第4回 コロナをぶっ飛ばせ 秋のリレー怪談2021開幕!

第4回「コロナをぶっ飛ばせ!」 2021秋のリレー怪談 スタート!!

◯小説の形式及び登場人物
2021、11月21日現在

  舞台;私立鳳徳学園高校;明治時代に建てられた地方の進学校。元は男子校であったが平成に入り共学制に。
旧校舎には時計塔あり。ロンドン塔によく似ている。 敷地内の一角に英国人墓地と併設して礼拝堂がある。

主人公;秋永九十九(あきなが つくも)。ごく普通の男子。部活は未定。残りの書き手さんに任せます。
ヒロイン;甘瓜美波(あまうり みなみ)、転入生。すらりとした体系のボブカットの美少女。背は高め。周囲に溶け込む気が余りないが敵は少ない。悪夢の中で主人公に会う。父の都合で引っ越してきたことになっているが、実はストーカー被害に悩まされていたことが原因。

甘瓜花波:甘瓜美波の母。鳳徳学園の新米英語教師。

因みに甘瓜家の家系。
雪波→月波→花波→美波。

校長;ロビン・ウィルソン。片言の日本語を話す英国人。顔の怪我を隠す為に半分白い仮面で覆っている。あからさまに怪しすぎてかえって怪しまれない。ニックネームは便器。
マリア・ウィルソン:故人。ロビン・ウィルソンの娘。
大神遊平の元妻であり、大神遊輔の母親。
八島弘:ロビン・ウィルソンの側近。

大神遊人:大神遊輔の祖父。
大神遊平:大神遊輔の父。妻はロビン・ウィルソンの娘、マリア・ウィルソン
オカルト研究部部長・大神遊輔。金色の目を持つ。甘瓜みなみにフラれる。狼一族とヴァンパイ◯一族のハーフ?※超難関キャラw
気水百香:大神家に仕える鳳徳学園の教員。

護摩堂アキラ:鳳徳学園生徒会長。自信が秀才である事に自負を持つ、完璧主義者。 生徒会長の権限として、彼だけが校長との面談を許されている。 八島の存在に疑問を持つ。

沢カレン:鳳徳学園二年。オカルト部の幽霊部員。今どきのギャル風女子。好奇心旺盛。体育は嫌い。放課後はデートと称したパパ活。

ユウタ:沢カレンの中学の同級生

月島聖良(つきしませいら)……進路に悩む鳳徳学園の2年生。甘瓜美波の母、英語教師の甘瓜花波と親交を持つ。魔夜中に取り込まれノイローゼになり入院。その後、学園の旧校舎から身を投げる。生死は不明。
日本生まれの日本育ちで和食党だが、曾祖母が英国人のため瞳は碧眼。曾祖母はロビン・ウィルソンの父の、姉にあたる人物。

麻希子……聖良のことを「セーラ」と呼ぶ友人。普段はいい加減だが、友だち思い。聖良にトドメを刺す。

時系列は以下の通り。
・約20年前。2001年頃。甘瓜花波とマリア・ウィルソン、鳳徳学園に在籍。教師になる夢を語り合う。
・鳳徳学園卒業後、ふたりとも学生結婚をし、大学を中退。花波は美波を、マリアは大神遊輔を出産。マリア死去。
・約10年前。2011年(美波、遊輔は小学生)。英語教師として赴任してきた花波と、月島聖良が出会う。
ふたりとも魔夜中に取り込まれ、花波の魂は八島の手中に落ちる。聖良はノイローゼになり、文化祭の前後に旧校舎から身を投げる。
・現在。2021年。魔夜中の中で、聖良と護摩堂アキラが出会う。

魔夜中;悪夢の中を指して甘瓜美波がつけた呼称。

魔夜中に持ち込めるもの;ない。だが鬼火の怪人(ジャック・オランタン)を倒せるものは夢の中にも存在する。英国人墓地、といえば○○が埋まっているはず。ただこの〇〇を使うかは残りの走者次第。

◯リレー順および〆切り(※順不同・敬称略)

第一走者:ゴルゴム13(掲示板〆:10/9 23:59/「怖話」投稿予定:10/10)
第二走者:五味果頭真 (掲示板〆:10/16 23:59/「怖話」
投稿予定:10/17)
第三走者:ロビンⓂ︎ (掲示板〆:10/23 23:59/「怖話」投稿予定:10/24)
第四走者:rano_2 (掲示板〆:10/30 23:59/「怖話」投稿予定:10/31)
第五走者:あんみつ姫(掲示板〆:11/6 23:59/「怖話」投稿予定:11/7)
第六走者:一日一日一ヨ羊羽子(掲示板〆:11/13 23:59/「怖話」投稿予定:11/14)
第七走者:綿貫一(掲示板〆:11/20 23:59/「怖話」投稿予定:11/21)
第八走者:珍味(掲示板〆:11/27 23:59/「怖話」投稿予定:11/28)
第九走者:車猫次郎(掲示板〆:12/4 23:59/「怖話」投稿予定:12/5)
第十走者:ゲル(掲示板〆:12/11 23:59/「怖話」投稿予定:12/12)
○ 控え走者 (およびリレー順希望)
・ふたば

□物語の形式
①「前半オムニバス+後半なぞとき」
メインキャラ5人(前後)分の導入となるオムニバスを4~5話続けて
残り7~8話+エンディングで、たっぷりと謎解き(および恐怖体験)。

②「途中オムニバス」
主人公視点で物語が進んでいく途中途中に、主人公以外の視点で語られる話がある、という形式。

⇒(意見)まあこれについては、いざ始まってみたら自然に決まるかもしれませんね。。

□最終話について
①合議制で内容を決め、代表者1名が執筆を行う。

②マルチエンディング →その場合、複数の希望者がそれぞれ結末を用意する。

⇒①をトゥルーエンド、②はアナザーエンド(ifのエピソード)とするなら、両立するかもしれませんね。

□タイトル 候補

タイトル候補;魔夜中の殺人鬼、魔夜中の狩人、鬼火の狩人、鬼火舞う学園、鬼火の牢獄、鬼火舞う牢獄、旧校舎に鬼火舞う刻、魅惑の旧校舎~紅蓮の狩人。

・放課後の獄舎 ~転校生と鬼火の狩人~
・ミッドナイト・パーティー
・神無き月の狩人
・Faceless sneaker(顔のない 忍び寄るもの)

○現在までのダイジェスト(綿貫様まとめ)
2021.10.16 現在。

■第一話(秋永九十九)
□シーン1 悪夢の中
九十九が、どことも知れない建物の中を歩いている。
建物の1階で、頭部が縦長のカボチャのような、背の高い、謎の人物に遭遇する。
男の手には紅蓮の炎をまとう、大ぶりの鎌が。
男の背後には制服姿の少女の死体があった。
ガツンという衝突音とともに、悲鳴が響く。男の背後にもうひとり誰かがいることに気付く。

□シーン2 学校/教室の外
九月下旬。十月末に行われる文化祭に向けて、学校中が盛り上がりつつある。
転校生の甘瓜美波が、九十九に話しかけてくる。
美波は親の都合で九月に転入してきたばかりだが、その美貌とふるまいから、当初は注目を集めていた。
しかし、オカルト研究部部長・大神遊輔のラブレターを破り捨てた事件で、「甘瓜さんは甘くない」と噂が立ち、今では男女ともに彼女から距離をとっていた。
そんな孤高の美少女に話しかけられドギマギする九十九であったが、「昨日、夢を見なかった?」という美波の言葉に戸惑う。
美波は九十九をある場所へと誘う。

□シーン3 旧校舎
美波は「あなたの見た夢の場所は、この旧校舎である」と告げる。
たしかに窓の外に見える時計塔に覚えがあった。
「校内に礼拝堂と英国人墓地があるのを知ってる?」
「私は昨日、殺されかけた」
次々と謎の言葉を紡ぐ美波。
聞けば、紅蓮の鎌を持った化け物―ジャック・オー・ランタン―に、廊下の突き当りで殺されかけたのだという。
それがただの夢でない証拠にと、美波は首の付け根に現れたミミズバレを見せる。
夢の中で彼女よりも先に女生徒が殺されたが、美波の調べによると十年前に死んだ生徒であるとのこと。
「あなたも私の夢の中にいたのよ」
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、
鳴らずの時計塔が突如鳴り出す。

■第二話(大神遊輔)
□シーン4 自室
オカルト研究部部長・大神遊輔は、先日、甘瓜美波にラブレターを出したものの、ビリビリに破かれ玉砕。そのことを校内の裏サイトにもさらされ、ショックから不登校になっていた。
悪夢を見て飛び起きる遊輔。手元の時計はPM4:44を示している。
夢の内容を振り返り、気になることが出てきた遊輔は、それを確かめるため学校に行くことにする。

□シーン5 祖父の部屋
出がけに祖父に呼ばれ、父とともに祖父の部屋に。
不登校を責められるかと思いきや、
「そろそろ文化祭だ。文化祭といえばなんだ?」と謎の問いをされる。
祖父も父も遊輔の通う高校のOBだが、私立鳳徳学園は元々は男子校で、また時代柄男女交際のチャンスなど文化祭以外になかった、と告げられる。「恋愛については奥手な家系だ」とも。
大神家には遊輔の物心がついた頃から、すでに祖母・母親の姿がなかった。

□シーン6 旧校舎①
遊輔は、美波に惹かれた原因のひとつは「甘い香り」であると考えていた。
学校に到着すると、悪夢に見たであろう旧校舎へと向かう。
現場に着いて、場所の確信を持つ遊輔。
彼は悪夢の中で、美波が何者かに襲われるのを見ていた。

□シーン7 旧校舎②
遊輔は旧校舎で美波と九十九の姿を目撃し、逢引きであると思い込む。
九十九に首筋を見せる美波に、嫉妬から正気を失う遊輔。
思わず走り出し、旧校舎の裏側、英国人墓地へと足を踏み入れる。
遊輔は旧校舎に、美波とは別の魅惑的な香りが漂っていたことに気が付く。
墓地には、誰かが掘り返したような跡があった。
墓穴の中にはあるべき棺桶の存在はなくなっていた。
頭上の空を大きな鳥のような影が横切る。
空に浮かぶ真っ赤な満月を見て、自分の身体が大きくなり、全身を毛が覆いつくす感覚を得る遊輔。
その時、突然鳴らずの時計塔が鐘を鳴らし始め、それにあわせ、遊輔は吠えた。

皆さまお久しぶりです。
半年も留守にしてしまい申し訳ありませんでした。
皆さまとの「友情」を踏みにじってしまっている事を痛く感じながらも、なかなかこちらを覗く事ができない日々を過ごしておりました。
自分から立ち上げておいた企画途中で逃げだすという事は許されない事。恥ずかしい事。バカな事。ゴミクズ野郎な事。皆さまそして、ふたば様に本当に失礼な事をしてしまいました。
少し前から体調、精神状態と、左目が安定して参りましたので恐る恐るこちらを覗かせていただきました。
もう逃げ出す事は絶対にいたしません。許してください!…ひ…泣
もし、こんなロビンにまだ付き合ってやってもいいよーって方がいらっしゃいましたら、共にふたば様の応援をしていきたいと思っておる所存にございます!

返信

皆様ご無沙汰しております。
個人的な理由で自分の作品の執筆はおろか、だいぶ怖話から離れておりました。
申し訳ありません。
一昨日くらいからふたばさんの11話の話を読ませていただきましたが、参加者としては始めた当初からは想像できないくらいスケールの大きいお話になって驚くのと同時に「一体この物語はどう完結するのだろう」と、いち読者としてのわくわく感もあったりします。
ラストがこんな大長編になるとふたばさんに全ての荷を預けたような気がしてなんだか申し訳ないです。
何もできない僕には応援することしかできませんが、続きを楽しみにしております。

返信

ふたば様
大分ご無沙汰しておりますが、定期的に読みに来ております。
当初ここまで複雑な話になるとは思っていなかった僕からすると、ふたば様のご苦心が身に染みて感じられます。
最終話の前半を読ませて頂きましたが、それぞれのキャラが生き生きしているので長くは感じませんでした。
続きを楽しみにしてます。

返信

ふたば様

一部誤解を招くような表現がございましたため、再投稿させていただきました。
申し訳ございません。
ご無沙汰しております。
ふたば様へ、愛想尽かしなど滅相もございません。
母が我が子にそのような思いを抱くことは決してございません。
ここのところ体調が優れず、心身疲弊しきっておりました。
そもそも、私が余計なことを書き込んでしまったがために、ふたば様に限らず、このイベントにご参加くださった皆様や多くの方々の、お心を傷つけてしまいました。
大変失礼なことを重ねてしまったようでして、お詫びの仕様もございません。
今更お詫びをしてもどうなるものでもございませんが、言い訳はせず、ひたすら自粛したいと思います。言葉とは、恐ろしいもの、慎重かつ繊細な心で用いなければならないもの。改めて教えられた次第です。
数ヶ月に及ぶ大作の片鱗に、一度目を通したいという私のわがままから犯してしまった過ちでございます。
ふたば様を責める気持ちなど微塵もないことをお話したくて。
恥を忍び、ここに再度書き込んだ次第です。
私のほうが、愛想尽かしされそうです。
実際、嫌悪されておられる方がいらっしゃいますし。
全て私の不徳の致すところでございますゆえ、あまり気に留めぬようにと願います。

ここまで拝見し、ただただ驚き、深い考察と丁寧な書き込み、心身を削っての過酷な作業を想像し、ひたすら圧倒されている次第でございます。
もはや、ホラーや学園物、青春群像といったレベルにとどまらず、それらを遥かに超えた神話や宇宙規模のストーリーに…。これ以上は、コメントのしようがございません。
むしろ、何も語らないほうがよろしいかと存じます。
ふたば様のペースで完走してくださいませ。
第2の母は、いつも応援しています。
安心してくださいね。
気温の変化著しい日々。
ロシア・ウクライナ情勢。
収束しないコロナ感染症への不安などなど。
不安と不穏の種は尽きることがございませんが、ふたば様の健やかな日々をお祈り申し上げます。返信コメント不要です。お大事になさってくださいませ。

2022年05月06日 09時13分

返信

@五味果頭真 さん、筆に力湧くコメントを有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )
今回の参加者で最も筆が遅く、圧倒的に文章力も無い私ですが、とにかくここまで素晴らしい物語を紡いで下さった皆様の努力を無駄にしたくない一心だけで何とか書いております。
五味果頭真さんが、大神遊輔というキャラクターを内面から作り込んでいただいたお陰で、アキラや美波よりずっと動かし易い、第二の主人公的立ち位置のキャラになりました。
また、元のネーミングが方々で奇跡的な噛み合いを見せ、メインキャラ達の繋がりが運命的なものとなりました。
私はこのお話を、あんみつ姫さんの番から『信仰』と『名の重要性』をテーマに出来るのでは無いかと思っておりましたが、そもそもその案に至るきっかけは大神(オオカミ→狼)の言葉遊びからの大神(オオミワ)という実在の氏族への転換という自己考察によるところからで御座いました。
そこにまさかの国津神である鳥鳴海神の名前が出て来た時は私も仰天でしたが、そもそも四家にどんな繋がりがあったのかの疑問に、個人的に納得の行く理由が生まれました。
つまるところ、私の今書いているのは皆様が描かれたお話を考察して纏めている物で、見ようによってはニ次創作とも言えます。私の文章がニ次創作であるなら一次創作(オリジナル)は皆さまのお話であり、これをリスペクトする私にとって、原作者様たる五味果頭真さん達の応援の言葉は、物凄く励みになります。
絶対にこのお話は完結させます。
というより、他の企画や創作活動も止めて書いているので、完走しない限りそっちに手出し出来ない為、私的には一刻も早く完走したいです😓
とは言え、半端なモノは書けませんので、ついつい気になってしまう矛盾点や、キャラクターの解釈違いなどが御座いましたら、忌憚無くお申し付け下さい。
描き途中だからこそ、いただいた意見は即刻反映出来ます。

今はとにかく、応援の御言葉を有難う御座います。除草剤にも自力で対抗するくらいの勢いで頑張ります。

あんみつ姫さんもいつも有難う御座います。私にとってもう1人の母であるあんみつ姫さんに愛想を尽かされるなんて事態が個人的には一番怖いので(とっくにそうなっているかもですが…)そうならないようとにかく走り続けますね。笑

返信

@ふたば 様
お待たせしたなんてとんでもないです。こちらこそコメントさせていただくのにお時間いただきました。僕は途中から話の続きを読むことすらできていなかったので、このGWの合間合間に一から読み直させていただきました。そして、まさかの展開続きで最後にはすべてはゲームの中の話だった…?と正直戸惑ってしまいました。
そしてふたば様の書かれる11話は、それまでの登場人物やストーリーをもとに二周目の世界を作りあげるという展開なのだと理解しました。その認識が間違っていないのなら、まだ完結していない段階で僕がストーリーの辻褄合わせについて言える立場ではないと気づきました。この話の結末はふたば様の手中にあり、僕ができることはこの企画の参加者でありながらも、一読者としてふたば様の創作を応援させていただくことしかできないのではないかと考えております。

本当に勝手な意見で申し訳ございませんが、僕はこの作品の続きを大変楽しみにしております。話の方向を決定づける第二話という役割を任せていただいたのにもかかわらず、その後の走者様、そしてラストランナーのふたば様にとって話の方向性を難解なものとしてしまったのならごめんなさい。そんな不甲斐ない自分を肯定するためと言われれば言い訳はできませんが、僕の率直な感想としては、この作品は完成されること自体にとても意味があるのだと思いました。もちろん、話の内容や過程を蔑ろにしているわけではまったくございません。気分を害されたらそれは完全に僕の否です。
ただ、ふたば様が書かれているのは二周目の話ということならば、本来なら一人の作者様に任せてしまうのは酷なのではないかと思っております。一方で、ここまですでにふたば様お一人の力で、その前の走者みんなの意図も汲みながら膨大な話を練り上げているというのは、それ自体に何か凄みのようなものを感じられてしまいました。そのような話の完成にはそれ自体に他の作品にはないような特別な価値や意味が備わっているのではないかと思います。今さら全員でもう一周なんて言える立場ではないことに甘えながらも、ふたば様に頼りきりになっているという状態に対して申し訳なく感じたので、せめて応援だけでもさせていただきたいという気持ちが今の自分の本音です。また、完全に読者の立場になって言わせていただくと、「どれくらい待つことになっても作品の結末を見届けたい」という気持ちがこの作品に対する僕の感想のすべてです。

繰り返しますが、ストーリーや内容を度外視してただ完成を求めているわけではまったくございません。神話といった厳格な知識がみんなでつくりあげたキャラクターとどう関係するのかだったり、真面目な話の中にも機知に富んだ言い回しがあったり、個人的なところでは僕の書いた文章のパロディを書いていただいたりと、作品の内容についてもとても楽しませていただいております。そのうえで、僕ができることは、この作品がどのような過程をたどりどのような結末を迎えるのかを待つことなのだと考えております。このような長文のコメントを書かせていただいたのも、一人の読者としてこの話の続きを楽しみにしている者がいることをどうしても伝えたかったためです。それがふたば様の今後の執筆のお力添えになるとは断言できませんが、自分がまずできることはこれだけなのだと信じてコメントさせていただきました。
最後に、この企画の参加者でありながら現時点ではその立場からのお力添えをできないことについては、本当に申し訳ないです。また、このサイトのお祭りというのが当企画のポリシーであるならば、僕のこれまでの発言はお祭りの雰囲気にはまったくもって不釣り合いです。どうかなかったことにしていただきたいと思います。
まとまりのないコメントでごめんなさい。返信は不要です。どうか体調に気をつけてお元気でいてください。この企画が続いている間だけでも、僕もいろいろと書いてみたいと思っております。

返信

ふたば様
もうひとつの壮大なホラーファンタジーの世界を構築し、心身を削るような思いで綴っているのが分かります。
仕事上、大型連休とは無縁の「飛び石」連休ではございますが、数ヶ月に及ぶ力作、大作を堪能させていただきたく存じます。
まずは、多忙を極める中、多くの作家の手を経た「本作」を、丁寧に読み込み、複雑怪奇な設定を紐解き、豊かな才能を随所に散りばめながらのラストラン。お疲れ様です。
まだまだ、続きそうですね。
どうぞ、ご無理なさらず、いえ、お気の済むまま、思いの丈を、ふたば様らしい作品を描きあげてくださいませ。
返信不要です。
ではでは、このへんで。失礼させていただきますね。

返信

@五味果頭真 さん有難う御座います。

現在進行形でお待たせしてしまい、そして折角のGWのお時間を奪ってしまい、申し訳御座いません( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )
あまり推敲が出来ていないので、矛盾点も日本語間違いもあるかと思いますが、まだまだ調整可能なので、忌憚無く意見して下さいませ( ᴗ ̫ ᴗ )

返信

ご無沙汰しております。ふたば様、ラストランナーとしての創作、お疲れさまです。何ヶ月かこのサイトから離れていた僕が簡単にコメントしていいような作品ではないので、このGW期間中にこれまでの10話を振り返ったうえで、ストーリーの辻褄合わせなど複数人で確認した方がいいと思われる点について、改めてコメントさせていただきます。

返信

今書いている11話-6が、今後どうするかの作戦会議回なのですが、ここでやっと大神家でのシーンが終わります(本来ならここでキリをつけて途中経過とする予定でした)

その後、ようやく再び魔夜中のシーンとなり、ずっとスタンバってた八島や校長、沢カレンらが満を辞して登場します。

一先ずは、11話-6が書け次第、また投稿します。
質問は常に受け付けておりますので、どんどんして下さいませ。

連投失礼致しましたm(_ _)m

返信

11話-5について

主人公達四家の元々の信仰神がやっと明らかになる割と重要な回です。

また、話を整理し易くする為に、目線が九十九に戻ります(遊輔目線なんてやるべきじゃなかったかも知れない)

もしかしたらお察しの方もおりそうですが、あんみつ姫さんの所で出た唯一神vs八百万の神々という背景に、日本神話の国譲りの伝承のメタファーが加わって、この後はお話が展開される予定です。
『凰光学園』が駄目な理由もその中で明らかになります。
また、本文中にはまだ出て来ておりませんが、呪いの化け物と各家系の神様の繋がりは、

大神家(狼男)→オオモノヌシノカミの実在の氏族の漢字の読みが転じて“オオカミ”になる。
甘瓜家(アルプ鳥)→トリナルミノカミが魂(霊)を運ぶ鳥であり、悪夢に連れ去るとされるアルプ鳥と親和性がある
護摩堂家(吸血鬼)→大黒天の使いは“鼠”であり(オオクニヌシノカミの伝承に依る)“コウモリ”の別名は“天鼠”もしくは“飛鼠”
秋永家(死神)→タケミナカタノカミの信仰の象徴が“鎌”(詳しくは、物語の中で後々がっつり触れます)

返信

魅惑の旧校舎 11話-5

§

 遊輔の家を訪れるのは、2週目の世界では初めてだった。
 そして、遊輔の祖父、大神 遊人(ゆうじん)に招待され、客間へ通されたのは、1週目の世界線を含めても初めての事だった。

 僕はこの場で、記憶の新しい昨日の出来事を中心に、大まかな体験を伝えた。
 昨日の話からしたのは、正直なところ、自分の記憶が信用出来ないからだった。

 1週目の甘瓜さんは、光る双葉によって保持される記憶はごく一部であると語った。実際のところ、僕はその言葉に反して多くの事を憶えているが、元々記憶力が良い訳じゃ無かったし、細部まで鮮明に憶えている訳では無い。

 何度も何度も見た魔夜中の夢だって、正確に何回見たのかは分からないし、学校から遊輔の家への道のりも、実はちょっと危うかった。

 重要な事で無ければ、少し忘れているくらいなら問題は無いだろう。しかし、こうして話していてふと気付いたのは、前回沢カレンさんが魔夜中に迷い込んだという日が何日であるかを憶えていないという事だった。
 おそらくは10月の中頃なんじゃ無いかとも思ったのだが、それは予想の域を出ず、日付の特定には至らない。

 気水先生の、僕が語る話に“妙な点”があるという言葉が、重く喉の奥に引っかかるのを感じる。

(あれはもしかして、遊輔が指摘していた遊人(ゆうじん)さんの年齢の事だろうか?
…いや、それだけじゃ無い気もする……)

 多くの記憶を持っているからこそ、どこに穴があるのか分からない。だから僕は、自身の記憶を引き出すように、細かい説明は他者から質問を受けながらにしようと思った。

 先程は珍しく拗ねる美波についついホッコリしてしまったが、閑話休題、今は魔夜中の事について話合わなくては……

「気水先生。そういえば先生は昨日、『貴方の話に少し妙なところがあった』と言っていたと思うのですが、それってどういう事だったんですか…?」

 恐る恐る尋ねる。気水先生はこちらを見つめ、クイッと眼鏡を上げる。

「私が妙に思ったのは、貴方から見て1週目の世界での、魔夜中での遊人様と八島弘のやりとり。秋永君、もう一度、昨日と同じように説明してくれる?」

 言われて頷き、僕はもう一度説明をする。何処かが間違っているのだという事を知った状態で、自分でも正確さに疑問のある記憶を語るのは、不安を纏う緊張がある。

 僕は板の割れた吊り橋を渡るような気持ちで、憶えている限りの、あの時の様子を伝える。
 遊人さんが魔夜中の空間に現れて、魔夜中を作った人物を語り、魔夜中の存在理由を説明し、甘瓜家と八島家の繋がりを話して、八島が現れて、美波の母親の魂を返還した。そんな、一連の流れを。

 一言一言手繰り寄せるように、ぼろぼろのツタにしがみつきながら歩くように、出来るだけ事細かに話した。
 そして……気が付く。

(あれ…?なんで遊人さんは、大神遊山の事を『我が父』だなんて話してしたのだろう……
 それに、そもそもどうやって魔夜中に侵入したというのだろう……)

「今日聞いた話とすり合わせると、明らかに矛盾のある話だね。これ、本当の話?」

 アキラが言う。記憶違いなんじゃ無いかと問われると、正直言って断言出来無い。

「ふむ、それは中々…成る程のう……」

「遊人様、どう思われますか?」

「秋永九十九君。その話は、君の記憶の通りなのかのう」

「それは、その。その筈、です……」

 自信の無さに思わず首が下がってしまうと、僕の隣に座る美波が口を開く。

「はあ。全く、分かりやすく自信無くさないでよ。こっちが不安になるでしょ」

「おおすまん、疑うつもりじゃ無かったんじゃがな。ただ、もしその通りなら少々厄介な事になっておると思ってな」

 軽く唸り、遊人さんは続ける。

「話を聞く限り、十中八九その話に出てきたワシは偽物じゃな。
 確かに所々正しい事を言っておるが、重要な部分が狙ったように出鱈目じゃ」

「偽物…?じゃああの時の遊人さんは一体…?」

「まあそう急くな。ひとつずつ話すとしよう」

 遊人さんは背筋を伸ばし、机の上で指を組んだ。

「先ず、魔夜中を作った人物。これが全くもって違う。
 ワシが先代から聞かされている限り、魔夜中を作ったのは大神遊山では無い。学園の発案者、ヘンリー・ウィルソンじゃ」

「大神家の人間どころか、正反対って事?」

「うむ。もっと詳しく言えば、魔夜中はかつて悪魔から呪いを掛けられた際に発生した、ヘンリー・ウィルソンの現実逃避空間じゃ」

「現実逃避空間?」

「これはワシの造語じゃが、つまりは現実が受け入れられず、幻想の夢こそ真と思い込んで創り上げた、彼奴の願望が具現化した空間という事じゃ」

「古典の『胡蝶の夢』みたいな心理って事ですかね。成る程、遊輔君が魔夜中を発現した時と同じ原理だという訳ですね」

「俺の場合、確かにあの時『夢ならば、どれほどよかったでしょう』なんて思っていたけど、でもそれで異空間を丸々ひとつ作れるものなのか?」

「『夢ならば…』って、あの男性シンガーソングライターの曲?」

「あー、確かに前髪長いのお揃いだよね。あの玄米法師みたいな名前の人と」

「玄米じゃねーよ!はっ倒すぞ!?」

 玄米法師って…僕もその人のファンなだけに、漢字のニュアンスで誰か分かるのが悔しい。

「遊輔が好きなシンガーは置いておくとして。…そうじゃな、それだけその悪魔だかデーモンだかが強力だったという訳じゃ。何せ、幾つもの家系に代々続く呪いを掛けられるくらいじゃからな」

「そうなって来ると、魔夜中が中立国の様な話し合いの場だというのも嘘なのかしら」

「学園の関係者なら誰でも侵入出来ると言うだけなのなら、あながち間違いでは無いかも知れん。
 ワシの知っている限りでは、入りたいからと言っていつでも入れる訳では無い筈なんじゃが、それはワシが方法を知らないからかも知れんからな。
 しかし、入れば怪物に襲われる危険な場所が、話合いの為の場というのも、矛盾している気がするのう」

「言われてみれば、確かに……」

「むしろ聞きたいのは、お主らはその時どうやって魔夜中に入ったんじゃ?夢を見た訳でも無く、後から旧校舎へと立ち入ったのじゃろう?」

「その時は、行方不明だった沢カレンさんの助けを求める声が聞こえて、その声を頼りに旧校舎へ侵入したんです。旧校舎に立ち入った瞬間はまだ現実世界のままだったんですが、廊下を歩いている内に、いつの間にか魔夜中へ迷い込んでいました」

「沢カレン?あのハーフのギャルのか?なんでまた…」

「詳しくは分からないけど、他校の男友達と侵入して、そのまま出られなくなっちゃった感じだったかな。僕らが旧校舎に到着したら、ボロボロになって1人で出てきたけど」

「1人で?一緒に入ったとかいう男友達はどうしたんだよ」

「男友達の方は既に怪人に殺されてた。それだけじゃない、遺体の口を動かして助けを呼ばせてた。多分、沢さんか僕らをおびき出すために……」

「それは…えぐいな……」

「沢さん。確かに身だしなみも悪くて、私も普段からつい口煩くなってしまっていたけれど、そんな目に遭ってしまうなんて、居た堪れないわね……」

「ふーむ、結果から察するに、まるでお主らを誘き出す囮として、魔夜中へ捕らわれていたかのようじゃな」
 
「そこまでして、偽物の大神遊人と八島弘を、僕らに接触させたかったという事でしょうか?」

「断言は出来んがその可能性は高い。理由は偽物の情報を与えて混乱させるためじゃろうな」

「なるほど、だからこそ全員を集めて……
 ずっと潜んで情報収集に徹していた僕も、まんまとその場に集められたってわけですね。
 そうなれば、その後美波さんのお母さんを解放したのも、善意のためではなく信頼を抱かせるためのポーズだったという訳か。“100%敵の人物からの情報”と“完全な敵という訳では無い人物からの情報”では、後者の方が僅かでも信憑性は上がりますからね」

「じゃあ、甘瓜家は八島家の末裔だっていうのも、嘘っていう事……?」

「いいえ、残念だけど完全にそうとは言い切れないわ。八島の言う八島牟遅能神(ヤシマムジノカミ)が鳥鳴海神(トリナルミノカミ)の祖父である事は紛れのない事実よ」

「じゃが、八島弘が当の八島牟遅能神(ヤシマムジノカミ)の後裔(こうえい)、つまり子孫であるのかは知らん。たまたま苗字が同じだからと神の名を騙っている可能性もあるからの。
 何より、そこの繋がりを言うのであれば、後の三家との繋がりについて触れておらぬのは余りにも不自然じゃ」

「他の家系との繋がり…?」

「そう。そのことをまるで無視しておったのが、一週目の大神遊人とやらが偽物であると考える根拠じゃ」

「その繋がりが、それだけ重大な情報だっていう事か…」

 遊輔の言葉に対し、遊人さんは「その通り」と言い切る。

「大神家、甘瓜家、護摩堂家、そして秋永家は、各家の信仰が神話で繋がっておるんじゃ。それも、深くな。だからこそ、四家は学園創立に携わっており、一度はバラバラになったとしても、こうして運命的に再び相まみえた」

「神話で繋がっているってどういう事?」

「そうじゃな、ではその繋がりの中心となる大神家の信仰神について先ずは語ろう。学園創立にあたり、大神遊山当人によって祀られた神じゃ」

「大神遊山が祀った?キリスト教系の学校なのに?」

「それについては後で細かく説明しよう。

 さて遊輔、お主は大神家の本家に行った時の事を覚えておるか?」

「えっと…何年も前だったからうろ覚えだけど、奈良県のなんか山の麓ぐらいの場所の所だろ?そう言えば表式に書かれていた苗字は同じ漢字だったけど、読み方が違ったような……」

「そう、ワシらのご先祖様名は大きいに神と書いて“大神(おおみわ)”と読み、“大物主神(オオモノヌシノカミ)”を祖神とする氏族じゃ」

「大物主神(おおものぬしのかみ)って…誰?」

 僕の率直な疑問に答えたのは気水先生だった。

「日本神話において、現世(ウツシヨ)…つまり私たちの住まうこの世界を平定された、国造りのエピソードに出てくる神様よ。
 『古事記』によれば、大国主神(オオクニヌシノカミ)が、少名毘古那神(スクナビコナノカミ)と共に国造りをされている時、二人は喧嘩してしまい、少名毘古那神(スクナビコナノカミ)が常世の国に帰ってしまったことがあるの。協力者を失った大国主神(オオクニヌシノカミ)が『これからどうやって国造を行えばいいのか』と途方に暮れている時に、海の向こうから光り輝く姿で現れた神様が、大物主神(オオモノヌシノカミ)よ。
 また、『日本書紀』では大国主神(オオクニヌシノカミ)はこの大物主神(オオモノヌシノカミ)と同一の存在であるとしていているの。その正体は大国主神(オオクニヌシノカミ)の和魂(ニギミタマ)だとされているわ。
 和魂(ニギミタマ)というのは神道における概念で、神様の霊魂は二つの側面をもつ、つまり相反する二つの魂を併せ持つとされているの。二つの魂はそれぞれ荒魂(アラミタマ)と和魂(ニギミタマ)と呼ばれていて、荒魂(アラミタマ)は神の荒々しい側面、荒ぶる魂の事を指し、和魂(ニギミタマ)は反対に、神の優しく平和的な魂を指しているの。
 大神(おおかみ)家の本家、大神(おおみわ)神社の由緒では、『大国主神(オオクニヌシノカミ)が自らの和魂(ニギミタマ)を大物主神(オオモノヌシノカミ)として三輪山に祀った』と記載がされているわ。
 つまり、大物主神(オオモノヌシノカミ)というのは大国主神(オオクニヌシノカミ)の優しさを表した魂、人で言うと人格かしらね。そんな存在だと言われているの」

 気水先生は一息に説明をする。そういえば気水先生は国語の、それも古文の先生だった。

「成程、学校創りに国造りの神様を祀るのは納得できますね。しかも出雲大社の大国主命(オオクニヌシノミコト)の同一存在で、優しき魂とは…名家にはそれなりの謂れがあるということですね」

「そういう事じゃ。この大国主神(オオクニヌシノカミ)こそが、ワシら四家の繋がりの中心となる」

 頷くアキラの言葉を肯定し、遊人さんは美波と僕に向き直る。

「甘瓜家が代々信仰する鳥鳴海神(トリナルミノカミ)。この神様は大国主神(オオクニヌシノカミ)と鳥取神(トトリノカミ)の間に授かった息子じゃ。古事記や日本書紀にはほぼ名前しか記載の無い神じゃが、十七世神(トオマリナナヨノカミ)という国津神の系譜において、大国主神(オオクニヌシノカミ)次代を担った神じゃ」

「そして秋永家。九十九君は『秋永』という姓が隠し名であるのを知っておるかの」

「えっ、それは…ずっと前に祖父から聞かされていますけど……」

 驚いた。一族でずっと隠されていたと思っていた情報を、知っている人物がいるなんて。僕の驚愕に構わず、遊人さんは続ける。

「ではその名前と、祀る神がどなたかも知っているかの」

「父が転勤ばかりで、家の歴史の事なんて無頓着だから僕もうろ憶えですけど…、確か本当の苗字は『秋宮』、祀る神様は“タケミナカタ”……と言っていたと思います」

「うむ。秋永家が代々信仰しているのは建御名方神(タケミナカタノカミ)と言ってな。この神様もまた、大国主神(オオクニヌシノカミ)の息子なのじゃ。と言っても、鳥鳴海神(トリナルミノカミ)とは母親が違うがな」

 えっ、つまり僕の家系の信仰先と美波の家系の信仰先は義理の兄弟って事…?!

「なんで隠し名なんて面倒な事しているのよ」

 美波が突っ込む、それは正直僕も思う。

「おそらく、建御名方神(タケミナカタノカミ)が本来ならこんな場所にいちゃいけないからじゃ無いかしら」

「それってどういう事ですか?」

「建御名方神(タケミナカタノカミ)は、国譲りの神話の中で、建御雷神(タケミカズチノカミ)に敗れて殺されそうになったの。そして諏訪…現在でいう長野県の山梨県寄りの場所ね。そこまで逃げて、『貴方達にはもう逆らわないし、自分はこの地に留まり出ていかないから許してくれ』って言ったのよ。だから本来なら、その地に建立する諏訪大社から離れられないの」

 自身をお祀りする神社でも建っているのなら、そこから外界の様子も覗くこともできるけれど…、と気水先生は付け加えた。人間が勝手に増やしたテリトリー内ならば、好きに動けるという事なのだろうか。

「それで、そのエピソードがどう関係するんですか?」

「全国各地の諏訪神社の総本社である諏訪大社には、四箇所の境内地があって、諏訪湖を挟んで北側に上社本宮・前宮、南に下社秋宮・春宮があるの。
 これはあくまで推測なのだけれど、秋永君の本来の苗字である“秋宮”は、この下社秋宮の守護を担う家系の屋号だったんじゃないかしら。

 そして、その境内地を担う存在自体も諏訪大社の境内地である…つまり自身のテリトリーの一環だと拡大解釈することで、建御名方神(タケミナカタノカミ)は活動範囲をこっそりと広げたんじゃないかしら。『“秋宮”という存在の範囲が、自身の動ける範囲だ』って感じね」

「なんだその子供の言い訳みたいな解釈……」

 遊輔が突っ込む。確かに子供っぽいというか、中々強引な……
 もしかして、建御名方神(タケミナカタノカミ)本人も子供っぽい性格をしているのかもしれない。

「だけど当然、そんなことを大っぴらに行えば、約束を交わした建御雷神(タケミカズチノカミ)に見つかってこっぴどく叱られてしまうから、“秋宮”という存在を表に出さないように、隠し名を用意したんじゃないかしら」

 本当にそれ、バレたらこっぴどく叱られるで済むのだろうか……

「秋永家の話はこれくらいにして、最後は護摩堂家じゃな」

 思うことは色々あるが、遊人さんが話を先に進める。

「“護摩堂”というのはアキラ君が話していたように屋号でな。本来は護摩焚きを行い、護摩を修するための堂宇を指す」

「ちょっと待って。護摩焚きって、神社の神事じゃ無いでしょ?お寺の行事を行う奴が、なんで他の三家の信仰する神様と繋がるのよ?」

 遊人さんの説明に、美波が疑問を呈す。

「確かに護摩焚きというのは、主に仏教の密教系の宗派でよく行われる儀式です。神道ではありません。
 しかし、僕の家系に関しては、確かに大神家の信仰する大国主神(オオクニヌシノカミ)と深い関りが有るんです」

 美波の言葉に答えたのはアキラだった。しかし、僕は神社とお寺の違いもよく分からないので、話に付いていけない(割と初めの方から付いていけてないけれど……)。

「というのも、僕の家系で代々行ってきたのは“大黒天護摩(ダイコクテンゴマ)”、真言は『オン マカキャラヤ ソワカ』その名の通り大黒天にちなんだ護摩焚き法要です」

 大黒様って、七福神の…?やっぱり仏様じゃなくて神様を信仰しているという事なのだろうか?

「元々ヒンドゥー教のシヴァ神が仏教に取り入れられたという経緯を持つ大黒天(ダイコクテン)は、その名を“大国”(ダイコク=オオクニ)と表記することで、大国主神(オオクニヌシノカミ)に通じると言われています。実際、仏教が日本に伝来した時に大国主神(オオクニヌシノカミ)と習合することで、民間に広く知れ渡りました。大黒様の像がよく大きな袋を持っているのは、大国主神(オオクニヌシノカミ)の因幡の白兎の伝承によるところだとも言われているんですよ。
 つまり、大黒天もまた大国主神(オオクニヌシノカミ)と同一存在である訳ですね」

「ふーん、そうなの」

 詳しく説明するアキラにドライな反応をする美波、アキラのせいで名前呼びされることになったのを根に持っているのかもしれない。

「大正時代当時はまだ神仏分離も明確では無かったしの。どの道、学園の運営において、可能性は低くともキリスト教と八百万の神々の習合も望んでおった為に、密教という別の道からの補助も、キリスト教と仲良くするために協力が欲しかったんじゃ」

「成程ね、確かにどの家系も国津神として繋がりがあるのは確かで、だからこそ学園創立に関わっていた訳なのね」

 なんだか色々な神様の名前が出てきてややこしいが、一旦纏めてみると、

・大神家
祀る対象:大物主神(オオモノヌシノカミ)
大国主神(オオクニヌシノカミ)の和魂(ニギミタマ)にして、同一の存在。

・甘瓜家
祀る対象:鳥鳴海神(トリナルミノカミ)
大国主神(オオクニヌシノカミ)の息子にして、その次代。

・秋永家
祀る対象:建御名方神(タケミナカタノカミ)
大国主神(オオクニヌシノカミ)の息子で、鳥鳴海神(トリナルミノカミ)とは腹違いの兄弟。

・護摩堂家
祀る対象:大黒天
大国主神(オオクニヌシノカミ)と同一の存在。仏教と神道が習合した存在。

 といったところだろうか。

「ここまで四家の関係が深い以上、甘瓜家だけをピックアップして八島家の末裔だなんて言うのは、確かに不自然ね。
 なにせ、神話上、鳥鳴海神(トリナルミノカミ)の祖父が八島牟遅能神(ヤシマムジノカミ)だっていうのなら、父親の大国主神(オオクニヌシノカミ)、つまり大神家も八島家の末裔だという事になる。
 そこを無視するのは流石に不自然だもの」

「その通り。だからこそ、この八島の話というのは信憑性が薄い。
 そして、まるでその情報を知らぬ様な話の進め方をする、1周目のワシとやらも、当然偽物の可能性が高い」

「でも、その場には俺もいたんだろ?孫で一緒に住んでる俺にもバレない偽物なんて、どうやって用意したんだよ?」

「魔夜中って、いつも夜なんだから暗くて見にくいからね。それに、わざわざ遊輔君が戦闘後の消耗したタイミングでの登場だったんでしょ?ある程度は誤魔化しが効くんじゃ無いかな」

「そんなもんかなぁ」

 結局のところ、八島は訳の分からない嘘をついていただけという事なのだろうか。

「それで、キリスト教系の学校として発案された学園に、日本の神様が祀られていたっていうのは、どういう経緯だったんですか?」

 アキラが遊人さんに質問する。

「事の次第は、まさに応徳学園の創立当時に遡る。

 学園の発案者であるロビン・ウィルソンは、キリスト教の宣教者であることはもう話に上がったな。大神遊山はその教えに関心し、その教えを次世代を担う子供たちに広めることを善しとした。
 実際、当時の日本は欧米諸国に追いつこうと奔走していた、富国強兵の時代であった背景もあり、その教えが我が国のためになりうると考えていたのは間違いない。遊輔がさっき言っておった『都市伝説』の通りじゃな。

 しかし、この土地にも、昔から続く“信仰”というものがあった。此処は神々が住み、守護されてきた場所であったんじゃ。

 そこで、大神遊山は『キリスト教の教えはあくまで学問である』と考え、表向きはキリスト教系の学校のようでありながら、裏では学園の守護神として、古くからこの地でも信仰されており、自信もまた後裔である日本の神、大国主神(オオクニヌシノカミ)を祀っておった。

 おそらく、表面上は先進国イギリスの、英国国教会に基づく教えを学べる学校ではあったが、それは方便であり、その場所はあくまでも我が国日本の為の学校だと、いずれはお互い歩み寄り習合するだろうと、土地神を説得したのじゃろう」

「なによその勝手な解釈。そんなの、八百万の神はともかく、キリスト教側は絶対反対するでしょ?あっちは神様は一人だけっていうのが、基本中の基本なんだから」

「その通りじゃ。その事に対して、大神遊山はキリスト教というものを全く理解しておらんかったんじゃろうなぁ。

 森羅万象の考えが根付いておった為に、隣の土地にも神様が座(おわ)すのと同じように、あろう事かキリストという存在も、他国の神様の一柱として考えておったんじゃ。或いは、儒教のような学問だと捉えておったのかも知れん。
 だからこそ、イエス・キリストの事も尊重し、その教えに関心こそすれ、唯一神という概念を全く理解は出来ておらんかった。

 むしろ、裏表の協力関係が築けるのでは無いかと、本気で考えておったんじゃ。

 その結果、ヘンリー・ウィルソンと諍(いさか)いが起こり、その果てに、両者とも悪魔による呪いが掛けられてしまったという訳じゃ」

 何だか、こうなって来ると大神遊山が悪い様な気がしてくる。自業自得というか、ある意味原罪というか……

「でも、これだとウィルソン家の方も呪われる理由がよくわからないな。アイツらの肩を持つ訳じゃ無いけど、何というか、その宣教師も、つまりは騙されてたんだろ?」

「そうじゃな。ワシも先代から人づてに聞いたに過ぎんから、もしかしたら何か他の事情もあったのかも知れん。

 しかし、悪魔を呼び出したのがヘンリー・ウィルソンなのだとしたら、ウィルソン家が受けたのは“呪い”では無い可能性もある」

「呪いじゃ無いって…、それじゃあ僕が1周目の世界でアキラや聖良さんから聞いた話さえ、嘘だったって事?」

「いや、そうでは無い。おそらく表面的にみると、ワシらに掛けられた呪いと同じように見えるじゃろうからな」

「えっと、つまりどういう事だよ?」

「さっきも言った通り、ウィルソン家が悪魔を呼び出したのだとしたのなら、その悪魔に対し、ワシらに呪いを与えるように、或いはそれに類する“願い”を口にしたのではないかと思ってな。だとするのなら、悪魔からすればその“願い”は“契約”だと言える。そして悪魔との契約には“代償”を払わねばならない。もしも代々続く呪いを掛ける事が契約であったのならば、その代償も、等しく自身も呪いを代々受けることである可能性は十分にある」

「“人を呪わば穴二つ”って訳か……
 だとしたら、八島もウィルソン家に恨まれていたのか?」

「そのような情報は聞いたことがないな。むしろ当時の八島家の者はヘンリー・ウィルソンをとても良く慕っていたと言う。
 だとするのなら、その代償を少しでも軽減するよう、八島家は代償の一部を引き受けたのかもしれん。四家を呪うのなら当然、その四家分の呪いをウィルソン家が一身に支払う事となるからの。それが自ら進んでなのか、ヘンリー・ウィルソンに無理やり巻き込まれたのかは知らんがな」

「成程。それなら一番重い呪いを受けているのはウィルソン家という事なのですね。その呪いが重いからこそ、報いを受け続けているロビン・ウィルソンは我ら四家の事が益々憎らしいのですね」

「呪いの重さでいうのなら、実のところ我ら四家の中では大神家が一番重いのう。一番恨まれているのだから当然と言えば当然じゃが」

「僕らが受けた呪いというのにも、重い軽いがあるんですね。確かに、僕は呪いなんて実感したこと無いかも……」

「しかし全く影響が無いという筈ではないぞ。例えば、死神の呪いを受けた秋永家は、死と関りのある存在と縁を持ちやすく、替わりに普通の生きとし生ける存在から遠巻きにされ易くなる」

「じゃあ九十九がクラスでボッチなのは呪いのせいか」

(うぐッ……べ、別にボッチって訳じゃあ……)

 遊輔からの心無い言葉にダメージを受けたが、死に関りを持つ存在と縁を持ちやすくなるという言葉に、ザンベト様の影が頭をよぎる。西アフリカのベナンの地で、ブードゥー教死者の祭りに現れる神様であるザンベト様が、僕のことをじっと見つめていたのも、偶然だという訳ではないのかもしれない。

「甘瓜家の場合は、アルプ鳥の呪いが掛けられておるが、この鳥は女性に悪夢を見せる悪魔として話が伝わっておる。そのため、甘瓜家の女性は誰よりも悪夢と縁深い。魔夜中に取り込まれやすいというのもあるが、恐らくこの町に越す前から様々な悪夢に悩まされているのでは無いかの」

 美波を見る。彼女は黙りこくったままで、肯定も否定もしない。だけれど確かに、魔夜中に関する悪夢の記憶を僕に問いかけたのは美波であり、僕が思い出すより前から、あの旧校舎の悪夢に悩まされていた可能性が高い。一体いつから、彼女は魔夜中に苛まれていたのだろう。

「そして吸血鬼の呪いが掛けられた護摩堂家じゃが、ある意味この家系が一番不利益を被っておるかもしれん。というのも、吸血鬼の弱点である流水や日光、炎が身体に悪影響を与える。これは自身で起こした炎でも影響を受けてしまうために、護摩焚きを廃業せざるを得なくなってしまった」

「まあ、今ではそれで良かったかもしれませんけどね。時代の流れからして遅かれ早かれだったでしょうから。確かに晴れの日に強力な日焼け止めクリームを付けないとチクチクするのは不便ですが、今の稼業である医者としての仕事には影響はありませんから。代々祀ってきた大黒天=大国主神(オオクニヌシノカミ)が薬学や医学の神であるのが幸いでした」

 アキラはそう言っているが、日光や炎から悪影響を受けるのに、生活が不都合な訳がない。きっと、今まで相当な苦労をして来たのではないだろうか。

「皆、それぞれ苦労しているんだな……」

 遊輔が呟く。僕だけは無自覚の内に影響を受けていたのだけれど、ずっと呪いがコンプレックスで、その瞳の色に悩まされていた遊輔にとって、同じ境遇にいる人間がこんなにもいることを知れて、ショックを受けつつもどこか心強さを抱いているのかもしれない。

§

返信

11話-4について

一言で言うと、情報整理に見せかけた情報過多回です。
また、遊輔目線で描くにあたり、遊輔のメンタルケアまでしなきゃだった為、文字数が多くなり過ぎております(この部分だけで怖話の投稿で32分換算)

ここでやっとアキラが登場し、2周目の2日目にしてメイン達の中で情報共有がなされます。

1周目と違い遊輔の疑心暗鬼レベルが高い上に、緊急事態でも無かった為、メイン4人を仲良くさせる為に美波が少しだけ精神的追い詰められますが、これはしょうがないですね……

返信

魅惑の旧校舎 11話-4

「な…っ、気水先生と……生徒会長!?」

 家に通され客間に入ってきたのは、応徳学園の教師であるものの、担当科目の国語の授業くらいでしか関りのない気水先生と、後期生徒会に新しく会長として就任したばかりの、護摩堂アキラだった。

「はいっと。俺です。生徒会長の護摩堂アキラです。こんにちは」

 待て待て待て。美波ちゃんと秋永はクラスメイト同士だからまだ分かる。いや急に出て来られて不自然は不自然なんだけど。

 でも別に担任でも無い気水先生と、学年は同じだがクラスも立場も違い過ぎる生徒会長のペアは一体何だ?
 この2人の関わりも、じいちゃんとの関わりも見えない。

 …えっと何だ?4人共不登校の生徒を学校に呼び戻しに……いや担任さえ来ていないのに、それは無理があるだろう。

 そもそも、よく考えたら、なんでみんな俺ん家の場所を知ってるんだ?遂に俺の家の住所がネット上に晒されたのか?

 ああくそ、駄目だ。どんどん分からなくなって来る。

 決して広い訳じゃ無い客間の中で、生徒会長は机の向こう、秋永の隣に、気水先生は俺の隣に座った。

 俺から見て、テーブルの向こうには右から順に美波ちゃん、秋永、生徒会長が座っていて、こっち側には、俺を挟んで右にじいちゃん、左に気水先生が座っている。
 こんな部屋に6人も集まっているなんて、流石に密じゃないか……?

「護摩堂君。どうして、ここに?」

 生徒会長がここに来るのは知らなかったのか、秋永が質問を投げかける。しかし、ここに生徒会長が来ることにどこか納得があるというか、まるである程度の心当たりがあるかの様子だ。

「おやおや、それは、こっちが聞きたいですよ。どうしたんですか。突然気水先生に連れて来られたと思ったら、あの我らが学園の創始者一家の大神家に、謎の美少女転校生 甘瓜さんと、イケメンなのにクラス一のヘタレ陰キャラ秋永君が待っているなんて。

 確か、大神遊輔君と君達二人は一緒のクラスでしたが、学校へ登校するように説得でも?いや、それにしてはタイミングがいまさら過ぎかな。

 ……なんて、まあ、粗方の事情はここへ来るまでの道中に聞かせて貰いました。学園に流れる『都市伝説』についての話でしょう?
 実は俺も秘密裏に調査していたからね。生徒会長として…というより、護摩堂家の人間として、ね」

 生徒会長が饒舌に喋る。都市伝説…って、もしかしてSNSで囁かれてたアレか?夏あたりに、ウチの学園の旧校舎に纏わる都市伝説があるだのなんだのオカルト部の誰かがリツイートしてた。
 確か、あの時は元のツイ主がどこの誰とも知れない奴だったから、夏場の怪談ムードに乗じた誰かの創作話だろうって話だった。

「都市伝説?そう言えば秋永君も言ってたけど、何よそれ?」

 美波ちゃんが口をはさむ。彼女は9月も後半に入ってから転入してきたから、知らなくて当然だろう。

「ああ、そう言えば甘瓜さんは知らない話だったね。僕も詳しくは知らないんだけど」

「SNSで結構流行った話さ。それこそ生徒たちの夏場の一番の話題だったね。最も、その後後期が始まって謎の美少女転校生が話題を全部搔っ攫っちゃったけど」

「ふーん。スマホもってないから知らないわね。で?どんな内容なのよ」

「それはそこの大神君…いや遊輔君と呼ばせてもらうよ。君の方が詳しいんじゃないかな」

 この場にはじいちゃんも居るから、苗字で呼ぶのはややこしいんだろう。だが、それより……

「っておい、急に話をこっちに振るなよ生徒会長!」

「遊輔君、生徒会長は辞めよう。アキラでいいよ。
 
 でも君の方が詳しいのはその通りじゃないかな。なにせオカルト部の部長だし、大神家だし」

 初対面で色々図々しいなこいつ。
そう思いつつアキラを睨むと、奴は変に期待した様な目で俺を見てきた。周りを見やると美波ちゃんや秋永まで同じようで眼差しを向けており、アキラの物言いには納得行かないが、美波ちゃんの為にも渋々俺は話し始めた。

「いや俺も夏休み中は本来なら活動のない部活だったから、自分の目で検証した部分は少ないけど……」

おずおずと喋りだした俺を、この場の全員が注目している。その視線に悪意が無いことは分かっていたが、ここ最近の周りへの不信で、ひどく居心地が悪い。

「そもそも、旧校舎の噂って言ったら、有名なのが二つある。
 一つ目は、俺が入学した時には既にあった『旧校舎で死んだ人間と会える』というもの。
 実際にはいつから言われていたものかは分からないが、ホラー系の噂ってよりか、感動系の噂というか、ある種の伝説?じみた話だって聞いている。なんでも、オカルト部が発足したのも、その都市伝説あっての事だって過去の活動記録にあった気が……

 でも、そこの生徒会長…アキラが言ってるのは、もっと新しい方…二つ目の噂話だろ?」

 俺の問い掛けにアキラが答える。

「ああ。そうだね。最も、僕は一つ目の話ともリンクしているんじゃないかと思っているけれど」

 なんだか含みがあるような言い方が気になるが、後回しにすることにした。まあ黙ってても後から喋ってきそうではあるし。

「そう、二つ目の新しい都市伝説……
 確か、ことの発端は夏休みの中頃だった。  
 twitterで“Oct”とか言うアカウント名の奴が、この学校の新しい都市伝説について連投したのが始まりだった。

 俺の記憶が正しければ、『凰徳学園の旧校舎は呪われた場所である』そんな言葉で始まっていたと思う」

 謎に集まったメンツの前で、俺は当時の記憶を手繰り寄せていた。
 そう、あれは二学期が始まる前の出来事で、俺自身の知名度が変に上がった原因でもある。思えば、今こんなにも俺の存在がネタにされるのも、あそこで俺の名前…というか苗字が、凰徳学園の生徒に浸透したせいだっていうのもあるのかもしれない……
 そんなことを思いつつ、俺は言葉を続ける。

「その投稿曰く『あの旧校舎は呪われているから、取り壊されない。もし取り壊そうとしても、必ず何かしらの事故が起こり、取り壊す事が出来ない。その呪いを鎮める為に学園の敷地内に礼拝堂と英国人墓地が建立された』ということだった。

 俺の憶えている限りの文面をそのまま再現すると……

『応徳学園の創始者は大神遊山だとされているが、それは事実であり、しかし真実の全てでは無い。応徳学園の創始者は1人では無いからだ。

 元々応徳学院は、イギリスの宣教師ヘンリー・ウィルソンが、いまだ文明の遅れていた日本に『英国で学ばれている最新の学問を推進するため私学校を建てたい』という思いの下、当時この地でもっとも力を持っていた大神家の協力で建てられた。
 計画段階では学園の名前は応光学院であり、キリスト教の色が強かった。大神家の当主である大神遊山は、ヘンリー・ウィルソンに全面的に協力的であり、この英国国教会に基づく教育方針についても賛同していた。

 しかし、校舎が建設され、学校名を決定する段階まで進んだ時、突如宣教師ヘンリー・ウィルソンが、大神家とその協力者によって日本から追い出される。なぜ追い出されたのか理由は不明であるが、このタイミングで学園の名称が応徳学園に変更され、基本的な運営も大神遊山が担うようになった。また、英国の最先端の学問やロンドン塔を模した時計塔など校舎は残り、実質的に大神家と協力者のものとなった。

 発案者であり真の創始者とも言えるヘンリー・ウィルソンは、日本を離れたのち、数年後に祖国で他界した。

 それでもヘンリー・ウィルソンの想いや思念は遠い日本の地に留まり、学園そのものに憑りついている。それが呪いとなり、レンガ造りの校舎は当時から神隠しが起こるとも、怪物が潜んでいるとも噂されている。
 失意の中死亡した彼の思念は、当然自らを陥れた者達への恨みも含んでおり、それにより大神家始め学園創立の関係者四家は家系ごと呪われている。大神遊山の息子遊人が学園の経営を引き継がなかったのもそのためである』

 ……大まかにはこんな内容だ」

 思いの外言葉が出てきたのは、ここ最近の生活に記憶の容量を使うことが無かった為なのかもしれない。話せば話すほど記憶はすらすらと思い返されるようで、秋永や美波ちゃんは、意外な程真剣に俺の話を聞いている。気水先生やじいちゃんも黙って聞きに徹していて、何やら考えを巡らせているようだった。

「その話って、みんな知ってる話なの?」

 美波ちゃんが俺に質問する。先ほどから急に話しかけらる度に俺はドキッとしているが、平静を装って返答する。

「大体は知っていると思う。うちの高校の生徒の間では結構バズっていたから。
ローカルな流行りとして、SNSをやっている生徒なら原文は知らなくても、旧校舎が呪われているって噂くらいは聞いているんじゃないかな」

「ふーん、でも秋永君は旧校舎の噂には全然詳しくなかったわよね」

 美波ちゃんが、今度は秋永に話を振る。

「あー…実は僕、SNSがちょっと怖くてあんまりやってないんだ。以前変な人に絡まれてね……」

「九十九君は顔がいいからね、ちょっと顔を出せば一目惚れした不特定多数から熱烈なアプローチがあったのかもね。美波さんも気を付けた方がいいよ」

 秋永の言葉にアキラが割り込む。って、何こいつナチュラルに美波ちゃんの事を下の名前で呼んでんだっ!?

「馴れ馴れしく下の名前で呼ばないで、あなたの事“胡麻豆腐 飽きた”って呼ぶわよ」

「ははは…、それは勘弁だね。失礼したよ、甘瓜さん」

 わかりやすく不機嫌になる美波ちゃん。正直いい気味だが、俺も彼女のことを下の名前で呼んだら抗議の目を向けられるのだろうか。
 少し想像してしまい、背筋がうすら寒くなる。

 俺はそんな感覚を誤魔化すように再び話を続けた。

「それで話の続きなんだけど、このツイートがうちの高校の生徒の間でバズって、あの封鎖された旧校舎に対しての噂話や体験談をみんなSNSで出し合っていた。まあ、夏場の季節的な怪談の盛り上がりもあったし、長期休暇でいつもより暇だった奴らの悪ノリも相乗していたようだろうけど……

 例えば、昔この学園で女学生が飛び降り自殺をしたと聞いたことがあるって言いだす奴がいたり、真夜中の旧校舎の窓に大鎌を持った死神みたいな影がいたのを先輩が見たらしいとか、ブロンドヘアーの欧風な女幽霊が彷徨っている噂があるとか、あとは獣の呻き声を聞いたとかもあったな。

 うちの学園の生徒手帳には、校則や学内組織の他に、創立からの歴史が箇条書きで書かれている。それによれば、確かに創立者は大神遊山とあるし、礼拝堂が完成したのは、学園創立の数年後だともある。英国人墓地も、ここ10数年前に造られたと記載されている。
 開校前の事は書かれていないからか、ヘンリー・ウィルソンという名前はどこにもなかったが、現校長のロビン・ウィルソンはイギリス人って話だし、その親族なんじゃないかって噂というか考察は結構あったな。
 変な歪んだ白い仮面を着けているし、10年前くらいに急に着任したって話だし、あからさまに怪しいよなってことだろう。どちらかというと、英国人の怨霊をでっち上げるのに、校長がそれっぽかったからウィルソンの名前を使ったって感じなのかもしれないがな」

「へぇ、遊輔君はこの話がでっち上げだって思ってるの?」

 オカルト研究部なのに?と意外そうにアキラが聞いてくる。

「まあな。どっちかっていうと、よく作りこまれた創作話だと思う。
 俺も自分のご先祖様が学園の創始者っていうのは聞かされていたから、最初はマジだと思ったし、オカルト研究部でも大盛り上がりだったよ。だから検証できるものは各々で確かめたんだ。
 でもその結果、これは一部の事実を核に作られた、巧妙な作り話なんじゃないかって可能性が浮上してきたんだ。
 
 先ずオカルト部のフットワークの軽いやつが、市の図書館で過去の地方新聞を遡って、旧校舎で自殺した女子生徒がいるか調べてな。確かに飛び降りをした女子生徒は10年前にいたそうだが、その新聞では死亡ではなく重体としか書かれていなかったそうだ。
 だが、同じ日の別の出版社の新聞には死亡と書かれていて、結局どっちか判然としなかった。他の部員は怪我の果てに亡くなってしまったなんじゃないかって言ってたが、実際に調べた奴と俺は、なんとなくそうじゃないような気がして、なんか悶々とするんだよな。なんというか、複数の記事を見比べると、文面が急いで訂正されたみたいに不自然だったというか…いや分からんけど。

 SNSに張り付いていた奴は、最初の発信者の過去の発言を遡っていたんだが、この時の発言が初めての書き込みだったし、暫くもしないうちにアカウントごと消されていて、明らかな捨てアカだろうって話だった。

 派生して生まれた噂話の数々も、誰かの又聞きが多かったし、中には有名な都市伝説からパクった、明らかな創作話も散見されてた。旧校舎の七不思議とか、誰も内装を知らないのに何パターンも作られていたし、謎に学校内に天狗やテケテケにジャックオーランタンが出没するような、言いたい放題の無秩序さだった。
 その中でもまだ信憑性が高いというか、目撃件数が多いのがさっき『例えば』って言ったものなんだけど、やっぱりどれも又聞きだったし、獣の声に関してはおそらく近所の飼い犬の可能性が高い。おそらく、夜中に聞こえたらなんでも怖く感じるって奴だな。

 何よりも極み付けは、じいちゃんの年齢だ。
 凰徳学園が開校したのは140年前、対して俺のじいちゃんの歳はまだ70そこそこ、なのに創立者の息子だとするのは流石に無理がある。おそらく投稿者は、実在の人物と結びつけた方がリアリティがあるからと、大神遊山の息子を大神遊人と書いたのかもしれない。それか、単純に知ったかぶったか。

 いずれにしても、あの文章の信憑性は決して高くないってことになった。
 結局真実の部分は生徒手帳で確認できる部分のみで、つまり書こうと思えば、うちの生徒ならだれでも書けるってことだ。あの旧校舎や校長については、確かによく分からないことが多くて不気味だけど、それに乗じたいかにもそれっぽい創作だろうっていうのが俺の結論だ」

「なるほど…思った以上に詳しかったね。現実的な結論に至ったのは、むしろオカルト研究部だからこそって感じかな」

 アキラは顎に手を当て何やら考え込んでいるようだった。俺の真横に座るじいちゃんは分からないが、気水先生も似たような表情をしていた。

「オカルト部って、結構本格的に検証するんだね」

 感心したように秋永が言う。

「まあ、普段は各々好きに部室でくつろぐだけの部活だけどな。部員同士もバラバラで普段遊びするように仲が良い訳じゃないし、名前だけの部員もいるくらいだし……
 ただ、この調査内容は雑誌に纏めて文化祭で発表するつもりだったから、部の存続の為にも珍しく真面目に取り組んだって感じだよ。
 だから本当は夏休み明けてから更に本格的に調査をしようとしていたんだけど、部長の俺が学校に行かなくなったからな。今はどこまで進んだか……」

 俺が引きこもりに成り下がって一度も連絡を寄越さない部員たち。そう言えば俺が振られた日に「俺の事は放っておいて、それぞれ進めてくれ」って言って、部活もサボったのは自分だったと思い出した。

(そりゃあ、誰も連絡くれねーよな……)

 一人自分の過ちに気づいて反省していると、ふいに美波ちゃんが口を開いた。

§

「夢」

「…え?」

 唐突に、彼女はそう言う。

「“夢”についての話題はなかったの?その噂の中に」

「夢って、寝ている間に見るアレ…?」

「当り前じゃない。その旧校舎の話に悪夢についての話はなかった?」

 俺は困惑する。なんで、今の話の流れで“悪夢”なんてワードが出てくるんだ…?どうしてそんな話題が出るのかまるで分らないが、他の4人の顔を見ると皆食い入るようにこちらを見ている。黙ったまま向けられるその複数の視線が、なんだか怖い……

「夢……、えっと、元の投稿には夢なんて単語は無かったけど…確かに夢に旧校舎が出てきたって話はちらほら有った。確かに、思えばその夢は共通して悪夢だったと思う。悪夢じゃないと怖い話にならないから、SNSで語るにはそういう話題に偏っただけだと思うけど……」

「殺される夢を見たって話は?自分自身か、若しくは誰かが殺されるって夢を見た人はいるの?」

「こ、殺される夢…?いや、夢に旧校舎が出てきて窓に写る鬼火を見たとか、気が付いたら夢で旧校舎の校庭にいて、化け蜘蛛に校門の外まで追いかけられた、とかいう話はあったけど、殺されるなんて物騒な夢は無かったような……」

 旧校舎と悪夢…どうしてその話題が出てくるのだろう。都市伝説の話では確かに稀にしかなかった情報の筈だ……いや、だけど、その単語の羅列はまるで……

「あなたはどうなの?」

 不意に、美波ちゃんが声を掛けてくる。

「……俺…?」

「そう。あなたはそんな夢、見ていない?」

「俺は…そんな、人が死ぬような夢は……」

 見てる。…そう言葉が浮かんで、喉の奥が震えるのを感じた。声を出そうとすると心臓が早鐘を打ち、握った掌に汗が滲む。

何故だろう。ただの夢の話の筈なのに、この話を口に出してしまうと危険な扉を開いてしまうような気がしてしまう。だけれど、それと同時に言わなくちゃいけないという思いが突き抜け、俺の口は既に開かれていた。

「…見てる。それも、何度も、何度も……
 まるで現実のようにリアルな、気味の悪い夢……

 ああ。思い、出した…、気が付いたらあの旧校舎に居て、それも何故か夜中で、鳴るはずの無い時計塔の鐘が鳴り響いて、暫く校舎内を歩いていたら、女生徒の悲鳴が聞こえてくるんだ……
 そして、悲鳴の下へ駆けて行くと火の玉を纏う怪人が居て、死神みたいな大鎌を持って、ひしゃげたカボチャみたいな頭でこっちを睨んでくるんだ……」

自分が語る言葉で、堰を切ったように思い出していく。夢の記憶にしてはえらくはっきりと、それこそ本当に、堅い扉が開いてしまったかのようだった。

(……あれ?“鬼火”?“鎌”?“ジャックオーランタン”?
 そうか…、もしかしてあのめちゃくちゃな怪奇現象の羅列は、あの怪物の特徴を切り取ったもの、だったのか…?)

言語化しながら巡る思考が、そんな可能性を見出していた。が、そのグルグルとした思考の渦に、頭の中がグラグラと揺れて船酔いの様な感じがする。
 押し寄せてくる夢の記憶や感覚、とてもリアルで、まるで現実のような、冷たいレンガ…ひしゃげた頭…耳をつんざく悲鳴に……血の臭い…………

 間欠泉のように噴き出す鮮明過ぎる記憶の数々に、思わず吐き気が込み上げてくる。なるほどこれは…記憶の扉というよりも、パンドラの箱だ。

「やっぱり、あんたもあの夢を繰り返し見ていたのね。
 それで?その夢の事を思い出して、それでもまだその都市伝説とやらは嘘だとおもう?」

「あ…ああ。その……呪いはともかく、怪物は本当……いや、むしろ怪物や女生徒の霊の原因がもしかして呪い……なのか?」

 俺は頭がグラグラとするだけで無く、口から心臓が飛び出そうな程緊張していた。美波ちゃんが俺の瞳をじっと見ているからだ。
ただでさえ美波ちゃんの魅惑的な香りがこんなにも近いのに、その鳶色の瞳も硝子玉のように美しくて、熱に浮かされて飛んで行ってしまいそうだった。前髪が無ければ即死だったに違いない。

とても直視出来ず、前髪の下で視線を泳がして逃げる。すると、俺はふとある事に気がついた。

「あれ……?おい、もしかして『あなたも』っていうことは、まさか“美波ちゃん”も、俺と同じ悪夢を見ていたのか!?」

思わず声が上擦ってしまう。あの夢の中で、俺は美波ちゃんと2人っきり(怪人は除く)だったってことなのか!???

俺は期待の目で彼女の方を見やる。
しかし美波ちゃんは、抗議の色をした冷たい目をしていた。猛獣の牙よりも尖った視線、あれは、ついさっきも見た視線だ。

「あっ…えと、俺以外に“甘瓜さん”も同じ悪夢を見ていたって事…、なので御座いますでしょうか……」

クソぉっ、目の前でアキラがしでかした事をまんまと繰り返しちまった……
 しかもなんで敬語になっちまうんだ!俺のチキン!コミュ少!前髪陰キャ!

 ダラダラと嫌な汗が額を伝う、美波ちゃんがアキラの時みたいにわざわざ言葉にしないあたり、「何度も同じ事を言わせるな」と思っているのかも知れない。

 俺の問い直しに重い沈黙で返す美波ちゃんの圧に、空気が悪くなるのを感じたのか、慌てたように秋永が間に入って返答する。

「あ、ああ…実はね、これは、遊輔君にも聞いてほしいんだけど。
 僕と甘瓜さんは、以前から悪夢に悩まされているんだ。それも、かなりリアルで気持ちの悪い、下手すりゃ命まで奪われそうな夢なんだ」

(っておいッ!オメーもあの夢の中に居たのかよおおぉぉッ!!!)

 全っ然二人っきりじゃ無かったじゃん!何これ、めっちゃ恥ずかしいんですけど!!?

 俺が前髪の下で動揺しているのも気付かず、秋永は続ける。

「そこで見たものは、それこそ、さっき話してくれた、学園の『都市伝説』どおりなんだけど、ハロウィンのジャック・オー・ランタンのような頭をしている。

 南瓜のように見えるのは、頭部がゆがんでいるからだと思う。黒いマントを羽織っていて、大きな鎌を持った大男なんだ。男はブーツのようなものを履いているのか、コツコツと音をさせてやってくる。そいつの周りには、火の玉のようなものが飛び交い、禍々しいまでの紅蓮の炎が大きな鎌にまとわりついている。
 挙げ句、その男の背後には、そいつになぶり殺しにされたかのような血を流した制服姿の女生徒の死体が宙に浮いたように漂っているんだ」

 まるで何度も同じ説明をしたのかと思うほど詳細に、秋永は語る。その内容は確実に俺が見た内容と被っており、同一の夢を見ていたであろう事は疑いようが無かった。

「その場面は、日によって少し違っているの。私が見た女の子は、引きずられていたわ。そして、ジャック・オー・ランタンが持って歩いている女生徒は、あなたの言う10年前に投身自殺を計った少女で間違いないわ。

 その子は、何度もここの夢を見る学園生の前で、殺され続けているの。叫び声を上げ続けて。」

 補足的に美波ちゃんも口を開く、アキラもその内容に頷いており、気水先生は思い出したく無いかのように顔を顰(しか)めている。
 まるで、2人も同じ夢を見ているかのような反応だった。
 ひょっとして、今日ここに集められたメンバーは、あの悪夢を見た人達って事…なのだろうか。

「気水先生とアキラも、同じ夢を見ているのか?」

 俺の質問に、2人が答える。

「私の場合は、夢を見たと言うのとは少し違うわ。不可抗力であの悪夢の空間に迷い込んだの。そこの甘瓜さんや秋永君たちとね」

「僕は君たちと同じように、夢の中であの旧校舎に訪れている。だけど悲鳴が聞こえた地点で身を隠して行動をしていたから、怪人や殺された女子生徒の情報はあまりないかな」

「おいおいなんだよ、生徒会長のくせに逃げてたのかよ」

「君もあの夢を見たのならわかるだろう?あれはただの夢じゃない。僕はむしろ、どうしてあんな不気味な場所で、自らの身を危険に晒す行動がとれるのか理解に苦しむね」

「なんだと?!」

「まあまあ、アキラの言う事は一理あるよ。あの場所は本当に危険な場所なんだ。実際、甘瓜さんは向こうで付けられた傷が現実世界にも残ってる」

「なっ…!そうなのか…?」

「私もあの怪人に襲われてるの。あの女生徒と同じように。これを見て。鎌で傷つけられた跡よ」

「ちょっと甘瓜さん。私は兎も角、ここにいる他の方は皆男ですよ。嫁入り前の女性が気軽に肌を見せてはいけません」

「ほう、甘瓜さん、いい香りがしますね。これは、ロイヤルファミリー御用達と同じ銘柄の香水?」

「なにするんだよ。生徒会長には、そんな権限ないぞ。」

 俺は飛んで中に入る。こっちは正直ガン見しそうになったが咄嗟に顔を逸らしたっていうのに、何匂い嗅いでんだよこの野郎!

「大丈夫ですよ、甘瓜さんの白い柔肌は見ていません。僕が見ていたのは、傷口です。ミミズ腫れになっていますが、これは、一度や二度の傷ではありませんね。甘瓜さん、あなた、何度も殺されかかっているでしょう。」

「どうして、そんなことまで分かるの」

「はい。一応、東大の医学部志望ですから。見立てがいいのは遺伝です。我が家の家系は、明治以降、ある事件をきっかけに、祈祷師家業を廃業し、医者に鞍替えしたんです。親戚一同、医者の家系です。科学的治療のほうが安定した収入を見込めるし、持っている能力はそっちに使ったほうが絶対いい。

 だからあの旧校舎でも、廊下に広がる血の量であの女生徒は手遅れだと直ぐにわかりました。僕はそれ以上に被害を増やすまいと行動していただけです」

「あーもう分かったよ。
 結局のところ、つまりはここに集められたメンバーは皆、あの旧校舎の悪夢を見ていて、その悪夢と都市伝説が関係しているって事なのか?」
 
 ここでずっと黙っていたじいちゃんが声を発した。

「うむ。あの悪夢を見た者達、というのはまあそうなんじゃが、少しばかり正確ではないの」

「え?それじゃあどういうことだよ、じいちゃん?」

「先の都市伝説の当事者が僕ら、ということですか?」

「そうじゃな。それと、今回のこの会談の目的は、互いの持つ情報の共有と整理じゃ。遊輔とアキラ君は知らんかもしれんが、実は昨日大きく事態が動いてな。明治時代に起きた事件から続く因縁が、このタイミングで我々に牙をむくかもしれん。

「明治の事件って、さっきアキラが言ってた奴の事か…?」

遊輔が怪訝そうな顔で聞く。

「その通りじゃ。ちなみにこの事件について、君は護摩堂家から何か聞いているかの?」

「いえ、護摩堂家の人間から聞いた話はありません。
 そもそも、僕が代々祈祷師を生業にしていたという我が家の歴史に興味をもち、両親や祖父母に訊いてみても、はぐらかされて全く話してくれませんでした」

「ですが、両親や奉公人の目をかいくぐり、邸内にある開かずの蔵に侵入し、そこを隅から隅まで自身で調査して、そしてある文書を見つけたんです」

「その文書には、明治時代、鳳徳学園設立に伴い護摩堂家、並びに大神家に起きた陰惨な事件が起きた事、そしてその際、悪魔によって醜い呪いが掛けられた事が記されていました」

「事の発端は、学園の教育に対する利害が互いに違っていたということ。それを強引に変えようとしてウィルソン家と大神家が衝突。両家は、この件で呪われた家系になってしまった。

 先程のネット上の都市伝説と一致する話なので、その都市伝説含め信憑性があるのではないかと思います。あくまでも、推測ですが」

「呪いって、具体的にはどういう事が書かれていたの?」

訊ねたのは九十九だった。

「具体的にと言われると、少々難しい。何せ紙の劣化が激しくて、肝心のところでページが破けていたり、字が掠れていたりで、恐らくあの蔵から今回の件に関して得られた情報は5割にも満たないでしょう。もしくはそれ以下か…」

「じゃあ、今話した事がアキラ君の知っている全てだったの?」

「いや、それだけじゃない。蔵の中にあったのは文書だけではなく、4本の掛け軸があったんだ」

「4本の掛け軸?」

「それぞれ狼、蝙蝠、鳳凰、死神が描かれた4本の掛け軸。文書を全て読み解いた上で推察するに、狼は大神家の事を指し、蝙蝠は護摩堂家を指す。だが問題は残りの2つだ。都市伝説でも呪いを受けたのは大神家とその協力者である四家とある。掛け軸の数と同じ、大神家を含めた四家」

 俺たちに向けて説明していたアキラが、今度はじいちゃんに向き直る。

「今日ここに呼ばれて来てみて、僕はおやと思ったんです。特に、甘瓜さんがいる事にね。
 だからこそ、ひょっとして、今日集められたメンバーはその呪いを受けた四家なのではないのかと思ったんです。

 実は、応徳学園の生徒会長は、校長やあの秘書の様な存在の八島に直接会える立場に在るんです。時々、ドア越しに彼らの会話が聞こえるのですが、「大神」「甘瓜」という名前が頻繁に聞かれるんです。

 その為、大神家と関係が疑われる甘瓜家が、その呪いを受けた四家のひとつではないかとアタリをつけていました。

 そして残り一家、気水先生は代々大神家に仕えていると、ここに来る道中聞きました。しかし、先生は呪いは受けていない、という事も確認済みです。

 となれば、わざわざこの場に呼ばれたもう1人、秋永九十九君が、最後の一家の人間であるという可能性はとても高い」

「甘瓜家と秋永家のどちらが鳳凰で、どちらが死神の呪いを受けたのかまではわかりませんが、推測も含めて、“学園創立時にウィルソン家と大神家で教育方針について揉めた事”、“それによって悪魔から呪いを受けた事”、“おそらく呪いを受けたのは「大神家」「護摩堂家」「甘瓜家」そして「秋永家」である事”というのが僕の情報と考察です」

「ほう…そこまで分かっているとは、大したものじゃ。流石は秀才護摩堂家といったところかの」

「い、いや待てよ!」

「どうしたんだい、遊輔君」

「お前の蔵の情報は兎も角、その考察は“あの都市伝説が正しかったとして”って言う前提があってのものだろう?
 じいちゃんの年齢が合わないという明らかな矛盾点がある限り、あの噂を事実だと断定するのは間違っているんじゃないか?」

「それは、実在の人物と結びつけた方がリアリティがあるからと、ツイ主がわざとその名前を出したんじゃ無いかと君が言ったじゃないか」

「いやいや、他の情報は全部正確なものを出しておいて、そこだけが偽情報だなんて、説得力を出したいのか出したくないのか訳分かんないだろ」

 俺の突っ込みにアキラは閉口するが、「ふむ…」とじいちゃんが間に入る。

「遊輔、お主何か勘違いをしておらぬか」

「え、勘違いって何をだよじいちゃん?」

「まず、わしの名前はなんじゃ?」

「…?、大神 遊人(おおがみ ゆうじん)だろ?」

「そうじゃな。では、わしの父親の名前は知っておるか?」

「え、えっと、大神 ゆう…なんとかだと思うんだけど……」

「うむ。わしにとっての父、お前にとっての曾祖父の名は“大神 ゆうだい”と言う。遊ぶという字に大きいと書いて“遊大(ゆうだい)”じゃ。戦争真っ只中の時期に長男として家督を継いでおる。遊戯が産まれる前に癌で亡くなっておるから、顔も知らんと思うがな」

「じゃあやっぱり、俺の曾祖父は“大神 遊山(おおがみ ゆうざん)”じゃないから、都市伝説の信憑性も下がるんじゃないか!」

「まあそう早まるでない。では遊輔、その更に父親、わしから見た祖父にあたるのう。その者の名前は知っておるか?」

「えぇ…、いや分かんないって……」

「その者はな、“大神 ゆうと”と言って、先の話にあった大神遊山の息子にあたる。学園創立時には3歳であったそうじゃ」

「それがどうしたって言うんだよ?」

「ちょいとややこしいんじゃがな、この“ゆうと”という名前の漢字は、“遊ぶ”という字に“人”と書いて“遊人(ゆうと)”と読むのじゃ」

「えっ、なら遊人(ゆうじん)さんと、まるまる同じ漢字って事……?」

 秋永が驚きの声をあげる。

「つまりはそういう事になる。
 応徳学園創立からの140年で、大神家は、遊山(ゆうざん)→遊人(ゆうと)→遊大(ゆうだい)→遊人(ゆうじん)→遊平(ゆうへい)→遊輔(ゆうすけ)と代を重ねていったということじゃな」

「成る程。その話だと大神遊人(ゆうと)さんが産まれたのが学園創立の3年前、僕らと同い年の遊輔君が産まれたのが16〜7年前、その間の126〜7年間で4代分なら、平均約31歳の時に子を成したという事になる。この数字なら、そこまで不自然は無い……
 
 これで、都市伝説についての明確な矛盾は無くなったという事ですね」

 ドヤ顔でアキラが言った。
 そう言えば、親父が産まれた時、じいちゃんは割と高齢だったと聞いている。もしかしたら、遺伝する呪いとやらに関して、じいちゃんなりに思う所があったのかもしれない。
 
「御明察のとおり、ネット上で流布されたという都市伝説は真実じゃ。今日の内に気水に調べさせた時には、原文は見つからなかった為に確信は得られなんだが、わしが大神家で聞かされた呪いの話は、先ほど遊輔の話してくれた内容と合致する」

「そんな……」

「まあ遊輔にとっては、自覚の無い衝撃的な話じゃろうが…、しかしお前も、その呪いについては思い当たりがあろう」

「いや…そ、それは……」

 言い淀む俺に、じいちゃんは語りかける。

「アキラ君の言う通り、大神家は悪夢によって、狼にまつわる呪いを掛けられた。

 大神家の人間は元来、外見(そとみ)には、奥手で色気も素っ気もない女とは無縁の家系なんじゃがな。
 15歳を過ぎた辺りから、血が活性化し、犬のように鼻が効くようになる。
 そして、我を忘れ、理性を失う程に感情的になった時、その姿が人狼へと変貌するのじゃ。

 ……昨晩の、お前のようにな」

「じゃあやっぱり…、昨日俺の身体が変貌したのは、夢じゃ無かったのか……」

「それだけじゃ無い。お主は昨日、あの旧校舎で“魔夜中”を発現させた」

「“真夜中”…?夜を発現ってなんだよ?」

「“魔夜中”っていうのは、あの悪夢の中の世界の事だよ。魔の潜む夜中と書いて“魔夜中”、僕達はそう呼んでる」

 俺の問いかけに、秋永が答える。

「へえ、あの夢に名前なんてあったんだ」

 アキラもその名前は知らなかったのか、目を細めてそう言う。

「いや、っていうかどっちにしろ夢を発現ってどういう事だよ?」

「魔夜中というのは、正確には夢では無い。そこの甘瓜美波君が、現実の肉体で傷を残しているのを見て分かるようにな。
 どちらかと言うならば、異空間と言った方が正しいかの。基本的にこの空間には夢を通して入る事が出来る。そして、誰かを招き入れる事もな。
 じゃが。夢を介さずに侵入する方法もある。それが、魔夜中の空間を現実世界に発現するという方法じゃ。
 これはウィルソン家、そしてウィルソン家と共に呪いを受けた、八島家の能力だと言われておるな」

 主に夢を介して行ける異空間…。
 確か、部室にある蔵書の、クトゥルフ神話の設定集に似たような存在があったような気がする。えっと、うろ覚えだが“ドリームランド”って言っただろうか……
 だがしかし、

「校長と、なんか一緒に居る奴の能力…?だったら、俺は関係無いんじゃ?」

「いや、大いにある。
 遊輔、お前の母はお前を産んで直ぐに死んだという話は知っておるな。そして、その者がイギリス人であるという事も」

「う、うん……」

「しかしその名はずっと秘匿して来た。遊輔には悪いと思ったが、あまり縁を持たせたくなくてな」

 じいちゃんの表情が曇る。まるで口が鉛になったかのように鈍く、引き攣ったように顔が青い。

「遊輔の母の名は…、マリア・ウィルソンと言う。
 現応徳学園校長、ロビン・ウィルソンの実の娘じゃ……」

 校長の、娘……?

「えっ!?そうだったの!?」

 実感の無い俺に反し、驚愕のリアクションを取ったのは秋永だった。秋永ほどでは無いが、美波ちゃんとアキラも同じく衝撃を受けているようだった。

「呪われた血を薄めるため、遊輔の父、遊平には血縁の遠い異国人と縁(えにし)を持てと言ったが、その付き合っている人物の姓がウィルソンだと知った時、既にその身体には新しい生命が宿っており、手遅れじゃった……

 つまり、遊輔はわしの孫であると同時に、宿敵ロビン・ウィルソンの孫でもあるのじゃ。
 だからこそ、魔夜中を発現させる力を持っていても、おかしくは無い」

「おかしくは無いって言うだけで、遊輔君がそうした証拠は何も無いのでは…?
 それこそ、ロビン・ウィルソン本人が魔夜中を発現した可能性だって充分あり得えます」

 アキラの問いかけに、気水先生が返答をする。

「可能性という話だと、勿論そうね。だけど、昨日の件については遊輔君で間違いないと思うわ」

「それはどうして?」

「遊輔君は昨日、放課後になってから学校へ訪れて、旧校舎に忍び込んでいるの。

 そして、同じ日に先に旧校舎へ侵入していた、秋永君と甘瓜さんを見つけてしまい、先程のように甘瓜さんが制服のボタンを外して秋永君に詰め寄ったの。その瞬間に、外の景色が変わったわ」

「若い男女が人気の無い場所で肌を……確かにそんな場面見ちゃったら、誰でも勘違いしちゃうね。つまり、そのショッキングな光景を見て、遊輔君は異界の扉を開いてしまったと」

「状況的に、それで間違い無いと思うわ」

「ふーん、なるほどね……」

 意地悪く、アキラは横の2人をニヤニヤと見やる。秋永は慌てた様に顔を逸らし、美波ちゃんは堂々としていた。あれは傷口を見せるための行動であり、勘違いだったと気付いた今、何気に俺も気まずい……

「そういやなんで気水先生は俺の後を付けてたんだよ?」

 気まずさを逸らすように、俺は先生に疑問を投げる。しかしその質問には本人では無く、じいちゃんが答えた。

「ああそれか。気水はな、さっき優等生君が言っておったように、代々我が大神家に仕えている家系の人間でな、まあエージェントのようなものじゃ。それで学校内に先生として侵入させ、お前やロビン・ウィルソンの動向を監視させておったんじゃ。スパイみたいで格好いいじゃろ」

(いやいやいや「格好いいじゃろ」じゃ無いって!え?侵入って何?俺監視されてたの!!?)

 心の中で盛大に突っ込むが、声には出せなかった。
 というか皆「こいつ今更何言ってんの」って顔してるんだけど、知らなかったの俺だけなの?気水先生がじいちゃんに仕えてたのも、今日初めて知ったんだけど?どゆこと?気水先生も「格好いい」と言われて、心なしか照れてるように見えるしさ……

「そんな事より、その昨日の旧校舎の出来事も、皆に共有した方がいいですよね。何より、信じて貰えないかも知れないけど、話さなきゃいけない事もありますし……」

 おい秋永っ!お前が「そんな事より」とか言うんじゃねーよ!と言うかこれ以上、信じられないような話しを持って来るなよ……ッ

「そうじゃな。元より今回集まって貰ったのは、その話を皆に共有する為じゃからな」

 俺の心の声は伝わらず、すいすいと話は進んでいく。

「えっと、でしたらどこから話せばいいですかね?」

「先ずは前提として、貴方の立場を言うべきじゃ無い?」

 おずおずとした様子の秋永に、美波ちゃんがフォローを入れる。
 正直その様子に、若干俺はイラついていたが、そんなイラつきさえも秋永の話で吹き飛ばしてしまうほど、秋永の話はぶっ飛んでいた。

「ああそっか。ええと、コレが1番信じられない事だと思うんだけど……

 …実は僕、少し先の未来から飛ばされて来た人間なんだ」

 緊張した面持ちで吐き出され始めた言葉は、予想を上回る程滅茶苦茶で、今日これまでの話で1番、現実味の無いものだった。

§

 大まかに語られたその話は、秋永が実際に見聞きした体験の、ありのままだという。一周目の世界での出来事、魔夜中での攻防、八島やじいちゃんとのやりとり、美波ちゃんの母親の事や月島聖良の事、また夢を見て、何故か欧風の美波ちゃんにこの時間軸に飛ばされた事、そして始まった二週目の昨日の事、俺が眠りこけってからの旧校舎での事。

 ひと通り端的に話し、詳しい所は質問を受けながら深く説明するとの事だったが、その大まかな内容でさえ、途方もなさ過ぎて俺の脳味噌はパンク寸前だった。

 次から次へと押し付けられる情報の数々に、俺は全くついて行けていない。まるで映画でも流しているかの様に実感もリアリティも無かった。

 なのに事前情報を持つ他の皆は、こんな話を受け止めていて、それぞれの根拠の下に信じている…ように見える。

 付いていけてないのは俺一人だけ。俺だけが、また俺独りだけが、この空間の中で蚊帳の外で、口を開けないでいた。

 話の中で秋永は、俺の事を呼び捨てで呼んでいた。生徒会長の事も呼び捨てだったし、俺も秋永の事を“九十九”と下の名前で呼んでいたようだった。
 その世界で俺たちは、まるで本当の友人であるかのようで、気のおける友人なんていない“今の俺”には、並行世界の俺の事が羨ましく思えてしまう。

(何だろう、この淋しさは……)

 俺は置いて行かれた虚無の思考の中で、話にも付いて行けず、そんなことを考えていた。
 俺が欲していた物って、何だったのだろう。
 美波ちゃんからの恋愛感情?顔も知らない母親からの家族愛?友人からの親愛?
 そのどれも持たない俺の心は、今もあのぬくぬくとした部屋の中から出られないでいる。その暗い部屋の扉の向こうから、秋永達の声が聞こえるが、たった一枚の板が閉ざされているだけで、俺の世界の外側の言葉だった。

 旧校舎に纏わる異世界が、この扉を境界に外側の世界として、ただただ存在している。
 丸い物の無い無機質な部屋の中、背中の壁には現実を切り取った窓があるが、その反対、目の前の扉のある壁には窓なんてない。
 朝になれば日が差しているのはきっと背中の壁の向こうで、だけど正面の扉の向こうには、みんなの声がする。

 その声の一つが、俺に語り掛ける。

『“遊輔”はどう思う?』

 掛けられた言葉は、扉の向こうの秋永の声だった。俺の知らない、俺を呼び捨てで呼ぶ秋永。そいつが反応の鈍い俺の様子を見て、『あー…、えっと“遊輔君”はどう思うかな…?』と遠慮がちに言い換える。やはりチキンなこいつは、直ぐにおずおずと一歩引く。こちらを覗く扉は、いまだ開かない。
 しかし、そんな秋永と俺の間に入る声があった。

「なんでわざわざ言い換えるのよ」

『え、いや…だって、急に呼び捨てにしたら変かなって……』

 それは呆れたような美波ちゃんの声で、俺にとって唯一、昨日までと態度の変わらない声だった。

「別にいいじゃない。どうせこの先もこいつが居なきゃダメなんでしょ?今さら遠慮しなくていいんじゃない」

 俺が、居なきゃダメ…。美波ちゃんがそう言ってくれた……

『そう…かな……?』

『そうそう、それに僕の事もアキラって呼んでよ。さっきは君付けだったからね』

『あ、うん…分かったよ、アキラに…遊輔』

 多少強引に、生徒会長も距離を縮めようと促す。俺の名を呼ぶみんなの声は、気付けば扉のすぐそばにあった。
 思えば、その声たちはずっと壁越しに俺に向けられていた。あとは、俺が扉を開くだけ。でも、話に付いていけていないのは俺だけで、別の空間にいる異世界人はきっと俺独りで……

『ほらほら、遊輔君も九十九君を名前で呼びなよ』

「お、俺も…?」

 こくり。と、アキラが頷く。

(いいのだろうか…?そっちの空間に、俺は足を踏み出して……)

 迷い、戸惑い、一瞬だけ躊躇して、そして、俺は口を開いた。

「九十九……」

 ポツリ、と呼んだ名前は少しだけ言い難くて、もしかしたら、噛んでしまったかも知れない。だけど、そんな俺に九十九もパッと顔を輝かせて、「うんっ!」と旧友と再会したかの様な笑顔を見せた。

「それでヨシ。
 あ、それでさ、折角だから甘瓜さんの事も名前で呼んじゃおうか」

 何故かアキラが満足げに「ヨシ」と言ったかと思うと、今度はそんな事を言い出した。流石、生徒会長はコミュ強なのかもしれない。

「ちょっと、アンタ何勝手言ってるのよっ!」

「いいじゃないか。九十九君の話だと君のお母さんの甘瓜 花波さんの話が出ているし、その内ややこしくなっちゃうかもしれないだろう?」
 
「それはそうかもしれないけど…」

「僕もアキラに賛成かな、その…折角だし」

「ちょっと秋永君!?」

 九十九からの唐突な裏切りに、ばっと席を立った美波ちゃんは、その剣幕に顔を逸らした九十九を睨んだの次に、無言で俺に助けを求めて来た。

 余裕の無い美波ちゃんに助けを求められるなんて、今まででは考えられないシチュエーションだった。だが、お生憎様な事に、今回ばかりは俺も美波ちゃんの味方になれない。

「俺も、甘瓜さんじゃなくて、名前で呼びたい…。やっぱ、折角だし」

「んな!?」

「そうそう、折角だからね。
 さあ、これで3対1な訳だけど、もう決定でいいんじゃないかな?」

「あんた、後で憶えておきなさいよ。この、胡麻豆腐っ……」

 どれだけ劣勢であっても、勝気な瞳は変わらない。しかしその口元がわなわなと震えていることを、俺は見逃さなかった。

「護摩堂ですよ。というより、何か下の名前で呼ばれたくないという理由でも?」

「別に…ただ、“美波(みなみ)”で“瓜”なんて、“南瓜(カボチャ)”みたいってイジられるから嫌いなだけよ……」

「僕だって“胡麻豆腐”だの“飽きた”だの、すっごい傷ついたんですけどねえ…?」

 ぐぬぬ…と猫のように小さな手を握り締める美波ちゃん。
 追い詰められた美波ちゃんもかわいい。

「あーもーっ分かったわよ!そんなに呼びたいなら下の名前で呼べばいいじゃない!

 但し!他人に仲良さげに見られたくないから、学校内では下の名前で呼ばないこと!あと…せめて“ちゃん付け”は止めて。“さん付け”にして……」

「ええ、分かりました。九十九君も遊輔君も、それでいいでしょうか?甘瓜さんは甘くないって事で」

「うん、分かったよ美波さん」「ああ、俺もそう呼ばせてもらうよ美波さん」

 下の名前で呼べるというだけで万々歳なので、当然文句なんて一つもない。九十九も俺も即答だった。
 
「それでは、改めてよろしくお願いしますね、美波さん。
 …それにしても、どうしてちゃん付けは嫌なんです?」

「それは…その……だって、ちゃん付けはなんだか…子どもっぽいじゃない……っ」

 桃色に顔を赤らめ、だんだんと言葉尻が小さくなっていく美波ちゃん。普段大人びた雰囲気を纏う彼女が見せる、子どもみたいに拗ねた表情は反則的にかわいかった。

 聡明で妖美な美波ちゃんに、そんな美波ちゃんから一枚取るアキラ、そして、何やら俺と似たものを感じる九十九。
 皆んなでかわいい美波ちゃんを観測しながら、どうしてかやけに気楽に会話出来る彼らに、俺は家族以外で初めて、心の扉を開いた。

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11話-3について

前半は主人公の秋永九十九目線で話が展開し、前回の魔夜中脱出から現実に戻っての少しを描いております。

そして1日日付が進み、前回気水先生が言っていた通り九十九・美波ペアが大神家に赴きます。(本文では書いてませんが、本来なら知らない筈の大神家の場所にちゃんと辿り着けるか、この時九十九は試されており、その為この2周目では、事前に気水先生は大神家の場所をあえて知らせておりません)

その後、読み手の気分を変えなきゃと思い、視点を遊輔に変えておりますが、個人的には変な事しちゃったなぁと結構後悔しております。
実は五味さんの文をパロディするために、変に文を増やしてしまっているので、増やし過ぎた部分を削れば文字数が割と減ります。(学校から大神家までのシーンに関してはまるっと削っても話に影響無し)

返信

魅惑の旧校舎 11話-3

 僕らが魔夜中の校門を抜け出すと、空には厚い雲が広がっており、あの赤い満月が僕らを照らすことはなかった。
 魔夜中での時間の流れがどうなっているのかは分からないが、スマホを確認すると最終下校時刻を2時間ほど過ぎた時間であることが分かる。

「帰って…来れたんだよね……?」

 ここが魔夜中では無い事は直観的に分かっていたが、やはり不安で僕は同意を求めた。

「そうね。こんなコンクリートの場所、魔夜中には無かった。それに、何より街灯があるもの」

 美波の言葉に、改めて周りの様子を確認する。
 つい空の方ばかり気にしていたが、整備された足元も、LEDの街明かりも、遠くを走る車の音も、そのどれもが僕ら以外の人間の所在を示すものであり、ここが現実である証明だった。

 …そう、僕らは帰って来れたのだ。魔の潜む悪夢の世界“魔夜中”から。
 あの恐ろしいカボチャ男から逃げ出すことが出来たのだ。追われる恐怖は、ここにはもう、存在しない。

 だから、心の底から安堵しているのに、歓喜の声を上げたいのに、直ぐには喜べない事情が僕らにはあった……

「気水先生…、あの、大丈夫…ですか…?」

 旧校舎の校門を出てからというもの、ずっと放心状態のまま座り込んでいるのは、凰徳学園の教師、気水百香だった。
 僕も美波も、魔夜中であの子が殺される場面を既に見ている。夢の中で魔夜中へ誘われた時に、一人の少女が紅蓮の鎌に切り捨てられる姿を、それぞれ目撃していたのだ。

 だからこそ、目の前であの少女が、月島聖良が貫かれるのを見てしまっても、足がすくんでしまう程、動転しなかった。
 しかし、そんな残虐な場面を初めて、それも自身の手が届く距離で目の当たりにしてしまった気水先生の正気度は、相当大きく削られてしまったのではないだろうか……

「……もう、大丈夫よ…………
 御免なさいね。昔のことを…思い出しちゃったの……」

 弱弱しい彼女の声は、ただ衝撃を受けたというより、どこか深い悲嘆の色を滲みだしていた。

「…だけどもう大丈夫。
 私だってもう、大人なんだもの……
 そう、大丈夫……大丈夫よ…………」

 気水先生の言葉は、まるで自分自身に向けて言い聞かせているかのようだった。

「…先生……」

「あなた達、今日はもう遅いのだから、早くお家に帰りなさい。親御さんが心配してしまうでしょう。
 遊輔君はちゃんと大神邸へ送るわ。秋永君ここまでずっとおぶってくれて有難う……」

 そう言われて始めて、ずっと遊輔を背負ったままだったことを思い出した。とういうより、その背中の存在を認識して急に男子高校生一人分の重さを感じ出していた。
 …って、脱力した人間って滅茶苦茶重くない!?
 こっちの世界に戻ってから、周りをキョロキョロはしたものの、とてもこのまま走るのは無理そうに思えた。
 魔夜中にいた時にはこうも重くは感じなかったように思うのだが……、先ほどまではドーパミンがドバドバと分泌されていたとかだろうか?
 そう思ったが、運動部でもない僕には分かりようもなかった。

「気水先生もこのまま放っておける状態に見えないのだけれど?いくら大人と言っても無理は危険だし、そのラブレター男だけでも背負っていくわよ、…秋永君が」

「うぇ?!僕っ!!?」

「当り前じゃない。それともまさか、か弱い女子高生にフった男を運ばせるつもり?」

「う…それは……」

(あの…、僕今おぶって立ってるだけで足がプルプルしているんですけど……)

「それには及ばないわ、送っていくと言っても迎えを呼ぶつもりだから、だからそんな顔しなくて大丈夫よ秋永君」

 どんな表情をしていたのか、気水先生はこちらへ無理に微笑み、そう言った。

「あ…、はい……」

§

 そして僕らは、翌日の学校が終わった後に大神家へ集合することを約束し合い、それぞれの家路へと街灯に包まれた夜道を辿った。
 時間も時間だし、美波に家まで送るよと勇気を出して言ってみたのだけれど「家の場所を知られたくない」「頼りないし別にいい」と予想通り断られた。
(予想通りなので、別にへこんでなんて……へこんでなんて……)

 あの悪夢とは違う夜を歩きながら、僕は今日の長い放課後の事を一人考えていた。
 一週目の世界の記憶、それを担う双葉はいつの間にか手元から消えていた。
 赤いドレスの美波は、記憶は一部しか引き継げないと言っていたけれど、思いの外一週目の記憶の大部分が僕に残っているのが少しだけ不自然な気がした。
 もしかしたら、忘れた記憶は忘れていることさえ認識できないのかもしれない。だとするのなら、僕はとても重要なことを無自覚のまま、皆に伝え忘れているのかもしれなかった。
 気水先生は、僕の話す内容に間違いがあると言っていた。それがどうにも気がかりで、自分の記憶さえ信用できないのが、目隠しをしたまま落とし穴の傍を歩くようで恐ろしかった。

 気がかりな事と言えば、この情報の共有という選択が、本当に正しい選択であったのかどうか、今更ながら心配だった。

 あの時、彼女が語ったのは“正しい分岐”へ向かうようにという内容だった。
 だけれど僕が取った行動は、どう考えても異質で、ある種反則的な方法なのではないだろうか。

 知る筈のない情報を、知る筈のない人物にばらまくなど、この一連の出来事が一つのストーリーなのだとしたら、僕の行動は彼女の言葉を借りるのとしたら“イレギュラー”である可能性が高い。
 その結果、既に“正しい分岐”を歩むことが不可能になってしまったのだとしたら……

 しかしこの選択を取らなければ、美波は今以上に僕を警戒していただろう。もしかしたら、協力することさえ不可能な関係になっていた可能性だってある。
 どの道、喋るしかなかったのだ。どっちに転んだって“正しい分岐”へ向かっているとは思えない。
 なら、僕はどうすればよかったのだろう…?

(あれ…、でも美波は僕に向かって「託すなら貴方」だと言っていた…?)

 ふと、僕は気が付く。
 …そうだ、彼女は言ったのだ。「貴方の嘘なら簡単に見分けられるから」と…、これを言ったのは正確には二週目の美波だったが、もし一週目の美波もまた同じ考えなのだとしたら、こうなるであろうことは見越していたのではないのだろうか?
 だからこそ、これは“賭け”なのだと、彼女は言ったのかもしれない。

 つまり、“イレギュラー”を起こした上で“正しい分岐”へ向かう可能性を、彼女は夢想したのではないだろうか。
 それは、高度な数学の問題を、正攻法とは異なる、それも教科書にも書かれていない未知の途中式で解くようなものだ。しかも分岐というものが、正解への道すがらの“点”として存在しているという仮定が大前提の、不安定な賭け……

 僕の知る美波のイメージとは異なる、大胆で思い切った、とんでもない大博打。
 それに縋るしかない程に、あの時の美波の心はボロボロにすり減っていたのだ。自分というものを、自分の行ってきた全てを否定するこの結論に至ったという彼女は、一体どれだけ、世界を繰り返したのだろう。
 気丈で瀟洒(しょうしゃ)で勝気な彼女ならきっと、全ての可能性を実行した筈なのだ。何度でも、何度でも、何度でも、一つの正解を目指して、たった独りで魔夜中に立ち向かった筈なのだ。
 そして、それでも駄目だと悟り、残る最後の可能性が、僕への賭けだったのだ。

 …だったら、僕は美波の賭けを信じよう。僕が歩める道なんて、それしかないのだから。

 そう思い至ったうえで、僕は自分には何が出来るのだろうと考える。
 先ず考えるべきなのは、美波が仮定したであろう分岐のポイント。分岐点や、大げさに言えば特異点とでも呼べばいいだろうか。
 間違えてはいけないそのタイミング、そこまでの道のりや考えうる正しい選択なんかは、予め予測しておくべきだろう。

 僕の記憶の中に保存されたのは、前回の一週分の出来事だけ。
 あの世界線では、美波の母が目覚めた後に、僕と遊輔とアキラの3人が旧校舎に現れた事で、正しい道が途絶えてしまったのだと言っていた。
 ということは、あの時に旧校舎へ向かうか向かわないかの選択が分岐点だったのだろう。少なくとも、一週目の美波にとっては……

 その前の夜、赤いドレスを着た誰かの夢を見たのは僕ら3人だった。それを遊輔の家で打ち明けて、そして3人で旧校舎へ向かおうという事になったのだ。

 …あの時、「旧校舎に行ってみないか」と口火を切ったのは誰だっただろうか……?

 ふと沸いた疑問に記憶を辿ろうとしたが、光る双葉による記憶保持の穴の部分なのか、それとも僕の素の記憶力の悪さからか、そこまで細かいことは中々思い出せなかった。

 だが、よくよく考えてみると、どうして僕らがあのタイミングであの場所に向かうことが不正解であったのか、その理由もいまいちよくわからない。
 そもそも、あの時美波は魔夜中の旧校舎で何をやろうとしていたのだろう?
 赤いドレスに金色の長髪という、まるで西洋人のような恰好をしていた美波、あの格好にはどんな意味が込められていたのだろう?
 なによりあの時の女性は、本当に…美波だったのだろうか……?

 そこまで考えてみて、僕はぶんぶんと頭を振った。

 駄目だ駄目だ、今さっき美波を信じると決めたばかりじゃないか。
 まるで彼女を疑うかのような勘繰りはよそう……

(…だけど確かに、僕は彼女の事を、本当に何も知らないな……)

 彼女は何を考えていたのか、彼女がこの時期にこの学園に来たのは何故なのか、何故スマホも持たず、必要以上に他人と接点を持とうとしないのか……
 いや、今思えば美波の事だけじゃない。
 遊輔の事も、アキラの事も、僕は何も知らないのではないだろうか?

 僕が持っている情報というのも、自身で見たことと、アキラから聞いた話に、遊輔の祖父から聞いた話、それだけなのだ。つまり、半分以上が人から聞いた話だった。
 不思議なほど自然と、呼び捨てで呼び合うほどに打ち解けていたから、今まで何も思わなかったけれど、自分の事も含めて皆の事をもっと深く知れば、何かヒントがあるような、そんな気がした。

 9月も終わりの夜風は、秋風の始まりであるかのように、肌に冷たく、悪戯に草木を色付けようと走りゆく。
 その不安定な温度は季節の移ろいを僕らに知らせる。

 今背中に受けるこの風は、明日学校へ登校する際には、向かい風として僕達に吹き付けるのだろう。

 その風は僕にとって恵みであるか、試練であるか、或いは、そのどちらでもあるのか、それはきっと、僕の心持ち次第なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、僕はようやく自宅へと到着した。

§

 次の日学校へ行ってみると、美波も気水先生も昨日より前と変わらない、普段通りの生活を送っていた。

 まるで昨晩の旧校舎での出来事など無かったかのように、ごくごく普通に、いつも通りの高嶺の花と、いつも通りの真面目で身だしなみに厳しい先生として、学校生活を過ごしていた。
 ちなみに遊輔の席は相変わらず空席のままで、やはりこちらも普段と変わりなかった。

 ただ、今朝僕の下駄箱には『教室では私に話しかけないで』とのお達しがあり、差出人の名前はなかったものの、美しく丁寧でありつつもどこか女性らしさのある丸い文字はきっと、美波の文字だろうと思った。
 第三者に見られても面倒ごとが起きないようにだろうが、その甘さのない冷たさが、いかにも彼女らしい。

 ちなみにそのメモがピンク色のメモ用紙であったために、文字を見るまでは心が浮足立ったのは健全なる男子高校生の性なので仕方ないのだが、もし心が揺れることを予期してこんな女の子らしい色のメモを用意したのであれば、彼女は間違いなく小悪魔だろう。
 もしかするとからかわれている?そんな悪くない妄想がふっとわいて、自分はもしかしたらマゾかもしれないと、少しだけ思った。

 そういえば、昨晩はまた夢を見ないかと冷や冷やしたが、僕はまたあの鐘の音を聞くこと無く、無事に朝日を迎えた。
 普段の運動不足がたたってか、両足に軽い筋肉痛はあったけれど、新たな精神的疲労は何もなかった。

 それは、放課後にようやく話しかけられた美波も同じだったらしく、思えば1週目の世界でも、毎日魔夜中の夢を見たわけではなかったなと思う。一体どういう法則で、僕らは魔夜中に呼ばれるのだろう?

 気水先生は、僕らを呼ぶのは校長か、側近の八島か、もしくは魔夜中そのものではないかと言っていたが……

 僕らはチャイムと共に下校する生徒に紛れつつ、大神家へと向かった。家の場所を知っている僕が先を歩いて、少し距離を開けて美波が後についてきていた。
 隣を歩いてくれた方が会話もできるのだが、「たまたま用事のある方向が同じなだけ」という体を取っているのだろう。魔夜中では並んで歩いていたけれど、こっちでは一緒に歩いているところを絶対に他人に見られたくないという、鉄の意志を感じる。

 そうこうしているうちに、僕らは遊輔の家にまで到着した。
 一周目の時にもこの家には来ていたのだけれど、その時美波は、長らく意識のなかった母が目覚めるのを見守りに、病院へ行っていたので、彼女とこの家に来るのは初めてだった。

 名家にしては割と普通な住宅の前で、僕はインターホンを押すのを少しためらっていた。どういう風に言って家へ上がればいいのかよくわからないのだ。
 僕らは確かに同じクラスに在籍しているのだけれど、かと言って元々仲がいい訳じゃなかった。美波は他人と関りを持ちたがらないし、僕はクラスの中では積極的な方じゃないし、遊輔も人と違う目の色を気にしてか長めの前髪で視線を隠しがちで、それぞれがそれぞれで孤立しがちだった。
 一週目の世界線では、アキラがすいすいと心の壁を乗り越えていたから、その場の全員がすぐ打ち解けていたけれど、ここに彼はいないし、思い返してみれば、今のタイミングなら遊輔は僕の事を恋敵だと絶賛勘違い中なのではないだろうか。

 ここまで来ておいて、考えれば考える程インターホンが押しにくい。「何しに来やがった、お前」と掴みかかられたらどうしよう…
 遊輔は普段は穏やかだが、美波が関わると獣のように止まらない。そして、来訪者への対応に彼が出るか、他の家の者が出るかはわからない。彼にプリントを届けに来たと偽る手もあったが、そうすると「プリントだけ置いて帰れ」と言われた時に地獄を見るかもしれない……

 そんなことを考えていると、突然背後から冷たい念を感じた。びくりと振り返った僕を、一切の笑みも浮かべず美波が睨んでいる。
 「どうしたのよ?そんなところで突っ立って」とでも言いたげな視線が刺さる。僕の葛藤など気に留める様子はない。物言わぬ玄関は依然閉じたまま待ち構えていて、美波は「早くしてよ」と、目で訴えかけながら動かない。

 万事休す。もう逃げられないことを悟った僕は、美波の無言の後押しで大人しく玄関チャイムを引き気味に押した。

 「はい、どなたですか」そう対応したのは聞き覚えのある老人の声だった。どうやら、インターホンに出たのは遊輔ではなく祖父の遊人のようだった。僕はさっきまでの葛藤が無意味に終わり、ふらっと肩の力が抜けた。
 遊輔君のクラスメイトですと答えると、「おお、気水から聞いておる。今開けるから待っておれ」と返事があり、しばらくしたら解錠音がして、玄関が開いた。

§

 …俺は部屋で蹲りながら時計を見ると、デジタル時計の四角い画面にはPM4:44と表示されていた。

(ああ…ほんと、なんかもう嫌になる……)

 時計の数字は二日連続で不吉なゾロ目。今頃、外では放課後の学生がそれぞれの岐路を道草を食いながら歩いているか、部活に勤しんで青春を謳歌しているのだろう。そんな想像をしてしまい、惨めになる。心躍る青春なんて終わってしまった俺とは、まるで違い過ぎていて、羨ましくて、妬ましくて、どうしようもなく…、寂しかった。

 そういえば、昨日もこの時間にこんな悲壮感を抱いていた。彼女、甘瓜美波にラブレターを破かれた時の事を思い出し、いつものように意気消沈していた。だけど、思い立ったようにあの旧校舎へと走り出し、彼女を助けようとその場所へと向かったのだった。
 それは、その日夢で彼女が怪物に襲われかける夢を見たからで、その悪夢はいやに現実味を帯びていて、ただの夢だとは思えなかった為に、いてもたってもいられなかったのだ。その夢の内容はうろ覚えだったが、今思い返せばあの時の夢には彼女以外の誰かもいたような気がする。やはりうろ覚えだから、そんな事は忘れていたけれど。

 あのリアルな夢、今日はあの悪夢を見ていなかったけれど、一体あれはなんだったんだろう。

 まあ、俺にとっての本当の悪夢は、いつだって夢の中ではなく現実の方なんだが……
 美波ちゃんへの、奥手な俺の精一杯の勇気が破り捨てられた事、昨日の美波ちゃんとクスメイトの秋永九十九の逢引を目撃してしまった事、そんな二度にも渡る失恋であったり、学校の裏サイトやSNS上での『ヤブレター』ネタや、昨日の夕方の、学校への逆走をネタにした『オオカミダッシュ』なんかがショート動画で拡散されていたり、そんな思い通りにならないこの世界が、まるで俺に居場所などないのだと訴えかけているようで自暴自棄になってしまいそうになる。

 俺が憧れる前髪の長いあの歌手は、失恋を描いた自身の代表曲の中で、「雨が降り 止むまでは帰れない」と歌っていた。
 その雨が物理的なものなのか、或いは失恋の涙を指すのなのだとして、その雨が止んだところで、今の俺には最早学校内に帰る場所なんて無かった。
 現に俺が所属していたクラスやオカルト研究部の部員は、誰一人として引きこもった俺の元に、メールひとつ寄越しやしない。
 だから一方で、「夢ならば どれ程よかったでしょう」という、あの歌いだしのフレーズは、痛いほどに頭の中で反響し続けていた。

 それは、昨日の旧校舎で思いもしない場面を目撃した時にも強く願ったことだった。彼女が誰かのものになっている現実なんて、夢であってほしい。いや、夢であってくれと、強く強く願望する自分が確かに存在した。夢の世界を夢想することで、現実逃避がしたかったのかもしれない。胸の奥から湧き上がる激情を吐き出したくて、叫び出したくて、吠えたくて、この世界ごと夢に書き換えてしまいたかった。

 鳴るはずの無い鐘の音が響き、まるで自分の体が別の何かに変化するような感覚がしたから、本当にその通りになったのかと思ったのに……
 その後ひどい眠気に襲われ、眠りこけってしまったから、あの時の感覚も夢の続きだったのだろう。どこからどこまでが夢だったのかは、もう頭がぐちゃぐちゃして分からないけれど。

 あの後目を覚ました時にはもう朝で、制服を着たまま自分の部屋のベットで眠っていた。もしかしたら旧校舎に行ったことさえ夢なのではないかと思っていたが、じいちゃんが言うには、学校の旧校舎内で倒れているところを、先生にここまで送ってもらったのだという。
 
 スマホを開けばSNSで全力疾走する俺のモノマネショート動画が流行っていた。中には「美波ちゅあーん!ヤブレター読んで~!」と叫びながら走り去るという、身に覚えのない悪意に塗れたものまであり、悪ふざけが過ぎるその盛り上がりが、やはり昨日の事実は悪夢のような現実なのだと、刺すように突き付けてくる。

 だから俺は今日も、学校に行けないでいた。
 こんなにも笑いのネタにされているのだ。どんな顔をして学校へ行けばいいというのだ。

 昨日はあんなにも活力に沸いていた自分を送った祖父も父も、今日になって、また意気消沈している俺に対して「学校へは行かないのか」とは言わない。
 それは俺の様子を見ての気遣いなのかも知れなかったが、もしかすると俺に対して家族は無関心なんじゃないかと、少し不安になる。

 父は朝からなにか余裕がないというか、殺気立っているようにさえ見えた。昨日俺が出て行っている間か眠りこけっている間に、祖父と何かを話していたようで、事情を知っているであろう祖父は父に対して「そう感情的になりすぎるな、急いては事を仕損じるぞ」と語りかけており、自分の知らないところで家族の中でも置いてきぼりにされているような感覚がした。

 実際、二人とも俺に何かを隠しているということはなんとなくわかる。そしてその隠しているものにも心当たりがある。

 ずっとずっと、気になっていたこと。この家のおかしなところ…やけに丸いものを置かないこと、男ばかりの家系であること、イギリス人だという俺を産んで直ぐに死んだ母親のこと、この金色の瞳のこと、魅惑的な匂いに衝動が抑えられないこと……

 これらについて、二人は何も教えてくれない。頑に隠そうとしている。それが、やはり寂しい。

 今にして思えば、俺が高校に進学してオカルト研究部に入ったのだって、そんな不可解だらけの自分の境遇を、少しでも解き明かそうとしたからだったのだと思う。なんと言えばいいのか、俺の身の回りの不可解は、そんなオカルトなものが原因のような気がしたのだ。我ながら、馬鹿馬鹿しい考えだけど。

 そんなことに思いを巡らせていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。
 俺が返事をしようとしたら、ガチャリとそのドアは開いて、ひょこっと祖父が顔を覗かせた。

「おお、遊輔。起きていたか」

 祖父が俺の部屋に来るのも珍しい。昨日自分の部屋に呼んだのといい、どういった風の吹き回しだろう。

「どうしたのじいちゃん?」

「そう言えば言い忘れていたんだがな、今日家に客人が来るんじゃが、お前にも立ち会ってほしい」

「え、客人?」

 祖父への客人はそんな珍しいことじゃないけど、俺も同席するなんて……、もしかして担任の先生が学校に来いって説得に来たとか…?

 ふつーに憂鬱だ。俺が露骨に嫌そうな顔をすると、じいちゃんは悪戯にカカカと笑い、

「まあそんな身構えんでも、お前さんも喜ぶような客人じゃよ」

 祖父の表情は柔らかいが、今朝父と話していた時のような、妙な真剣さがある。その面持ちには、俺に対して必ず同席するようにという強制さがあった。

「ということじゃから、わしが呼んだら客間に来るようにな」

「いや俺その人に会うなんて一言も…」

 言い終わるよりも先にばたんとドアは閉められてしまい、やはりカカカと笑いながら、祖父は引っ込んでいってしまった。階段を踏む音が徐々に小さくなっていく。

(なんなんだよ、急に……)

 よくわからない祖父に、心の中で反抗するが、怒ると怖いので口には出せなかった。

(…って、誰が来るのかも結局わかんないし……)

 俺は再びベッドに倒れ、深々と溜息を吐いた。

§

 祖父が部屋に出て暫くして、玄関のチャイムが鳴った。

 インターフォンには祖父が対応し、ガチャリと玄関が開く音がする。

 出来れば誰とも会いたくない俺は、部屋の窓もドアも硬く閉ざしている為、外での話し声は聞こえて来ない。

 しかし、玄関が開き「お邪魔します」という声が聞こえた途端、ゾワッと心が揺さぶられるような感覚がした。

 ……匂いがする。

 部屋のドアを開けるまでも無く判る。この甘く魅惑的な香りは、“彼女”の匂いだ。
 それに先程の「お邪魔します」の声、他の声も混じっていたが、間違いなく聞き覚えのある、世界一美しい声だった。

(そんな…!?どうして美波ちゃんが俺の家に……ッ?)

 俺はベッドから跳ね上がり、直ぐ様部屋を飛び出した。
 そして、階段の下から聞こえる声の元に、恐る恐る足を踏み出す。

 昨日と同じく衝動的な心は今にも走り出しそうだった。だが、身体の方は緊張の為かガチガチに強張っている。
 当然だ。我を忘れる程好きな相手であるだけでなく、既に2回も失恋した相手なのだ。また自分が深く傷付く事だって、大いにあり得る。

 下の階からドアの開閉音がした。おそらく、訪問者は客間に通されたのだろう。
 階段の先から、「おーい遊輔、お前も降りて来なさい」と俺を呼ぶ祖父の声がする。

 その呼び声は俺が下へ降りる理由になったが、それでもやはり俺はビビりにビビりながらしか進めなかった。昨日のようにこの階段を駆け降りる事も、ましてや跳んで降りる事も今の俺には出来なかった。まるで初めて入る洞窟を進むかのように、壁や屋根に囲まれた通路を、先の見えない恐怖に怯えながらどうにか進んだ。そしてやっと客間の前までたどり着くと、ゲームでもこんなに慎重なことなど無ない程ゆっくり、複数の声の聞こえる客間のドアを開いた。

 果たしてそこには、俺の憧れる美波ちゃんと……、クラスメイトの秋永九十九がいた。

§

「あ!遊輔…君。えっと、久しぶり…かな?いや昨日ぶり?」

「昨日ぶりでいいわよ、そいつから見ても」

(……は?)

 俺は硬直した。

(なんで…なんで、秋永が……?)

 手の力が抜けて、握っていたドアノブから滑り落ちる。美波ちゃんが我が家に来たのも衝撃的だったが、昨日俺から彼女を奪った男まで俺の目の前にいるのは、もはや訳が分からない。
 混乱し、錯綜し、頭が脳味噌ごと吹き飛ばされたかのように思考が虚脱した。そして、訳の分からないままワナワナと震えだし、震えた感情から沸騰するように、煙のようなどす黒い怒りが噴き上がってきた。

 …なんで、なんでなんだ?なんでよりにもよって、一番会いたくない奴が今目の前にいるんだよ!?何をしたらこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?いったい何の用事でここに来やがった?わざわざ俺に幸せな報告でもしに来たのか?じいちゃんにアポイントまで取って?どんな嫌がらせだよッ!?お前らもっ、ネット上で騒ぎ立てるあいつらもっ、皆寄ってたかって俺をどこまでも追い詰める…ッ、俺が何をしたっていうんだよッ!?ふざけんなよ?ふっざけんなよ!!?

 募り募った理不尽が今にも崩れそうだった。俺は何か犯罪を犯したわけじゃない。モノを盗みも、人を傷付けもしていない。確かに学生の身でありながら学び舎から逃げてはいるが、誰かを不幸に陥れるような悪行は何もしていない…筈なんだ。なのに、俺のことをいつまでも笑いものにし口撃するあいつらや、想い人を奪ったこいつは平然と明るい昼間を歩き、誰かが隣にいて、楽しそうに笑っている……
 俺だけが、俺独りだけが、いつまでも標的にされて、嗤われて、拒まれて、奪われて、誰にも必要ともされなくて、惨めで、淋しくて、ツライのだ……ッ

 昨日の出来事からある程度の時間が経っていたのなら、もっと冷静に受け止められただろう。あのぬくぬくとした居心地のいい布団中で、心の傷口にカサブタができるのを待っていたのなら、こんなにも感情の血液が吹き上がる事はなかっただろう。
 でも、昨日の今日で続けざまに傷口がえぐられているのだ。心を落ち着かせることも、現実から目を背けることさえも許されず、増え続ける無数の手で首を何重にも絞められるのだ。

(なんで?どうして?ふざけるなよ?ふざけんなッ!?)

 なんで、なんで、と思う気持ちが無限に湧き上がっては暴走し、獣のように体中の毛が逆立つのを感じた。

 とめどなく激情が押し寄せてきて抑えられなかった。暴れ出す感情は火山のように熱く、津波のようにこの身さえも呑み込んでしまいそうで、コントロールなんてぶっ壊れてしまいそうだった。

 部屋の奥から香る美波ちゃんのあの匂いが、頭の中をぐるぐると掻き回して、思考が纏まらず、嵐のように暴れ回った。

 そして変貌する。寒くもないのに体が震え、目の前のすべてを切り裂かんばかりに爪が鋭く尖る。
 瞳が熱くなって、血肉を欲するように牙が隆起して、そして、そして……

「こら遊輔っ!!!」

 ベシンっ!と祖父が俺の後頭部を思いきり叩いた。

「うっ…」

 かなり強めに叩かれたのか、目の前にチカチカと火花が飛んで、クラリと脳味噌が揺れた。
 そのまま前に倒れかけて膝を付き、視線が下がって、視界からクラスメイトの二人が机の天板に消えた。意識が揺らいだのと後頭部の痛みで、押し寄せていた感情が塞がれたのか、うなだれると共に息を吐いたら、冷たい空気が体内に流入して頭が冷えた。

「全く…、客人に襲い掛かるつもりか。しばらく大人しく頭を冷やしておれ」

 急に暴力を振るわれたかと思えば、祖父は俺の事を𠮟りつけてきた。

「びっくりした…って結構思いきり叩かれていたけど、大丈夫?」

 対して秋永の声色は本当にこちらを気遣っているかのようで、まるで俺の事を苦しめようとなんて思ってなさそうだった。もはやこいつが何を考えているのかが分からなくて、余計に頭が混乱する。

「本当に大丈夫なの?他の部屋で休ませておいた方がいいんじゃない?」

 美波ちゃんも、少なくとも字面では俺を心配しているように聞こえる。何故かその声色には、不信が滲んでいるようにも感じたが。

「もしも暴走するようなら、その方が良いじゃろうな。
 おい、遊輔。そうした方がいいか?」

 フーフーと肩で息をする俺に、じいちゃんが語り掛ける。俺は訳も分からないまま「いや、その必要は無い」と答え、頭を軽く押さえながらゆっくりと立ち上がった。

「そうか、ならここに座りなさい」

 促されるまま祖父の隣の席に座る。正面にはテーブルをはさんで美波ちゃんと秋永が座っており、二人が隣同士なのが若干癪だった。それが表情に出ていたのか、少し俯いたまま前髪越しに秋永を睨みつけると、奴はその視線に気づいて、隣の美波ちゃんとの距離を開けた。
 ふん。今までコンプレックスだったこの金色の瞳も、威嚇には使えるのかもしれない。

 そう思っていたら、どこか気まずそうに秋永がこちらに声を掛ける。

「えっと…、遊輔君。あのね。僕と甘瓜さんは、そんな関係じゃないから。うーんと、話せば長くなるけど……」

 どう話したものかと考えながら喋っているのだろう。そういえば、秋永はクラスでもいつも遠慮がちと言うか、イケメンの癖にどこかヘタレっぽい奴だった。
その小型草食動物らしいヘタレっぽさが、影ながら女子にはウケていたようだが。
 ……まあヘタレに関しては俺も人の事を言えないけど。

 そんな説明下手な秋永に業を煮やした美波ちゃんが、

「あなたとは付き合う気はない。もちろん、今後いっさい誰とも付き合う気はない。よって、今現在も、秋永九十九君とは、付き合ってない。
 秋永君は、ただの有益なクラスメートだから。ゲスの勘ぐりはやめてね。」

 そう、キッパリと言い放った。

 俺はその言葉にポカンとしてしまって、そして、なんだかずっと空回りしていた自分に気付いて恥ずかしくなってしまい、そんな気持ちをうやむやにしたくて、

「もういいよ。分かったよ」と口をついてしまった。

 内心ではどう思っているのか、自分でも分からない。まだ頭の中はぐちゃぐちゃだった。だけど、強がりのようでやはり逃げてる、格好悪い言葉だった。
 
「それで?結局アンタらは何をしにウチへ来たんだよ」

 俺は虚栄を張るようにキュッと拳を握り、せめて会話の主導権は俺が握ってやるぞとばかりに、無理矢理話を進める。じいちゃんに何の用事があるのか、知らないのは自分だけのくせに。

「まあそう急くでない。まだ役者も揃っておらんからな」

「役者?一体何の話なんだよ……?」

 じいちゃんは変に含みのある言い方で俺を焦らしてくる。やはり俺だけが蚊帳の外だ。

 そう思っていたら、玄関の方からピンポンとチャイムの音がした。

「おお、早速来よったな」

 じいちゃんが腰を浮かせて玄関へと向かった。インターフォンに出ないあたり、誰が来たのかは分かっているようだった。

 暫くして「お邪魔します」と丁寧な言葉使いでやって来たのは、俺にとって目の前の秋永美波ペアよりもさらに予想の付かない二人組だった。

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いい加減怒られてしまいましたので、キリが悪いですが、途中経過を分割して(長くなり過ぎているので…)一旦上げさせて頂きます

途中経過が中々上げれていなかったのは、キリが悪い(場面の場所的な意味での転換まで行けていない)のと、ホラー要素が薄過ぎるのが主な理由です。

元書いていた部分を11話-1、11話-2として、11話-3〜5を上げさせて頂きますorz

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皆様 こんばんは。大変ご無沙汰しております。随分長い間こちらを覗いていませんでした。不徳の致すところです。
ウィルスや戦争と、命を脅かす事が増え、世の中の空気がますます悪くなる中、こうして今でも、交流を続けていられるのは奇跡かも知れません。それも、各々が優しさを以って、一つの物語について思いを交わし合う。
なんか、安っぽい感傷的な文になってしまったので、この辺で…どうか皆様、お体ご自愛しながら、乗り越えていきましょう。息抜きしながら( ・▽・)⊃🍰

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前回の提案撤回します。
お目に触れた方々の嘆息が聞こえてきたような気がします。
この期に及んで、新たな試みを模索するなんて、我ながら思慮と配慮のないことでした。
お詫び申し上げます。
ふたば様へ、投稿を急かせるようなコメントを挙げてしまい申し訳ございませんでした。
ふたば様の作品の完成を待つことにいたします。
ふたば様、そして皆々様へ。
前回も申し上げましたが、くれぐれもお身体だけはお大事になさってください。
一向に終息の兆しの見えない新型ウィルス感染症。
もはや、これ以上のホラーはないですね。
今後は、残された時間と命を大切にしたいと思います。

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@ねこじろう さんお優しい言葉有難う御座います( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )

私は元々3人称視点で書くのが苦手で、ずっと誰かしらの一人称視点で書いているのですが、いつも主人公の秋永君目線なのは飽きるかなと、遊輔君目線に一度切り替えた所、何故か遊輔君のマインドをフォローするカウンセラーになりました。年頃のナイーブ男子高校生って面倒ですね。シーンが怖くならなくて苦戦しております_( :⁍ 」 )_

春は双葉が元気な季節なので、私も元気です。
猫次郎さんの方こそ、体調にお気を付けてお過ごし下さいませ🌱

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