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 金玉とは、キンタマではなくカネダマと呼ぶ。これは主に関東や中部地方に伝わるもので、妖怪の一種といっても、それは生きているものではなく、物体的なものと考えた方が良さそうである。ちなみに、金玉は英語でGolden ball(金色の玉)やBall lighting(輝いている玉)、Luminous ball(輝る玉)などと言われている。あえて英語訳を出したのは、この金玉、実は日本だけでなく、世界的にも有名な目撃談や証言があるためである。
 まずは日本での記録を見てみたい。まず、金玉らしきものが初めて登場する文献は江戸時代に遡る。『南総里見八犬伝』などで有名な滝沢馬琴ら、江戸時代後期の知識人らがまとめた奇談集『兎園小説』である。ここには、文政8年(1825年)に現在の千葉県に落ちた金玉の例が記されている。それによると「ある農民が早朝の田んぼを見まわっていると、晴天にもかかわらず雷鳴のような音が聞こえ、それと同時に何かが空から落ちてきた。それは鶏の卵ほどの玉で、これこそ金霊(金玉)だろうと一家の宝物にしたという」という話が伝わっている。
 昭和初期に刊行された幾つかの論文や本によれば、この100年程の間にも金玉の目撃例は絶えない。例えば、東京都足立区や千葉県印旛郡川上町等での目撃例がある。静岡県沼津地方に伝わる話では、「夜道を歩いていると手毬ほどの赤い光の玉となって足元に転がって来て、家へ持ち帰って床の間に置くと、一代で大金持ちになれた」などと解説する研究書もある。
 一方、金玉は海外においてもその目撃談や伝承例は決して少なくない。1960年代に出版された物理学関係の雑誌によれば、世界人口の約5%が金玉を目撃したことがあるとしており、また実際の報告書やレポート数は10,000以上存在すると言われている。(なお、金玉の調査が、物理学者によって為されていることは興味深いが、この件については紙幅の関係上省略する。)
 海外における金玉の初見は、おそらく16世紀の英国であろう。1590年代後半、とある教会にサッカーボールのような黒い物体が突然、空から降ってきた話が記録されている。その物体は、壁にぶつかったと思えば、音もなく砕けて消えたという。そしてその直後、教会は、猛烈な風と落雷に見舞われたと記録されている。
 英国ではその後、17世紀から19世紀にかけても同じような目撃談がいくつもあるが、現在においてさえ目撃例が絶えていない。おそらく最新のものと思われる目撃談は、英国ウィルトシャー州で2012年3月に目撃されたものだろう。目撃者はお昼頃、ウィルトシャー州の長閑な畑道を歩いていた。すると、600メートルから700メートルほど離れたところに、光り輝く丸い物体が落ちていくのが見えたという。物体は薄い雲と霧のようなものに包まれていたらしい。大きさは目測することが出来なかったという。カメラで撮影しようとしたところ物体は消えてなくなってしまったようである。 
 この目撃者の後日談が興味深い。彼によると、ウィルトシャー州の人々にとって金玉は珍しいことではないという。さらに、ウィルトシャー州の人々はこの金玉が「サークル(日本で言うミステリーサークル)」を作っている、とまで話しているらしい。真相はもちろん定かではないが、金玉とミステリーサークルには何かつながりがあるのかもしれない。
 最後に、金玉が表象するものについて記し、本稿を終えたい。日本においては、富をもたらすもの等と考えられているが、世界においては一定した解釈が存在しない。ある研究者によると、金玉は古代インカ帝国(マチュピチュ)に関連したものではないかとの仮説を提示するものもいれば、日本とは対照的に金玉は害や悪いことを示唆するもの、と捉えられている場合もある。