、すぐにレンズだと認識した。
ほぼ円形で片面が凸、片面が平面であった水晶のレンズは複数の光学専門家の鑑定を経てたが、そのうちの一人がブリュースターであるとされている。
いずれにしろ、レイヤードが最古のレンズを発見したことは間違いなく、アッシリアの水晶レンズとニムルードのレンズは同一とみて間違いなさそうだ。
また、アッシリアの水晶レンズには「ニムルード(またはニムルド)のレンズ」以外にも「ニネヴェのレンズ」とも呼ばれている。最古のレンズは「偶然の産物」説
レンズは透明な球体であることもあり、たとえば占いで使うような水晶玉がそれである。
紀元後2世紀には球体レンズで物を拡大することがわかっているが、「意図的にレンズとして作られたもの」がそれ以前の時代に存在するとなると、拡大鏡や望遠鏡として作られ、使用されていた可能性もあり、歴史を覆す世紀の大発見となる。
しかし、これは考えにくいとされている。
それでは、アッシリアの水晶レンズは偶然の産物なのか。
事実、発見者であるレイヤードが水晶のレンズを発見した時の報告書が物語っている。
「木片や象牙を覆っていたガラスの破片」であり「不明なガラスの破片と一緒に発見された」ことから、アッシリアの水晶レンズは装飾品の一部であったと考えられる。
ガラスに装飾を施していく過程で、研磨を続けていたところ偶然にも表面に凸型ができ、その角度がレンズとしての役割を担っていた。
実際には、家具や額縁などの家財道具の装飾だった、というのが専門家の多くの意見である。
これにより、人工的に作られたものではあるが、レンズとして意図的に作られたものではなく、偶然の産物とみなすことが自然とされている。
また、「アッシリアの水晶レンズは装飾品であり、最古のレンズではない」との見解を示す考古学者もいることから、これをレンズとしてみなすかどうかでも意見が分かれるところである。
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